送金を身近に リアルカードで決済シーンも拡大 「Kyash」の戦略を聞く:モバイル決済の裏側を聞く(1/3 ページ)
個人間送金と決済の両方ができる「Kyash(キャッシュ)」をご存じだろうか。同サービスでは、送金にまつわるハードルを下げ、よりお金の移動を“滑らか”にすることでキャッシュレス化を支援する。同社の鷹取真一社長に、Kyashが目指す世界を聞いた。
「キャッシュレス(Cashless)」というキーワードを聞く機会が増えている。現金にまつわる取引を電子的な他の手段で置き換え、各種コストを削減しつつ、取引そのものを活発化させようという試みだ。国の経済規模が小さく、現金取り扱いのコスト負担が高い北欧を中心にキャッシュレス比率が高いとされている他、近年ではインターネットを介した取引やモバイル活用が進む中国でも急速にキャッシュレス化に向けてかじを切ったといわれており、日本もまたこうした国々を横目にキャッシュレスのメリットを享受すべく取り組みが進みつつある。
一方、現金が絡む取引は多岐にわたる。キャッシュレスと聞いてお店での支払いをイメージする人もいるかもしれないが、公共料金支払いから口座振り込みなど各種送金にまつわる業務、そして身近なところでは友人同士でのお金の貸し借りやワリカン、子供へのお小遣いまで、現金を利用する機会はまだ多い。
「決済」というくくりでは、クレジットカードなどのプラスチックカード利用を筆頭に、最近ではモバイル端末を使った「おサイフケータイ」「Apple Pay」「Google Pay」といった仕組みが広がりつつあり、よりキャッシュレスの世界に近づいている。一方で身近なはずの送金という枠では、いまだ現金に代わる決定的な手段が登場したとはいいがたい。仕組みそのものは存在しても、「手軽さ」という部分で現金の利便性を超えられていないからだ。
スマートフォン上で作成したバーチャルなクレジットカードを使って個人間送金ができる「Kyash」。送金された、またはチャージしたお金でオンライン決済もできる。さらに、リアルなクレジットカードを発行して、実店舗での決済にも使える
今回紹介する「Kyash(キャッシュ)」は、こうした「送金」にまつわるハードルを下げ、よりお金の移動を“滑らか”にすることでキャッシュレス化を支援する。同社代表取締役社長の鷹取真一氏に、Kyashが目指す世界と、そうした仕組みを可能にするビジネスモデルまで、話を聞いた。
リアルカード発行やGoogle Pay連携などで、利用シーンが拡大
Kyashは非常にシンプルな送金&決済アプリだ。Kyashを利用する友人への送金はもちろんのこと、まだKyashを使っていない相手に対してもスマートフォンの連絡先やSNS経由で送金や請求が可能となっている。送金手数料は無料で、送金処理はリアルタイムで即時実行される。さらにバーチャルな「Kyash Visaカード」を発行し、この“Visaカード”を使うことでオンラインでの決済に利用できる。
クレジットカードやコンビニ、ペイジー(Pay-easy)に対応した全国の銀行、そして「ネットマイル」「Gポイント」の各種ポイントを通じてKyash Visaカードへのチャージが可能だ。ここでチャージされたお金はそのままKyashの送金に利用できる他、プリペイド方式のVisaカードとして各種決済で利用できる。
Kyashは2017年4月5日にスタートし、初期のiOS版から7月のAndroid版アプリのリリースを経て、8カ月が経過した同年12月時点で累計20万ダウンロードを達成している。
2017年5月にはGoogleとの提携が発表され、Google Payの決済手段として登録することで、Kyashにチャージしたお金を「QUICPay」の仕組みを使って店舗決済に利用できるようになった。QUICPayはFeliCa技術を利用した非接触決済サービスで、コンビニを含む全国さまざまな場所で利用できる。(日本版)Google Payに対応したスマートフォンを店頭の非接触読み取り機に“かざす”だけで支払いが行えるため、非常に手軽なのが特徴だ。
さらに6月には「Kyash Visa」の“リアル”カード発行を発表している。それまで使えたのは“バーチャル”カードであり、あくまでスマートフォンを使ったオンラインでの決済に特化していた。リアル店舗での決済は、前述のようにQUICPayの仕組みを使うことでタッチ決済が可能だが、必ずしも全ての店舗や場所でQUICPayが利用できるわけではないだろう。
このリアルカードを使うことで、国内外の何百、何千万というVisa加盟店での決済が可能になるため、一気に利用の幅が広がることになる。「スマートフォンを使ったサービスなのにプラスチックカードなの?」という声もあるかもしれないが、これが実際に効果ある施策であることは、Mastercardとの提携で「au WALLETプリペイド」を発行したKDDIの歴史が証明している。
お金のやりとりは、離れているほど電子的な方がいい
「送金」というPayPalが本来持っていた機能を削ぎ落とした形で上陸した日本市場において、PCやスマートフォンといった皆が所有する手頃なデバイスで送金を行うサービスは、長らく鬼門のような存在だった。もちろん「LINE Pay」のようなサービスも登場してきたが、いまだ送金そのもののハードルを大きく下げるには至っていない。
鷹取氏によれば、利用シーンを突き詰めていったとき、直接会っている人たちの間での“割り勘”は現金の方が分かりやすいが、距離が離れるほど電子的に処理できた方がいいという。同氏が例に挙げたのは、先日大阪で発生した震災のときの緊急支援募金サービスだ。プレスリリースに表示されているQRコードをスキャンすることで、1円単位での被災地への送金が可能になる。時間的・空間的制約を乗り越えて、可能な限り直接的な形で素早く支援できるのが理想なシチュエーションだ。
これがもし「2段階パスワード」を経てオンライン口座にたどり着き、送金先の口座を指定して……とやっていると、届くものも届かなくなる可能性がある。これを素早く、より多くの人が実行できるようになれば、それだけ助かる人が出てくるかもしれない。特異な例かもしれないが、ある意味で「価値の移動」という送金サービスのハードルを下げることの本質を示している。
「送金」と「決済」という統合された体験を提供することで、集めたお金をより多くの場所や場面で使えるようにしていくというのがKyashの目指すところだ。
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