残置後の設備再利用が進まず――「auひかり ホーム」設備撤去義務化&値上げ 背景に迫る
KDDIの戸建て住宅向け光インターネットサービス「auひかり ホーム」において、3月の新規契約分から適用される新しい提供条件がネット上で波紋を呼んでいる。改定の背景を同社広報部に聞いた
KDDIの戸建て住宅向け光インターネットサービス「auひかり ホーム」について、3月1日以降の新規契約者に適用される「提供条件」がネット上で波紋を呼んでいる。
改定の要点は「解約後の設備撤去の義務化」「設備撤去料金の大幅値上げ」「新規契約時の回線工事費の分割払い回数の倍増」の大きく3点。いずれの改定も背景の説明なく行われたため、「どうして?」「(KDDIは)何を考えているの?」といった疑問の声が多く寄せられている。
そこで筆者は、今回の改定についてKDDI広報部から背景を聞いた。その内容を体裁を整えて掲載する。
設備の撤去義務化:「再利用」が進まず維持費がかさむため
―― 戸建てプランの設備撤去を義務化した背景を聞かせてください。
KDDI広報部 お客さまが解約した後の回線について、弊社では再利用することを前提に、原則として設備を残置してきました。残置設備にも保守・管理が必要で、そのコストは弊社が負担してきました。
しかし、ほとんどの設備が“残置”のまま再利用されていない現状があります。今後も、残置設備は増加が見込まれ、その分保守・管理コストも増えていくことが予想されます。「雪の重みで家に引き込む光ケーブルが垂れた(切れた)」といったような、荒天や自然災害による残置設備の障害を復旧するのにもコストがかかります。
そこで、今後も原則残置とすることが困難であると判断し、設備撤去をお願いすることになった次第です。
撤去費用の値上げ:工事費の平均実績から算出した“実費”負担に
―― 撤去の義務化の背景については理解できます。しかし、撤去費用が一気に2.88倍(1万円→2万8800円)になったことについては理解を得づらいように思います。2万8800円という費用はどのように算出されたものなのでしょうか。
KDDI広報部 auひかり ホームで使う光回線は「自社網(KDDI自前の光ファイバー)」「NTT東日本のダークファイバ」「NTT西日本のダークファイバ」を地域によって使い分けています。
これらの回線設備を撤去する場合、撤去工事費が発生します。今まで弊社が支払った撤去工事費は、平均すると1件あたり約2万8800円となります。
今回の価格改定は、お客さまに撤去の実費を負担していただくという考え方に立っています。今後のサービスの維持・向上のためにご理解いただければと思います。
※ダークファイバ:敷設したものの使われていない光回線のこと。他の通信事業者からダークファイバ借用の申し出を受けた場合、NTT東日本・西日本はそれに応じる義務を負っている
「賠償金」:維持費を実費負担するイメージ 近日中に表記改定
―― 設備撤去に応じなかった場合の「賠償金」は、一体何に対する賠償金なのでしょうか。また、具体的にいくらかかるのでしょうか。
KDDI広報部 「賠償金」という表現は適切ではなく、厳密には「回線の維持・運用費」となります。現在、表記を改めるための手配を進めています。
この費用は回線の提供方法によって異なり、以下の通りになります(いずれも税別)。
- KDDI回線を利用している場合:月額99円
- NTT東日本回線を利用している場合:月額341円
- NTT西日本回線を利用している場合:月額577円
(筆者注:NTT東日本・西日本回線における「賠償金」は、2016年に両社が設定した「光信号引込等設備維持負担額」と「光信号引込等設備管理負担額」の合算額と同額となっている)
回線を存置した場合、NTT東日本回線では月額341円(285円+56円)、NTT西日本回線では月額577円(508円+69円)の維持費を請求するという。これらはいずれも2016年度接続料をもとにした「実費」だ(KDDIが総務省の「接続料の算定に関する研究会」に提出した資料より引用)
転居対応:継続時は撤去費用不要 継続不可時は「救済」あり
―― 設備撤去について、転居先でもauひかりを使う場合も費用負担は必要ですか。
KDDI広報部 不要です。
―― 「契約を継続する意思があるものの、転居先で利用できない」というケースの場合はどうですか。
KDDI広報部 原則として撤去費用を負担していただきます。
ただし、プロバイダとして弊社の「au one net」を利用している場合、転居先でauのWi-Fiルーターを利用していただくことを条件に費用を請求しないことにしています。
(撤去費用を免除できる)移行先の回線については、Wi-Fiルーター以外の選択肢も現在検討しています。
工事費分割払いの回数倍増:契約実績から判断
―― auひかり ホームの工事費を分割払いする場合、従来「1250円×30回」だったものが、今回の改定で「625円×60回」となりました。支払い期間を倍に延ばしたのはなぜですか。
KDDI広報部 現在のところ、auひかり ホームの平均契約期間は60カ月(5年間)を超えています。他方、auひかり ホームには「ギガ得プラン(2年契約割引)」や「ずっとギガ得プラン(3年契約割引)」を始めとする各種割引も導入しています。
顧客還元(割引サービス)、設備維持にかかるコストのバランスを鑑みて、利用期間の実態に合わせて支払い回数を変更した次第です。
以上が、筆者とKDDIのやりとりとなる。
ホームタイプの光インターネットサービスは、光ファイバーを直接宅内へ引き込むため、マンションタイプよりも1契約あたりの維持・管理コストは高くなる(ゆえに月額料金もマンションタイプより高めでもある)。
そのことを踏まえると、今回KDDIが行った改定は、サービス維持のための「苦渋の決断」ともいえる。しかし、背景の説明なしに値上げしたとなれば、既存ユーザーとの条件差も相まって、反発が出てくるのも当然だ。
今回の件に限らず、通信事業者が料金を値上げする場合はユーザーに背景説明を行ってから行うべきであると筆者は考える。
読者の皆さんは、どう思うだろうか。
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