「iOS 12」では買い物がより便利に Appleが新機能を小売関係者にプレビュー:鈴木淳也のモバイル決済業界地図(1/2 ページ)
全米小売協会(NRF)の「Retail's Big Show 2018」で、Apple Pay事業の責任者が登壇。そこでiOS 12の小売店向け新機能を紹介。Appleが対外イベントで情報を出すのは異例のことだ。
多くの読者はAppleの秘密主義をご存じだろう。
正式発表を行うまでは一切の情報を流さず、それは同社のパートナーでも例外ではない。システム開発やデモストレーション実現に必要な場合に限り、ごく一部の関係者のみに情報を渡してかん口令を敷く。
またAppleは、ここ10年ほど対外的な発表を自社イベント以外では行っておらず、基本的に自前主義を貫いている。クローズドな姿勢ともいえるが、この秘密主義がAppleをAppleたらしめているともいえる。
だがこの姿勢も、特定の分野では変化しつつある。Apple Pay事業を統括するJeniffer Bailey氏が1月15日(米国時間)、米ニューヨークで開催された全米小売協会(NRF)の「Retail's Big Show 2018」の基調講演のステージに登壇。昨今のモバイル決済事情とApple Payの現状をアピールするとともに、“次期iOS”の機能を披露し、聴衆として集まった小売関係者らに対して大きく歩み寄る姿勢を見せたのだ。
実はBailey氏は2017年10月に米ネバダ州ラスベガスで開催された「Money 20/20」の基調講演にも登壇し、Apple PayとiPhone Xの最新機能を金融関係者らにアピールした。Appleのエグゼクティブが一般参加者向けイベントで講演すること自体珍しいのだが、それに輪をかけての手の内を明かしての歩み寄りだ。これは、モバイル決済プラットフォームとしてのAppleのポジションが固まりつつあり、次なる飛躍と市場拡大に向けて対外的なアピールが必要になったことの証左かもしれない。
Eコマースの中心はモバイルへ
オンラインでショッピングを行うEコマースの世界では、2000年前後からさまざまなサービスが出現したが、その窓口となるのはPCのWebブラウザだった。だが現在、ユーザーの消費行動は変化を続けており、主たるデバイスの利用時間もモバイルの比重が高くなっている。それに伴い、Eコマースサービスがモバイルアプリとしてのみ提供されるケースも少なくない(メルカリなどが好例だろう)。
またモバイルは時間と場所を選ばずに利用できるため、オムニチャネル的な使い方とも相性がいい。小売店はモバイルアプリやプッシュ配信などの仕組みを活用してユーザーの来店を促すマーケティングを展開しており、たとえ店舗の近くにいないときでもモバイル端末を通じてやりとりが可能になる。日々そばにあるデバイスだからこその展開が可能というわけだ。
このように消費行動が変化する中でiPhoneの重要性を訴えるのがBailey氏だ。同氏は米国におけるEコマースの25%がモバイル上で行われており、その成長は全体との比較で年率4倍、さらにリアル店舗との比較で10倍、このまま成長を続けることで2012年にはモバイル利用がマジョリティーとなることを説明する。
特に中国ではEコマースの8割が既にモバイルへと移っており、モバイルコマース天国となっている。この傾向は新興国ほど強く、特に電源を含む日常生活インフラが不十分な一方で、携帯ネットワークの整備が進んだ都市部以外の地域では、オンラインサービスの利用はモバイル経由が中心で、モバイルインフラを活用した決済や送金サービスが整備されつつある。
中国ではリアル店舗を駆逐する勢いでEコマースが成長したところに、スマートフォンの急速な普及が進み、モバイル決済サービスがここ数年急速に拡大している。
現在、ユーザーのモバイル利用時間の大部分が「アプリ」に占められる。ゆえにEコマースを含む小売店側では、ユーザーの接触時間を増やすために独自のアプリをリリースし、その活用を促すべくマーケティングを展開している。ただしアプリ開発は予算と時間を必要とするため、全ての小売店がこの仕組みを活用できるわけではない。
だが小規模な店舗でも、工夫とアイデアでさまざまなアピールができる。Bailey氏はサンプルとしてメガネメーカーのWarby ParkerやコスメショップのSephoraがiPhone Xで搭載されたTrueDepthカメラを活用し、商品のカスタマイズや試用を可能にするサービスを紹介している。
この他、家具小売のWayfairではARKitを使って自宅の空間上に商品を投影できるサービスをアプリで提供するなど、ARの活用例では比較的面白い事例となっている。これら3つの事例は全て、気に入った商品をそのままアプリ決済を使ってApple Payで購入できる点で共通している。
最近、日本国内でのキャッシュレス化に向けた取り組みがクローズアップされているが、一言でキャッシュレスといってもクレジット/デビットカードの活用から、PC/モバイル端末を利用した決済や送金まで、さまざまな手法が存在する。
個人的に注目するのが「モバイル決済」だが、その理由はモバイル端末そのものがインテリジェントな機械であり、できることが単純に「支払い」という行為にとどまらないからだ。
前述のようにアプリを活用した購入への導線や、リアル店舗に行かずとも可能なEコマースでの活用、デバイスを利用した情報配信やユーザーサポートなど、活用できる場面は多い。ゆえに筆者がApple Payで注目しているのも、NFCを使ったオフライン決済よりもむしろ、アプリ決済やWebブラウザを使った決済など、オンライン決済の仕組みの方にある。広義の意味では、話題のQRコードを使った決済もオンライン決済の一種だろう。
決済だけでなく、ポイントカード(ロイヤリティーカード)の活用も店舗にとっては重要だ。まだ活用事例は少ないものの、Bailey氏はiOS上でのWalletアプリを使ったロイヤリティーカードの活用方法を紹介している。
まだ「Apple PayのNFC決済時に会員カード情報のやりとりも行う」といった仕組みはないものの、例えばWalgreensではApple Payで支払おうとすると、操作画面にWalgreensのアイコンが出現し、Walletアプリで会員情報のバーコードを読み込むよう促す仕組みが実装されている。Wallet登録が済んでいないユーザーに対してはカード登録を促すようにもなっており、ロイヤリティーカードの面で顧客を取りこぼす可能性が減る点も特徴だ。
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