「武富士ダンサーズ」復活・新結成
アップテンポなバックミュージックとインパクトのあるダンスで一世を風靡した武富士ダンサーズ。テレビコマーシャルから姿を消して一年半。このほどインターネット上の専用サイト「DANCE-CH.TV」に活躍の舞台を移して復活した。復活以来、「DANCE-CH.TV」のサイトにはアクセスが殺到し、すでに企業サイトの1コンテンツの枠を飛び越えているといっても過言ではない。今回は新たな噂を呼んだ武富士ダンサーズの復活の背景と経緯をリポートする。

もう一度あのダンスをみたい!多くの人の声に支えられて復活プロジェクトが進行

 武富士ダンサーズは、「若さと躍動感」という同社の企業イメージを表現する手段として、1991年に誕生した。当初、12人の男女で構成されていたダンサーたちの踊りは、テレビコマーシャルとして放映されるとすぐにテーマ曲のインパクトもあって予想以上に多くの反響を得たという。とりわけ、1998年に結成された武富士ダンサーズのテレビコマーシャルは、バックミュージックの「シンクロナイズド・ラブ」が以前よりもさらにテンポもアップし、よりインパクトの大きなものとなった。 「学園祭で使用したい」、「バックミュージックはなんという曲ですか?」、「振付を教えてください」といった問い合わせが殺到したという。

 その後、2001年にメンバーや振り付けが一新された武富士ダンサーズだが、約一年半前にブラウン管から姿を消した。

武富士 宣伝部 係長の森かんな氏 武富士 宣伝部 係長の森かんな氏

 武富士宣伝部の森かんな氏は語る。「テレビコマーシャルをしなくなってからというもの、投資家や一般の方々から『武富士といえばダンサーズ』という声をよく耳にしました。皆様にとても深く浸透していたことをあらためて感じさせられたのです。『もう一度、あのダンスを見たい』といったお手紙も何通もいただきました。しかしながら、現在、消費者金融業のテレビコマーシャルは「啓発的内容」のものでなければ放映が難しくなっています。そこで、テレビで難しいのならインターネットを通じて復活させようと踏み切ったのです」。

ブロードバンドの普及により、インターネットでもテレビと同じように動画を配信できる環境は整っている。しかも、インターネットは今や世代を問わず情報収集のためのメディアと幅広い年齢層が活用している。武富士ダンサーズの復活のステージとしてはうってつけであったのだ。

ダンスシーンのストリーミングだけでなく「プラスα」の感動が伝えられるサイトに

「DANCE-CH.TV」統括プロデューサーの茂出木謙太郎氏 「DANCE-CH.TV」
統括プロデューサーの茂出木謙太郎氏


コスモ・インタラクティブ プロデューサー(プロジェクトでは統括ディレクション担当)の阿部淳也氏 コスモ・インタラクティブ
プロデューサー(プロジェクトでは統括ディレクション担当)の阿部淳也氏

 武富士ダンサーズの復活は、まず、新メンバーの選考からスタートした。1991年の初代・武富士ダンサーズから四代目となる新・武富士ダンサーズは、厳しいオーディションの結果選ばれた15人のトップダンサーで構成されている。振り付けは、日本を代表するダンサーでもあるTRFのSAMさん、CHIHARUさん、ETSUさんの3人が担当し、以前のダンスにヒップホップの要素を融合させたニューコンセプトの斬新なダンスに仕上がっている。バックミュージックは、馴染みの深い「シンクロナイズド・ラブ」だがアレンジを変えたバージョン「シンクロナイズド・ラブ・セントラル」が新たに制作され使われている。

 そして、この新・武富士ダンサーズが活躍するメインステージとして用意されたのが、インターネット上の専用サイト「DANCE-CH.TV」だ。「武富士ダンサーズがインターネットで復活」と聞くと、多くの人は武富士本社のホームページ上で「ネットでコマーシャルと同じ映像を流すだけ」、あるいは「ダンスシーンの写真画像を数枚、掲載する」、「フラッシュムービーでダンスシーンのダイジェストを見せる」程度のものと思ってしまうかもしれない。

 もちろん「DANCE-CH.TV」でコマーシャルとなるムービーを見ることはできるが、この専用サイトはそれだけにとどまらない。「DANCE-CH.TV」の統括プロデューサーである茂出木謙太郎氏は、サイト構築のコンセプトを次のように語る。「テレビコマーシャルでは15秒、30秒という時間の中で『武富士ダンサーズの美しさ』が表現されていました。しかし今回のサイトでは、ダンサー一人一人の魅力を伝えていきたいと思いました」。

 制作の統括ディレクションを務めたコスモ・インタラクティブの阿部淳也氏も「このサイトはエンターテイメントが重要なテーマでした。実際に見る映画、演劇、ダンスショーと同じように、サイトを訪れてくれた人に驚きや感動といったエモーショナルな部分でのインパクトを感じていただきたかった。テレビコマーシャルのムービーをストリーミングで配信するだけでなく『プラスα』の喜びがサイトには絶対に必要だったのです」。

ブログをダンサー個人の魅力を映し出す。新たなコミュニケーションツールとして活用

 そのコンセプトは「映像のストリーミング配信」と「ダンサー個人のブログ」という2つのコンテンツで具現化されている。ストリーミングで配信される映像は、臨場感と躍動感にあふれた約80秒のダンスシーンの映像をはじめ、コマーシャルムービー制作の舞台裏、「過酷」で張り詰めた緊張感がダイレクトに伝わってくるようなリハーサルのメイキングシーンなどだ。

