「公正競争を阻害する」 ドコモが楽天モバイルのMVNO継続を批判する理由
楽天モバイルは、MNOとしてサービスを提供してからも、当面はMVNOサービスを継続していく方針を示している。だが、これに異を唱えるのが、楽天モバイルに回線を貸し出しているNTTドコモだ。その理由は大きく3つある。
これまでMVNOとして通信サービスを提供してきた楽天モバイルが、MNO事業に参入したことで、「MVNOの在り方」が改めて問われている。
楽天モバイルは、MNOとしてサービスを提供してからも、当面はMVNOサービスを継続していく方針を示している。だが、これに異を唱えるのが、楽天モバイルに回線を貸し出しているNTTドコモだ。吉澤和弘社長は、楽天がMNOサービスを始めるのなら「MVNOは解消してもらいたい」と強く批判している。
2019年7月の決算会見で、吉澤氏は「MNOとして事業運営を開始するのなら、ネットワークを自ら構築してお客さんを収容していくのが本来の姿。MVNOをすぐにMNOに移行することはできないと思うので、ある時間、時期を区切って移行していただく。MNOとMVNOを並行させて運営するのは違うと思う」と話していた。
総務省が9月11日に開催した、モバイル市場の競争環境に関する研究会(第17回)では、MVNOによる5Gの円滑な提供や、MNOとMVNOの競争環境の整備について、話し合いが行われた。ドコモ、KDDI、ソフトバンクいずれも、商用サービスの開始と同時期にMVNOが5Gサービスを提供できるよう、情報提供や環境整備を進める見通しであることを示した。
その一方でドコモが問題提起したのが、MNOとMVNOを同時展開することや、MNOのグループ会社(ビッグローブやLINEモバイルなど)が他のMNOから回線を借りてMVNOとしてサービスを提供すること。ドコモは「MVNOを利用して他MNOネットワークを利用する形態は認められるべきではなく、制度整備が必要」と訴える。
楽天モバイルがMNOとMVNOを並行させることについても、「MNOでありながら、MVNOも継続すると堂々と発表された。本来なら、早急に(MVNOの)新規受付を停止、移行を促進すべきなのに、このような発表をするのは本当に遺憾」とあらためて批判した。
そもそも、なぜMNOとMVNOを並行させることが悪なのか? ドコモは3つの理由を挙げる。1つが、イノベーション競争を阻害すること。例えばドコモの5G回線を楽天モバイルに貸し出し、楽天がMVNOとして5Gサービスを提供した場合、ドコモの5G技術が楽天モバイルに使われてしまうというリスクがある。
2つ目が、電波の有効利用を阻害すること。先述した吉澤氏の指摘にも関連するが、MNOでありながら、自社の電波を使わずに事業展開することは、電波を有効に使わず、設備競争の阻害になるというものだ。
3つ目が、情報漏えいによる公正競争の阻害だ。現在、KDDI傘下のビッグローブと、ソフトバンク傘下のLINEモバイルが、ドコモから回線を借りてMVNOサービスを提供しているが、ドコモから提供された機密情報を、例えばビッグローブがKDDIに、LINEモバイルがソフトバンクに漏らす可能性がある――というわけだ。
ただ、3つ目の情報漏えいするケースは実際に起こりうるのだろうか? ドコモの担当者は「(MVNOとは)NDA(秘密保持契約)を結んでいる。立証のしようもない」と話すが、起こりうるケースとして、以下のように説明する。
「例えば、nuroモバイル(ソニーネットワークコミュニケーションズ)は3キャリアの回線を使っているが、ソニーネットワークがドコモの情報を(KDDIやソフトバンクに)漏らしても、それによるインセンティブは考えにくい。一方、ビッグローブとLINEモバイルは、(キャリアと)明らかに親子関係にあり、親会社に対して情報提供することで、何らかのインセンティブがあるのでは」
MNOは、MVNOの接続に対しては原則として応じなければならないため、今回のような理由で接続を断ることは現行法では認められない。従って何らかの法整備が必要、というのがドコモのスタンスだ。
ドコモをはじめとする3キャリアは、MVNOがサービス提供に必要な5Gの情報について、積極的に提供していく構えだけに、「この問題は5G時代になると、さらに拡大する恐れがある」とドコモは危惧する。5Gの商用サービス開始のタイミングで、MNOとMVNOの間に何らかの規制が加わるかもしれない。
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