「5G」でクルマ社会はどう変わる? 3キャリアに聞く:特集・ミライのクルマ(1/3 ページ)
次世代通信規格の「5G」を生かした新しいビジネスモデルとして期待されている「コネクテッドカー」や「自動運転」。5Gでクルマ社会はどんな変化を遂げるのだろうか。ドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社に聞いた。
2019年~2020年に商用サービスの開始が予定されている、次世代通信規格の「5G」。5Gは、10Gbps超えの「超高速通信」、高速移動中でも通信できる「モビリティ」、LTE比で100倍以上のデバイスが同時に接続できる「多数同時接続」、遅延を1ミリ秒(0.001秒)まで抑えられる「超低遅延」などを特徴に持つ。この5Gを生かした新しいビジネスモデルとして期待されているのが「コネクテッドカー」や「自動運転」といった、次世代のクルマにまつわるもの。
クルマがさまざまなモノと通信可能になることを「V2X(Vehicle to Everything)」と呼ぶ(セルラーV2Xとも呼ぶ)。V2Xは「V2V(Vehicle to Vehicle)」「V2I(Vehicle to Infrastructure)」「V2P(Vehicle to Pedestrian)」「V2N(Vehicle to Network)」という4つの形態に分類される。クルマにSIMが入ってインターネットに接続できるのはもちろん、車同士での通信、信号機との通信、歩行者との通信も可能になり、ネットを介してクルマにさまざまな情報が集約される。これらは既存のLTEでも可能な技術だが、大容量・低遅延の5Gを活用すれば、サービスの幅がさらに広がる。
NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社は、5Gの商用サービス化に向けて、さまざまな実証実験を行っており、その中には、コネクテッドカーや自動運転に関連するものも含まれる。3社はこれまでどんな実証実験を行い、そこでどんな成果を得たのか。また、5Gがコネクテッドカーと自動運転でどんなメリットをもたらすのか。各社の担当者に話を聞いた。
3キャリアの提携パートナーや実証実験
ドコモはDeNA、福岡市、九州大学と共同で、九州大学伊都キャンパスにて自動運転バスの走行テストを行っており、2018年下期に学内自動運転バスのサービスインを目指す。
コマツとは、5Gを用いた建設・鉱山機械を遠隔で制御するシステム開発の実証実験を、Intel、Ericsson、デンソー、トヨタとはコネクテッドカーの実証実験を展開。住友電工とは、クルマや路側機に設置したセンサーから交通情報を収集して解析し、クルマに配信するシステムの開発も行っている。
コンチネンタル・オートモーティブ・ジャパンとは、コネクテッドカーのインフォテインメント機能の拡張したサービスを共同で開発。5Gとクルマの通信機能を活用することで、車両周辺の交通状況や天候などの情報をリアルタイムで確認できるようになる。
ソニーが開発した「ニューコンセプトカート」を活用した共同実験では、カートに搭載した4Kディスプレイに、高精細映像をリアルタイムに伝送。カート付近の通行人に向けて高画質な映像を見せ、5Gの伝送速度や映像品質を評価するのが狙いだ。
KDDIは、2016年6月にトヨタ自動車と共同で車載通信機のグローバル通信プラットフォームを構築することに合意。国・地域ごとに異なっている車載通信機を2019年までに全世界で共通化し、2020年までに日本と米国で販売されるトヨタの乗用車のほぼ全てにそれを搭載することを目指している。
トヨタ自動車とは、2017年4月から東京ハイヤー・タクシー協会を含めた3者でタクシーのドライブレコーダーを使った「つながるタクシー」の実証実験にも取り組んでいる。都内を走るタクシー500台に通信型ドライブレコーダー「TransLog」を搭載し、KDDIのLTE回線を通して走行画像や車両のデータを常時送信。そのデータをトヨタ自動車のモビリティサービスプラットフォームの機能拡充や次世代タクシー開発などに生かすという。KDDI 技術統括本部 技術企画本部 技術開発戦略の鶴沢宗文副部長(工学博士)によると、この実証実験では「順調にデータが集まってきている」という。
2017年6月には自動車とスマートフォンをつなぐオープンソースを管理する非営利団体「スマートデバイスリンク コンソーシアム」に加盟し、「スマホとクルマの連携」にも注力している。このコンソーシアムにはトヨタ自動車も参画している。
2017年12月26日には、ゼンリンや富士通と共同で自動運転用の「ダイナミックマップ」生成に関する実証実験を発表した。ゼンリンは高精度な地図を提供し、富士通はダイナミックマップの管理と配信を担う。KDDIは、ダイナミックマップの生成に必要なデータ収集と生成したマップの配信に必要な通信回線を提供する。将来的には、この回線に「5G」を使うことも視野に入れているという。
ソフトバンクグループは「AI」「IoT」「ロボティクス」に注力することを掲げている。クルマ、特に自動運転はこれら3つに関連する領域なので、重点的に取り組んでいる。通信技術の開発はソフトバンクが、自動運転を軸にしたモビリティサービスの開発はグループ会社のSBドライブが担う。
SBドライブは、これまで福岡県北九州市、鳥取県八頭町、長野県白馬村、静岡県浜松市と連携協定を締結し、自動運転を活用したサービスの実現に向けた取り組みを行っていく。なお浜松市では、手動運転向けではあるが、車両の遠隔監視システムを既にテストしている。
SBドライブ取締役も務める、ソフトバンク 先端技術開発室 先端技術研究部 担当部長の吉野仁氏は「自動運転は、特に郊外で引き合いが多い」と話す。過疎化が進んで高齢者が多い地方では、バスが廃線になったりドライバーがいなかったりして、移動手段が少ないという問題が生じている。「運転免許を返納した方の移動を助けることで、地域の活性化につなげる」(吉野氏)という狙いもある。
ソフトバンク本体としては、本田技術研究所と、5Gを活用したコネクテッドカー技術の共同研究を11月に開始。高速ハンドオーバー技術や弱電界・圏外域でのリカバリー技術を開発する。12月22日には、SBドライブが所有する自動運転シャトルバス「NAVYA ARMA(ナビヤ アルマ)」の試乗会を、東京都千代田区の丸の内通りで実施した。2018年には、無人トラックの隊列走行試験を茨城県つくば市かその周辺で実施する予定だ。
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