米グラフィックデザイン団体、五輪エンブレム公募に苦言 デザイナーの“ただ働き”と対価の低さ批判
グラフィックデザインの業界団体・AIGAが、東京五輪の公式エンブレムの公募について「多くのデザイナーに“ただ働き”を強いている」と批判する公開書簡を発表した。
世界的に影響力のあるグラフィックデザインの業界団体・AIGA(米国)はこのほど、東京五輪・パラリンピックのエンブレム公募に反対する公開書簡をWebサイトで公表した。広く公募するコンペ方式で実施することが実質的にデザイナーのただ働きにつながる上、作品の権利を無償譲渡することが条件になっているなど、対価も不十分だと批判。組織委の森喜朗会長に対し再考を求めている。
五輪エンブレム問題では、アートディレクターの佐野研二郎さんによるデザインが採用されたものの、他のデザインとの酷似が相次いで指摘されるなどしたため白紙撤回され、公募で選ぶことになった。応募受け付けは先月24日から今月7日まで行われ、1万4599件の応募があったという。
採用者には賞金100万円が贈られるが、応募要項やWebサイトによると、「作品に関する著作権、商標権、意匠権、その他の知的財産権、所有権など一切の権利を組織委に無償で譲渡」することなどが条件。「採用後の商品化に際して、採用作品の応募者にロイヤリティなどは発生しませんし、応募者の名前も明記されません」という。また「応募に要する費用は全て応募者の負担」となっている。
クリエイティブ分野で横行する「スペックワーク」
コンペ形式は、発注者側からは複数のクリエイターから候補作品を得られるメリットがある一方、作品が採用されたクリエイター以外には候補作品を制作した対価が支払われないことがほとんど。採用される“見込み”をインセンティブとしてクリエイターの才能を都合良く利用するものだとして、こうした「スペックワーク」(spec work=speculative work)にはクリエイター側からの批判が高まっている。
問題はプロのクリエイターだけとは限らない。今年2月、厚生労働省が「アルバイトの労働条件を確かめよう!」というキャラクターデザインを募集した際、「一切の権利は厚労省に」「賞金なし」「記念品贈呈」という条件だったため、ネット上の「絵師」からあきれる声が上がったことがある。
「ただ働きだし、対価も見合っていない」
AIGAの公開書簡では、プロのデザイナーが創作活動に膨大な時間と能力をかけていることを指摘。エンブレム公募について、「十分な対価もなく、確実に選ばれる保証もないのに、大半のデザイナーにスペックワークを強いている」と批判する。
一般から募集したことについても「経験の少ない一般人とプロのデザイナーを同列に扱っている」と、尊敬されるべきプロのデザイナーとデザインを組織委が軽んじていることを示す結果になると指摘。優れたデザインはデザイナーとクライアントのコラボレーションなしには成し遂げられないとして、広く一般から公募する方式にも疑問を呈している。
また「多くの創造的な才能が費やした時間に対し対価を支払っていないにもかかわらず、組織委は莫大なライセンス料を得ることになる」として、採用者への対価が見合っていないと指摘。著作権など知的財産権についてもデザイナーに保証すべきだとした。
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