連載

「Windows 10 S」を新しい動作モードとして広めようとするMicrosoft鈴木淳也の「Windowsフロントライン」(1/2 ページ)

Microsoftの「Windows 10 S」に対するスタンスが変化しつつある。一部には「Windows 10 Sは死んだ」といった論調の報道もあるが、実際は死んだどころか、むしろ特定用途ではメインストリーム製品としてプッシュする勢いで扱いが変わってきているのだ。

 Windows 10の新エディションとして2017年5月に追加された「Windows 10 S」。MicrosoftのノートPC「Surface Laptop」が初採用の製品で、海外ではHP、Lenovo、Acer、富士通といったサードパーティーが同OS搭載PCを用意している。


「Windows 10 S」をプリインストールしたMicrosoftの13.5型ノートPC「Surface Laptop」

 Windows 10 Sは、ビジネス向けの機能が充実した「Windows 10 Pro」をベースとして、Microsoftストア経由でのみアプリのインストールを認めるなど、法人向けに機能を制限することで、高速起動をはじめとするパフォーマンスとセキュリティに注力しているのが特徴だ。

 言い方を変えると、Windows 10 Sとは実質的にWindows 10 Proそのものであり、機能を制限しているにすぎない。そのため、無料アップグレード対象期間内のデバイスであれば、追加料金なしで手軽にWindows 10 Proに移行でき、対象外のデバイスであっても49ドルでアップグレードできる。Windows 10 ProからWindows 10 Sに戻すことはできない不可逆な関係だが、両者が根本的に同一であることには変わりない。

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Windows 10 Sのデスクトップ画面。見た目は通常のWindows 10とほぼ同じだが、利用できるアプリはMicrosoftストアからダウンロードしたものに限られる

 こうした中、MicrosoftはWindows 10 Sのターゲットとする市場を当初の「(Chromebook対抗の)教育向け」から、ビジネスをはじめ幾分か広い範囲に拡大しようとしている。

エディションから動作モードになる「S」

 この最初の動きとなったのが「Windows 10 Enterprise in S mode」だ。Microsoftが2017年9月にIgniteカンファレンスで発表したもので、2018年春をめどに「Windows 10 Enterprise」の新しい動作モードとなる「S mode」をリリースする。

 つまり、企業向けエディションのWindows 10 EnterpriseをWindows 10 Sとして利用する動作モードを用意するということだ。エディションではなく動作モードという扱いになる点に注目したい。Windows 10 SとWindows 10 Enterprise in S modeは別の製品であり、アップグレードにより前者から後者への移行が可能になるという。

 さらに興味深いことに、通常のWindows 10 Sは「(Windows 10 Proの)廉価版」に位置付けられており、Windows 10 Proにアップグレードするのに追加料金が掛かるが、Windows 10 EnterpriseのS modeについては追加料金なく移行できる。

 これはWindows 10 Enterpriseがもともとボリュームライセンス経由でのみ提供されていること、あえてS modeで運用する理由が「セキュリティ強化のため」であり、そもそも当初のWindows 10 Sの位置付けとは異なることに由来する。


「Windows 10 Enterprise in S mode」とWindows 10 S、Windows 10 Enterprise、Windows 10 Proの関係

 そして2018年になって出てきた新情報が「Windows 10 Home in S mode」だ。米Neowinが2月2日(米国時間)に報じているが、同日に開催されたWindows Insider Program参加者向けの「Feedback Hub Quest」において、「Windows 10 Home/Pro/Enterprise」の「S mode」で動作するOSを通常版に切り替える「Quest」が提示されたのだという。Windows 10 Pro/Enterpriseについては前述の通りだが、今回初見となるのはWindows 10 Homeだ。

 このFeedback Hub Questは次期Windows 10大型アップデートの「RS4(1803)」を対象としたものなので、2018年4月以降にリリースされる新機能ということになる。Windows 10 Enterprise in S modeの提供時期が2018年春の予定であることも合わせて、RS4の投入タイミングでHomeとEnterprise向けのS modeが導入されることが見込まれる。

Windows 10 Sに納得しているユーザーたち

 ここで興味深いデータがある。米Thurrott.comでWindows関連動向に詳しいブラッド・サムス氏が2月3日(米国時間)に報じた調査結果だが、Microsoftによれば、サードパーティー製デバイスにおけるWindows 10 Sのユーザー滞留率は60%に達するという。

 またWindows 10 Proにアップグレードしたユーザーの60%が購入から24時間以内にそれを実施する一方で、購入から1週間以上アップグレードしなかったユーザーの実に83%がそのままWindows 10 Sの状態で使い続けているという。

 もっとも、該当する製品は全体から見れば母数が比較的少ない上、Windows 10 SからProへの無料アップグレードが2018年3月まで提供されるSurface Laptopが含まれないという問題がある。

 ただ、「Windows 10 Sで納得」しているユーザーは一定数以上いるということであり、これにMicrosoftが多少なりとも自信を持ったのか、より「S」をプッシュする方向性を明らかにしつつある。

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