ITの力で“漆黒”の質感を再現 NECは「漆プラスチック」をどう開発したか(1/2 ページ)
日本の伝統工芸品、漆器の質感や美しさを再現するバイオプラスチックをNECが開発。その裏には、“漆黒”の色合いや質感をどう数値化するか、という大きなチャレンジがあった。
400年以上前に、欧米の貴族を魅了した「漆文化」を再び世界へ――。
NECと京都工芸繊維大学は8月17日、非食用植物が原料の「セルロース樹脂」を使い、漆器の色合いを表現したバイオプラスチックを開発したと発表した。デザイン性という新たな価値を加え、バイオプラスチックの一層の普及を目指していくという。
今回開発したプラスチックに使用しているセルロース樹脂は、わらや木材、カシューナッツの殻などに含まれる繊維を主成分としている。石油からプラスチックを生成する場合と比べて、二酸化炭素の排出量や環境への負荷が少ないことからニーズが高まっているというが、それでも課題は残っているという。
同日行われた記者発表会では、同社IoTデバイス研究所 所長の津村聡一氏が「容器や包装といった汎用製品に関しては、利用が拡大しているものの、電子機器や自動車といった耐久製品については、環境対応や耐久性(耐熱性や耐水性など)だけではコスト高の割に合わないのが現状」と新素材開発の背景を説明した。
そこでNECが目を付けたのが“装飾性”だ。欧米のメーカーのデザイン担当者などを中心に市場調査を行ったところ、日本の伝統工芸品である漆器の色合い(漆ブラック)が高い評価を得ていることが分かり、開発を始めた。2020年に向け、日本特有の素材として認知させるよう展開するとしている。
新たなバイオプラスチックの開発には、京都工芸繊維大学の伝統みらい教育研究センターも参加。漆芸家の下出祐太郎氏が、透明樹脂版に漆を塗って作成したモデルを基に、漆器独特の“艶”における光の反射特性などを科学的に解析した。この解析結果から、漆ブラックの光沢や明度を再現するために、樹脂に添加する成分の配合を行ったという。
「私たちは匠の技術を“暗黙知”から“形式知”にすることを目標としています。下出さんの感覚や漆の黒をどう数値化するかが課題でした。解析の結果、艶漆塗り面は角度によって鋭く明度が変化することが分かり、その特徴に近似する関数を特定できました」(京都工芸繊維大学 伝統みらい教育研究センター長 濱田秦以氏)
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