「TEC値」――やっぱり“省電力”は外せない:知って得する「ビジネスプリンタ」ワード
プリンタ/複合機の選択で後悔しないためには、知っておきたいキーワードがある。第1回は省エネ性能を知るために欠かせない指標の「TEC値」だ。
→特集:2011年秋冬のビジネスプリンタ
省エネに配慮したプリンタ選びでは要チェックの指標
ページプリンタにおいて、「TEC値」とは省エネ性能を示す指標だ。TECは「Typical Electricity Consumption」(標準的な消費電力)の頭文字を取った言葉で、読みは「てっくち」。単位は1時間あたりの消費電力量である「kWh」(キロワットアワー)で示される(1週間単位の「kWh/週」と表記されることもある)。
例えば、TEC値が「0.98kWh」ならば、1時間あたりの消費電力が0.98キロワットであることを示す。消費電力なので当然、「値が低い=電力消費が低い」という意味だ。省エネが声高に叫ばれる現在、ページプリンタを選ぶ上では欠かせない指標といえる。
国際エネルギースタープログラムに適合するための基準
TEC値はオフィス機器の国際的な省エネ制度「国際エネルギースタープログラム」に適合するための基準となる値だ。国際エネルギースタープログラムは世界7カ国・地域で実施されており、日本は日米両政府合意のもと1995年10月から参加している。プログラムの認定範囲は広く、コピー機や複合機、プリンタ、スキャナ、FAX、デジタル印刷機、ディスプレイ、PCと多岐に渡る。
一定の省エネ基準を満たした製品には同プログラムのロゴ使用が認められ、日本ではメーカーが経済産業省(事務局は財団法人省エネルギーセンター)に登録することで、このロゴを製品に使用・表示できるようになる。同プログラムのロゴマークは、PCやディスプレイなどに貼られた星形マークと「ENERGY STAR」の文字が書いてあるステッカーでおなじみだ。
同プログラムのスタート当初、プリンタや複合機の省エネ基準は待機電力のみが規定されており、適合させることは技術的にかなり容易だった。しかし、2007年4月からは実使用の状態に近い測定方法に改定され、動作時も含む全体的な省エネの追求が求められている。この新しい測定方法というのが、TEC値を算出するTEC方式だ。
TEC値の算出方法とは?
それでは、TEC値とはどう算出されるのだろうか? よくスペック表やカタログの欄外に「概念的1週間の消費電力量。稼働とスリープ/オフが繰り返される5日間+スリープ/オフ状態の2日間として計算」などの説明を見たことがあるだろう。これが、TEC値の算出方法だ。
これでは何をいっているのかさっぱりだが、簡単に説明すると「オフィスでプリンタを1週間利用すると仮定します」「利用するのは月曜から金曜までの5日間で1日8時間は電源オンと仮定します」「土日は休みなので電源切るかスリープ状態と仮定します」という条件で、1週間使い続けたトータルの消費電力量を1時間あたりに換算した数値ということになる。
つまり、一般的なオフィス環境における利用状況に近い測定方法での消費電力量なので、ユーザーが製品を選ぶうえで、非常に参考になるわけだ。この方法で計測された消費電力量が一定の基準値以下であれば、国際エネルギースタープログラムの認定を受けられる。この基準値は印刷速度によって定められ、印刷速度が高速なほどTEC値は高い。
ちなみに、2009年7月1日からは、TEC値の基準に適合した上位25%の製品のみ同プログラムのロゴ使用が可能と、条件はさらに厳しくなっている。
プリンタにおけるTEC値の算出方法
・概念的1週間の消費電力量(kWh)
※概念的1週間は、稼働とスリープ/オフが繰り返される5日間+スリープ/オフの2日間で構成
※基準値は、製品速度(印刷または複写の速度)に基づき算出
カラーページプリンタ(電子写真方式)における基準値 | |
---|---|
製品速度(ipm) | 基準値(kWh) |
≦32 | (0.10kWh/ipm)+2.8kWh |
32<ipm≦58 | (0.35kWh/ipm)−5.2kWh |
58<ipm | (0.70kWh/ipm)−26.0kWh |
TEC値が優れたプリンタ/複合機
国際エネルギースタープログラムがTEC値を採用し、さらに厳しい基準を定めたことにより、プリンタメーカー各社は動作時も待機時も省エネ性能を向上させることが必須となった。
特にレーザー/LED方式のページプリンタは、印刷時にトナーを200度前後の高温で融解させて用紙へ定着させるために使う「定着器」の加熱が必要で、このウォームアップに数百ワット〜千数百ワット程度と大量の電力を消費し、印刷中はこの高温状態(高い消費電力の状態)を維持しなければならない。これはTEC値を下げるうえで大きな問題だ。
TEC値を下げるアプローチはいくつかあるが、例えばキヤノンの「Satera」シリーズは独自の「オンデマンド定着」技術により、低いTEC値を実現している。
「オンデマンド定着」技術は、熱伝導効率が高く熱容量が低い「定着フィルム」と、線状の「セラミックヒーター」を採用。薄い定着フィルムとセラミックヒーターが接触する構造になっており、定着フィルムが回転するときだけ(紙が通過する間だけ)ヒーターが作動、フィルムを介してトナーに熱を与えて画像を定着させる仕組みだ。
この機構で待機電力が不要になり、瞬時に立ち上がるウォームアップレスの高速起動と低消費電力を両立でき、TEC値の低減にも大きく貢献している。
そのほか、他メーカーのプリンタ/複合機においても、従来より低温で定着するトナーや定着器の熱効率アップ、コントローラの省電力化などでTEC値の低減を追求した機種が増えつつある。TEC値を下げるためには技術開発力が必要で、「TEC値が低い=技術力がある」という解釈もできるだろう。
TEC値がランニングコストを決定するわけではない
このようにTEC値は製品の省エネ性能を判断するのに重要な指標だ。
ただし、プリンタのランニングコストを判断する場合、本体を導入するのに必要なコスト、1枚あたりの印刷にかかるコスト、トナーをはじめとする消耗品のコスト、長期運用での保守サービスにかかるコストなど、TEC値に加えて、さまざまな要素を考慮する必要があることは覚えておきたい。
また、省エネとともにエコの視点で製品選びを考えた場合、国際エネルギースタープログラムの適合に加えて、エコマーク認定や各種環境規格への適合、さらにはリサイクルしたプラスチック材を部品に使っていたり、消耗品を回収して積極的にリサイクルするようにメーカーが努めていたり、環境に配慮してCO2排出を低減するカーボンオフセットのトナーや消耗品を出していたり、といった点までチェックすると万全だろう。
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