1年半でシステム刷新のクックパッド、怒濤の「5並列プロジェクト」に見る“世界で勝つためのシステム設計”:CIOへの道(2/4 ページ)
海外展開を視野に入れ、“世界で勝つためのシステム構築“に取り組むことになったクックパッド。海外企業を参考にプロジェクトを進める中、日本企業のシステムとそれを支える組織との間に大きな差があることを認識した同社は、どう動いたのか。また、分散と分断が進み、Excel職人が手作業で情報を連携している状態から、どのようにして統合された一貫性のあるシステムに移行したのか――。怒濤のプロジェクトの全容が対談で明らかに。
どんなシステムが「グローバルで勝てる」のか
白川氏 この状況を、どのように変えていったのですか?
中野氏 とにかくデータとプロセスが分断されている現状をなんとかしないといけない。このまま海外に出ていっても、組織もシステムもビジネスプロセスもばらばらのままで、迅速な経営判断につながる情報が得られない。そもそも非常に基本的なデータが信用できない。そのような状態では、海外展開をしてもスケールしないと思ったのですね。まず土台と柱を直さないといけない。
そこで、どうしたらいいか考えるために、幾つかの成功している外資系企業に社内システムの構成を聞きに行きました。その結果、グローバル経営に成功している企業の共通項のようなものが見えてきたのです。
白川氏 システム構成の面でも何か共通するものがあったのですか?
中野氏 はい。それをお手本にしながら、約1年半かけてシステム構成をこのように変えてきました。
白川氏 かなりすっきりしましたね。
中野氏 海外企業のシステムの特徴はそもそもシステム構成がかなりシンプルなのですよ。企業の大きさとしては10倍以上の差があるのに、システムの数はうちの方が多いのではないか……とショックを受けました。自分たちの現状とは根本的にシステムの作りが違うことが分かったのです。
システム投資の方針も、各領域でデファクトスタンダードのシステムを組み合わせて使うようなやり方を徹底しているように感じました。組み合わせながらもシステム領域を細分化し過ぎず、粒度がそれなりの大きさなのもポイントかなと。人事・会計・SFA・CRMなど割と大きな分野でシステムを当て込んでいるように見えました。
それを踏まえて「自分たちがどうするか」を考えて、とにかく「統合と連携」を全面に押して進めることを決めました。まずはシステムの統廃合です。複雑性を減らさないといけない。そして、システム間をつなぐ。そのやり方も標準化してシンプルにする。これまでは、人事部門の中でも給与と評価、採用でそれぞれ別々のパッケージを導入していましたが、人事と会計は全てWorkdayというERPクラウドサービスで統合することに決めました。
ただ、ERPを導入しても外部システムとのデータ連携は必須でした。そこで連携の標準化です。それまでの「ぬくもりのある手作業」に代えて、Informaticaのデータ連携を導入しました。InformaticaはPower Centerというオンプレミスのソリューションが国内では定番なのですが、クックパッドはクラウドのソリューションを選びました。これも本格的な全面導入事例は国内では少なくて大変でした。データ連携は地味ですがキモでしたね。
アカウント管理も、システムごとにバラバラにアカウント管理をしていたのを統合する必要がありました。セキュリティも担保できませんし、アカウント管理が煩雑で無駄が多い。ダブルメンテ地獄ですね。そこで、社員・組織マスターを整理して、全てをActive Directory・Azure Active Directoryで集中管理し、シングルサインオンをする仕組みを作り上げました。
あとは、管理者不在で手が付けられなくなっていたSalesforceを再導入して、データ連携でつなぐところもやりましたね。SalesforceやServiceNowのようなシステムは、単機能アプリケーションというよりもプラットフォームと捉えるべきだと思います。汎用性が高い分、構築・運用するノウハウが必要で、然るべき体制が必要なのです。これを無視して放置したり、全てをアウトソースしたりするとブラックボックス化して問題を起こします。「簡単にできます!」という言葉をうのみにして導入すると火傷しますね(笑)。
現状はこれらの土台がようやく完成した段階で、これからさらに細かい部分を詰めていくところです。まずは土台と柱(システム・データ統合)を直し、これから建物と内装(プロセス効率化・データ活用)を整備していくイメージです。
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