抜群の強度を誇る「最強」のPCケースが登場:「MT-PROシリーズ」を代表作とするソルダムは,国産のアルミケースメーカーとして,モノコックシャーシの研究などに熱心に取り組んできた。そんなMT-PROシリーズに新たなラインナップが追加された。それが「MUSCLEBACK(マッスルバック)」である。「剛性が低い」といわれがちなアルミケースの「常識」を覆した同製品をさっそく解説していこう。:text by 桑原雄二 photo by 新井邦彦:MT-PRO 4000 MUSCLEBACK:ソルダム

しっかりしたボディは高い静音性をも実現する

 ソルダムの「MT-PRO 4000 MUSCLEBACK」(以下MUSCLEBACK)は,新型のアルミモノコックシャーシを採用したMT-PROシリーズの最新作だ。MUSCLEBACKの最大の特徴は,ケース各部の部材が,スタンダードモデルの「MT-PRO 4000」に利用されているものよりもぶ厚いことである。

 MT-PRO 4000は,シャーシ各部に「1.5mm厚」と「1.0mm厚」のアルミ板が採用されているが,MUSCLEBACKは「2.0mm厚」と「1.2mm厚」のアルミ板で構成される(表)。板が厚くなった(ゲージアップ)ことにより,MUSCLEBACKはスタンダードモデルと比べて,強度が220%以上も向上しているという。

 アルミケースはスチールケースよりも剛性が低いといわれることが多いが,MUSCLEBACKモデルであれば,剛性面が問題になることはまずないといっていい。そして,ケースの高剛性化はHDDや光学ドライブ,ケースファン,CPUクーラーなどから生じる「びびり音」や耳障りな「高周波」の低減など,静音化にも効果があるのだ。

 冷却構造にもぬかりはない。デフォルトでフロントに140mm角という大口径ファンを搭載し(写真1),リアには92mm角のファンが用意される(写真2)。フロントの140mm角ファンはケースファンとしては最大級の大きさといっていい。1000rpmという低回転で140mm角ファンを駆動させるため静音性に優れ,風量も十分だ。リアファンは92mm角と標準的だが,最大で2基まで増設できるため,必要に応じて冷却能力を高めることも可能だ。


写真1 PCケースのフロントファンとしては最大級の140mm角ファンを標準搭載する。大口径のファンを1000rpmという低回転で回すことで,高い静音性と,十分な風量を確保しているのだ

写真2 リアには2000rpmの92mm角ファンを1基搭載する。最大で2基まで拡張可能だ。標準の1基構成の場合,CPU排出熱遮断プレートを利用することで効率の良い排気を実現している

写真3 ケース側面のU38 CPU COOLING COVERには80mm角ファンを内蔵し,CPUクーラーに直接外気を送り込む。これにより38℃以下のTa(CPU上空温度)を実現している

 搭載されている冷却構造はケースファンだけではない。スタンダードモデル同様「U38 CPU COOLING COVER」と名付けられた冷却構造を搭載している(写真3)。これはCPUクーラーの高さに合わせて長さを調節できるダクトに80mm角ファンを組み合わせた冷却システムで,CPUに直接外気を送り込んで冷却できる。サイドパネル部から外気を直接取り込むことで,ケース内温度に左右されず,発熱が大きいCPUでも安定して冷却できるのだ。

グラフ1 システム温度は高負荷時でも36℃と,アイドリング時とほとんど変わらない。ケース内のエアフローがしっかりしている証拠である
グラフ2 Taは高負荷時でも38℃を超えていない。発熱が大きいPrescottコアのPentium 4でも問題なく利用できるだろう
グラフ3 騒音のほとんどはCPUクーラーが出すものであり,
ケースそのものの騒音は非常に静かである
 スタンダードとMUSCLEBACKの厚みの違い

冷却性能は優秀で高い静音性も魅力

 MUSCLEBACKの冷却性能と騒音特性を調べてみた。冷却性能のテストは,欄外に示すPentium 4/3.20E GHz中心のシステムを組み込み,ペガシスの「TMPGEnc」を使って,MPEG-2ファイルを30分間エンコードしたときのCPU温度,システム温度,HDD温度を測定している。CPUとシステム温度はマザーボード付属のツール,HDD温度は温度センサーを使って測った。

 結果はグラフ1のとおりだ。室温27℃の測定環境で,アイドリング時のCPU温度は49℃,高負荷時でも69℃と,熱いといわれるPrescottコアのPentium 4/3.20E GHzを十分冷却できているといっていいだろう。システム温度はアイドリング時で35℃,高負荷時で36℃と差は小さい。CPU温度に20℃もの差がある条件でシステム温度がほぼ変わっていないということは,CPU周辺の熱を効率よく排気できているといえる。このことから,MUSCLEBACKのケース内エアフローはかなり優秀といえるだろう。HDD温度はアイドリング時,高負荷時ともに33℃と変わらない。HDDを搭載したシャドウベイは140mm角のフロントファンの直後にあり,効率よくフロントファンの風が当たっているのが効いているのだ。

 次にグラフ2を見てほしい。インテルは「Chassis Air Guide Revision」(CAG)で「Ta」(CPU上空温度)が38℃以下と規定しているので,MUSCLEBACKが基準をクリアできるかどうか検証してみた。テスト環境は温度テストと同じである。温度センサーをCPUクーラーの軸上に固定し,CPUクーラー上空10mmの温度を計測したところ,アイドル時は31℃,高負荷時でも32℃と,今回のテストでは問題なくクリアしている(環境温度は27℃)。

 続いて騒音テストだ。冷却性能テストと同じシステム構成で負荷をかけた状態で,ケース正面から1m離れて測定している。結果はグラフ3のとおり。騒音値は39dBAとなっているが,この騒音のほとんどはCPUクーラーから生じたものである。ケースファンと電源ユニットのみを作動させた場合は31dBAと,かなり静かだった。

 以上のテスト結果より,MUSCLEBACKはPrescottコアのPentium 4対応ケースとして十分な冷却性能を持っていることは間違いない。騒音レベルも冷却性能を考えると納得できるレベルだ。スタンダードモデルでも十分な機能を持っているが,2000〜3000円の追加によりはっきりと体感できる高い剛性が得られるMUSCLEBACKモデルは「買いの1台」といえるだろう。

テスト環境 ●CPU:Pentium 4/3.20E GHz ●マザーボード:MSI 865PE Neo2-P ●メモリ:elixir DDR400 256MB×2 ●ビデオカード:Albatron FX5700U3(128MB) ●HDD:Maxtor DiamondMax Plus 9(200GB) ●OS:Windows XP Professional+SP1