最高峰スピーカーの実力を引き出す――マランツの小型アンプ「HD-AMP1」:山本浩司の「アレを観るならぜひコレで!」(2/2 ページ)
マランツの「HD-AMP1」は、幅304mmのコンパクトなUSB-DAC内蔵プリメインアンプだが、その実力を侮れない。B&Wの高級スピーカーをつないでみたところ、その実力をあっさりと引き出した。
驚きのリスニング体験
神奈川県川崎市にあるD&M本社のマランツ試聴室で本機の音を聴いた。フロントパネルに用意されているUSB-A端子に愛聴ハイレゾファイルを収めたUSBメモリーを挿して聴いた後、再生ソフト「Audirvana Plus」をインストールしたMacを本機とUSB接続し、その音を聴いてみた。
両接続による音質差は実感できなかったので、PCやNAS を介することなくデジタルファイルが聴けるメモリー再生が便利だとは思うが、フロントパネル中央のディスプレイ・ウィンドウが小さく、楽曲選択に難儀するのも確かだ。
スピーカーは、現代ハイエンド・スピーカーの最高峰の1つであるB&Wの「802 D3」 だ。さすがにペア360万円の高級スピーカーを14万円の本機で鳴らすのは無謀では? と思ったが、これが驚きのリスニング体験だった。
Linn Recordsから配信されているワンポイント・ステレオ録音の「ハイドン:天地創造/ボストン・バロック」(192kHz/24bit)を聴くと、スピーカーのはるか後方に広がる奥行を伴ったサウンドステージが出現、バリトン歌手が手で掴めそうなリアリティーを伴って登場するのである。こんな生々しい音像・音場表現をHD-AMP1が802 D3からあっさり引き出したことに大いに驚かされた。これぞスピーカー・リスニングの醍醐味(だいごみ)だ。
また、このクラスの価格帯のデジタルアンプを過去に試聴した経験では、音がやせてヴォーカルにボディ感が伴わないケースが多かったが、HD-AMP1は違う。声にしっかりと肉が付き、人肌を思わせるウォーム・トーンが味わえるのである。このへんのサウンド・チューニングの巧さにマランツ製品ならではの魅力を実感する。
2種類用意されたデジタルフィルター(MMDF)を切り替えて、その音調の変化も確認してみた。「フィルター1」は音の切れ味がよく、各楽器がシャープに提示される音調。一方の「フィルター2」は響きが心地よく、音色が豊富に感じられる。インパルス応答を示した図を見ると、フィルター1はプリエコー、ポストエコーともに短い特性。フィルター2はポストエコーを長めに取った特性を示している。
オーバーダビングなし、11.2MHz/DSD一発録りのジャズ・ライヴ作品も聴いてみたが、その演奏現場の空気感が生々しくよみがえってくるイメージが得られ、ハイレならでは。DSD ならではの音のよさに納得させられた。少し物足りなかったのは、シンバルの音が軽く、薄く感じられたこと。もう少し電源部にお金をかけることができたら……とは思うが、「そうおっしゃる方は上位シリーズをぜひ!」と同社エンジニアに言われてしまうに違いない。
また、802D3からリスニングポイントまでの距離が3メートル近いマランツ試聴室では、大編成オーケストラのトゥッティ(斉奏)でパワー不足を感じさせられたが、そもそもこのリスニング・スタイルが本機にふさわしいわけではない。小型スピーカーを用いた近接試聴のデスクトップ・オーディオでは必要十分なパワーを本機は有しているといっていいだろう。
さて、本機こそ時宜を得たデスクトップ・オーディオ・ユースの本命機というのが筆者の結論だが、本機にはもちろんヘッドフォン端子も用意されている。
AKGの「K701」を用いて、本機のヘッドフォン出力の音も確認してみた。「802D3」を用いたスピーカー・リスニングでやや不満に感じたシンバルの表現も堂に入ったもので、響きに十分な厚みが実感でき、バッファー回路にHDAMを用いた本機のヘッドフォンアンプの実力の高さが実感できた。ちなみにこのヘッドフォン出力には3段階のゲイン切替え機能があるので、使用するヘッドフォンに合わせてゲインを最適化できるのもありがたい。
スピーカー・リスニングこそオーディオの醍醐味というのが筆者の見解だが、深夜にどうしても音楽が聴きたい場合などヘッドフォンでなけりゃというケースも当然あるだろう。そんなときにも本機が強い味方になってくれることは間違いない。
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