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品薄続く「獺祭」、増産のカギは“クラウド”?(2/2 ページ)

知名度の向上とともに品薄状態が続いている、山口の銘酒「獺祭」。品薄の理由は原料である酒造好適米「山田錦」が不足しているためだ。しかし今、国の政策やITの力によって、獺祭の生産量が大きく増えようとしている。

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データ重視、増産のカギは“クラウド”にあり

 旭酒造では、山田錦を栽培する農家を増やすと同時に、品質や収穫量の向上にも取り組んでいる。その1つが富士通の食・農クラウドサービス「Akisai(秋彩)」の導入だ。「別件で富士通の講演会に参加させていただいた際に、偶然このサービスの話を聞き、導入を決めた」(桜井氏)という。

 Akisaiは農地での作業データや気象などの環境データ、生育データなどを収集し、それらを経営、生産、品質などの軸で分析して農業経営に活用するサービスだ。日々の作業実績や生育の様子を生産者が記録するほか、農地に設置されたセンサーで気温、湿度、土壌温度、土壌水分、EC(電気伝導度)値を1時間ごとに取得したり、定点カメラで生育画像を毎日撮影したりする。

 集まったデータはクラウド上に蓄積され、担当者が分析作業を行う。栽培方法や温度、肥料の量などを調節し、品質や収穫量の向上を目指す。Akisaiを利用することで、栽培実績を数値として記録できるほか、契約農家間でデータを共有できるようになるのが大きなメリットという。データ重視の酒造りを行う旭酒造らしいアプローチだ。

photo 富士通の食・農クラウドサービス「Akisai(秋彩)」。農地に設置されたセンサーで気温、湿度、土壌温度、土壌水分などのデータを取得したり、定点カメラで生育画像を毎日撮影したりする

 「他のビジネスから見れば、農業っておかしなところがあるんです。知識の蓄積や活用が行われていない。例えば『今年は冷夏だからダメだった』と言われても、本来なら打撃を受ける前に対策を練らなければいけませんよね。逆に、暑かったから品質が上がったという話も同じ。要するに“何をしたらどうなる”ということを忘れてしまうから、別の機会に生かせないのです」(桜井氏)

photo 旭酒造の新社屋。全長60メートル、12階建てで上から米がずっと蒸されて麹になって途中で発酵して下がっていく酒蔵となる。これにより獺祭の生産能力は大きく上がるという

 こうした取り組みが実を結び、2014年度の山田錦の収穫量は38万俵から48万俵までに増えた。この増産に桜井氏も驚いたという。「取り組みを始めたときに『60万俵の山田錦を安定的に調達したい』と目標を立てましたが、実は正直なところ、60万俵は無理だと思っていました。しかし、最近では60万俵もいけるんじゃないかと考えを改めました」

 最近ではニューヨークやパリなど世界の名だたる名店でも獺祭がメニューに入るようになった。1人でも多くの人に『獺祭』を味わってもらうこと。それが旭酒造の長きにわたる“挑戦”である。

 「酒を作る限りは、結局のところお客様に飲んでもらわないといけない。幻の酒ではダメなのです。いくら美味しくても少ししか作らなければ、結局は日本酒の未来へとつなぐことができない。だからこそ、大量生産を目指しているのです」(桜井氏)

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