「Windows 10 S」を新しい動作モードとして広めようとするMicrosoft:鈴木淳也の「Windowsフロントライン」(2/2 ページ)
Microsoftの「Windows 10 S」に対するスタンスが変化しつつある。一部には「Windows 10 Sは死んだ」といった論調の報道もあるが、実際は死んだどころか、むしろ特定用途ではメインストリーム製品としてプッシュする勢いで扱いが変わってきているのだ。
コンシューマー向けにWindows 10 Sを投入する意図
MicrosoftがWindows 10 Sで狙うターゲットの典型的な例は、特定のアプリケーションを集中的に利用するタイプの「ファーストラインワーカー(Firstline Workers)」だ。小売業やサービス業、製造業などにおいて、企業と顧客の接点となる最前線で働く従業員をこう呼んでいる。
また、Windows 10 Sは前述のWindows 10 Home in S modeが示す通り、コンシューマー方面にも進出する動きが出てきている。
コンシューマーにおけるWindows 10 Sで代表的なのは、間もなく市場投入が開始されるAlways Connected PCこと「Windows on Snapdragon」デバイスで、ARMプラットフォーム向けにカスタマイズされたWindows 10 Sが搭載されている。
同プラットフォーム向けには現状で(パフォーマンス上の理由から)Windows 10 Sのみが提供されるが、将来的にWindows 10 Proへのアップグレードパスが提供されるとMicrosoftでは説明している。
もともと、Windows 10のHomeとProの違いは、前者が企業向け機能を持たない点にある。例えばAzure ADやActive Directoryへの参加、Bitlockerへの対応、アップデートの制御などがHomeでは行えない。
下記は企業向け機能を中心にWindows 10 S(ProのS mode)、Home、Proの各エディションの違いを紹介した図だが、これだけを見ると従来のWindows 10 Sが企業向けの機能を含むフルセットの構成だと分かる。
一方で、本来WindowsなどのPCの利用に不得手な一般ユーザーが利用することを想定した場合、これらの豊富な機能はほとんど不要であり、より安全性を高めるというセキュリティ的な観点から考えれば、Windows 10 HomeのS modeに適合しそうなケースは割と多いのではないかと考える。
MicrosoftとしてもOSの管理が容易になるMicrosoftストアとUWP(Universal Windows Platform)の組み合わせを推奨したいと思われ、これが一連のS mode導入の動きにつながっている。
米Windows Centralのザック・ボーデン氏によれば、こうしたアイデアを広く浸透させるため、OEMメーカー各社にPCの販売におけるS mode搭載を促していく考えだ。ただし強制ではなく、S mode採用時はライセンス料金などの面で優遇策を設ける措置で差別化を図っていくという。
またWindows 10 Proをベースとした従来のWindows 10 Sとは異なり、Education、Enterprise、Homeといった各エディションに導入されるS modeでは、通常版へのアップグレードに際して追加料金が掛からない。
これはWindows 10 Proの廉価版に近い位置付けで機能制限がある通常のWindows 10 Sに対し、残りのエディションでのS modeは管理上の理由から機能制限を設けた状態にすぎず、特にEnterpriseなどはライセンス料金自体に違いが発生しないと考えられるからだ。
その意味では、OEMメーカーからS mode状態で出荷されるPCは「デフォルト設定がS mode」になっているだけで、必要に応じてユーザーはいつでもS modeを外して通常のWindows 10に変更できる。EducationやEnterpriseはグループポリシーでこれを禁止できるが、Homeはその限りではない。
RS4の登場した4〜5月以降に順次対応PCが市場に登場すると思われるが、市場の反応を見つつ、この辺りの戦略についてあらためて考察したい。
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