 茂出木氏は「実際にリハーサルや撮影の現場に立ち合わせてもらいました。そこでのダンサーたちの息遣い、床を踏み込む音などと同様に現場の臨場感をいかにして伝えるか……。そこに徹底的に力を注ぎました」という。「ダンスは、いわば振り付けの方々やダンサーたちの力で創り上げられたコンテンツです。それをただサイトで流してしまうだけでは、単純に『二次利用』しているに過ぎない。絶対にそうはしたくなかった」。強いこだわりをもって制作された映像なのである。

 一方、ブログも多くの人が活用しているそれとは一味違ったコンセプトで制作されている。「DANCERS BLOG」で見たいダンサーをクリックすると、別ページが開き、まず、自己紹介のショートムービーが流れる。自己紹介ムービーというと、イメージ映像が盛りだくさんのアイドルのプロモーションビデオのような内容を想像してしまうが、そうではない。ダンサーが歩いてくるシーンから始まり、「こんにちは、○○です。最近、ハマッていることは……」と話し始める。わずか15秒程度の映像だが、ダンサーたちの素顔が見え隠れし、親近感を感じる人も多いのではないだろうか。

 一般的にインターネットは「パーソナルなメディア」といわれている。個人でホームページやブログを作って情報発信できるからだ。そういった他のメディアにはない、インターネットならではの特性にも着目し、新・武富士ダンサーズに選ばれたメンバーたちの「素顔」をこれまでのブログとは一味違った形で表現したところにこのサイトのひとつの面白さがある。また、ダンサーたちが頻繁にブログを更新できるように、携帯電話から簡単にアクセスして書き込み、更新できるシステムが採用されている。

 阿部氏によれば、このシステムの構築には多大な技術的・時間的な苦労があったようだ。特に企業が発する情報である以上、携帯電話等から投稿した情報を、チェック無しの状態で世に公開するのは抵抗がある。これまで様々な企業からそのような話を聞いていた阿部氏はそこに何かしらの確認する術をはさむ必要があると感じていた。

「今回のブログ構築にはシックスアパート社のMovable Type(以下MT)を使用していますが、実はMTにも投稿された記事について確認を行うためのインターフェースは準備されています。しかしMTの管理画面を企業の担当者が開くという行為はかなり敷居の高いもので、かつブログ全体の管理を行うインターフェースであるため、ブログそのものを壊してしまうリスクもあると考えていました」。

その解決策が武富士側とダンサーズのマネジメントサイド(以下運営側)で承認を行えるオリジナルツールの開発であった。これは投稿された情報について、それぞれが承認した場合のみ情報が公開される仕組みのシステムだ。これら一連のシステムをコスモ・インタラクティブはパートナーであるネクステックと共同開発したという。

しかし、生の声を掲載するというのもブログの良さでもある。そのため投稿した情報について運営側が行える行為は、承認か非承認の判断だけで、情報自体の変更は運営側では行えないように制限したと阿部氏は語る。

「やはりブログとして重要なのは生の声なのです」。そのために情報が公開されずに非承認となった場合は、各ダンサーは再度、自分の言葉で修正して、投稿しなおさなければならないそうだ。

頑張って夢をつかむ、あきらめない姿勢。武富士のメッセージとして伝えたい

 さて、インターネットで復活した新・武富士ダンサーズだが、気になるのは今後の展開だ。茂出木氏や阿部氏によれば「(現時点では詳細はお話できないと前置きした上で……)携帯電話と連動した新たなコンテンツ、携帯電話向けのサイトならではの仕掛けを計画中」とのことだ。また、今後は武富士のイベントやキャンペーンと「DANCE-CH.TV」とのサイトの連動などリアルとバーチャルを融合させた展開も考えられる。

また、「ダンサー個人が携帯電話などで撮影したショートムービーを簡単にブログにアップする仕組みを考え中です」とのことだ。例えば、ダンサーが自分のダンスを撮影してブログにアップし、ステップや振り付けのポイントを解説するといったことも可能になる。ダンサーとファンの新たなコミュニケーションに一役買いそうだ。

 森氏も「様々な企業でホームページにブログを採用していますが、多くは『社長日記』、『○○のお仕事日記』といったもの。コンセプトが同じなんですね。コミュニケーションのツールを変えるだけでも、ブログの可能性は広がっていく。そこに着目した展開も考えています」と、今後、ブログを軸にした新たな展開に前向きな姿勢を見せている。

「DANCE-CH.TVにはダンスが好きな人が来ると思います。本当にダンスが好きな人にこのサイトを見て欲しい」と森氏はいう。「苦しい練習、厳しいオーディションを突破したダンサーたちの頑張って夢をつかんだ姿、あきらめない姿勢を多くの人にメッセージとして伝えたい。それが武富士という企業が若い世代の人たちに伝えたいメッセージでもあるのです」。一度でも、「DANCE-CH.TV」を訪れた人には、そのメッセージは必ず伝わるだろう。

 ちなみに、サイトの制作を手がけた阿部氏によれば「DANCE-CH.TV」には「いくつかよく見てみないと気がつかない『仕掛け』が隠されています」とのこと。「ここでお話しすると面白くないのですが、ヒントはヘッダに登場するダンサー、トップページのメインムービー」。興味のある人はよくチェックしてみよう。

[下玉利尚明,ITmedia]