月収5000万円超の人気ゲーム実況者をTwitchから引き抜き Microsoftの後追いで勝つやり方:ITはみ出しコラム
Twitchの人気プロゲーマーが活動拠点をMicrosoftのMixerに移すと発表しました。IT業界ウォッチャーとしては、またMicrosoftが後追いでシェアを取りにきたぞ、という印象です。
米Amazon.com傘下のゲーム実況サービス「Twitch」で大金持ちになったプロゲーマーの1人、Ninjaことリチャード・タイラー・ブレヴィンスさん(28)が、これからは「Microsoft Mixer」でだけゲーム実況すると宣言しました。8月1日(現地時間)のこの発表により、ゲーム実況界わいには衝撃が走っています。
Ninjaは、主に「Fortnite」の実況で人気を集め、Twitchで1472万フォロワーを誇るプロゲーマーです。ただ、IT業界ウォッチャーとしては、ゲーム実況者の移籍(?)より、AmazonとMicrosoftの闘いがここでも、という視点になります。TwitchはAmazonの、MixerはMicrosoftのゲーム実況プラットフォームです。ざっくり言うと、Amazonが育ててきたゲーム実況という市場に後から入ってきたMicrosoftがシェアを取りに来たぞ、という感じです。
Twitchはそもそも、「ゲーム実況」を商売として成立させたサービスです。2011年6月に立ち上げたころはゲームに特化していたわけではないのですが、ユーザーの使い方を見て「これは商売になる」と気付いて育ててきたのです。
これに最初に目を付けたのはYouTubeが軌道に乗ってきていたGoogle。YouTubeのゲーム実況コーナーにでもしたかったのでしょう(その後、2015年にYouTube Gamingを立ち上げました)。でも最終的にはAmazonが2014年に約10億ドル(!)でTwitchを買収しました。
AmazonのビジネスはGoogleほどゲーム実況と相性が良さそうにも思えませんが、Amazonプライムとの連携や、ゲームの販売などにメリットがあるのでしょう。
一方、せっかくXboxというゲームサービスをやっているのに(TwitchではXboxのゲーム実況もやっている)、Microsoftはやや出遅れた感があります。2016年6月になってようやくTwitch対抗の新興企業Beamを買収し、2017年にMicrosoft Mixerとして公開しました。
Twitchで不満が出ていた「レイテンシ(遅延)がほぼゼロだよ」とか、「Twitchにはないコミュニケーションツールや収益化ツールなどがあるよ」とか、ゲーマーにアピールしてきました。後追いだと最初から冷静に特徴を打ち出せます。
今回のNinja引き抜きは、そうしたアピールの1つでしょう。ゲーム実況でもうかることはあまり知られていないかもしれませんが、YouTuberと同じように、視聴者をたくさん獲得すれば、スポンサーがつき、それだけで生活できる人もいます。Ninjaの場合は昨年3月のCNBCのインタビュー記事によると、月収50万ドル(約5300万円)です。
そうしたスターをたくさん抱えれば、それだけプラットフォームのユーザーも増えるわけです。「これからはMixerだけで実況するよ」と言ったNinjaに、Twitchでの1472万人のフォロワー全員が付いていくとは思えませんが、ある程度のエクソダスはありそうです。視聴者としては、TwitchとMixerの両方を使えばいいのですが、スポンサーは人気者に付いていきます。
移籍発表の翌日、Ninjaは公式Twitterアカウントで「Mixerで50万アカウントがフォローしてくれたよ」とツイートしています。Twitchのフォロワーは1472万でしたが、Mixerの初速としては順調なのでしょうか。
Microsoftは後追いでも勝つまで攻め続ける?
Mixerがこの調子でTwitchに勝つかどうかはまだ分かりません……。でも、ゲーム業界に限らず、Microsoftのこれまでを振り返ると、これはどこかで見た風景。そう、最近では「Slack」対「Microsoft Teams」のビジネスチャットツールを巡る闘いと似たパターンです。
先行するSlackに後追いのTeams。あれよあれよという間に、少なくともDAU(日間アクティブユーザー数)ではTeamsがSlackを超えたようです(Slackはそれまで発表していたDAUを直近の四半期業績発表では発表しなかったので、超えたと言い切れませんが、発表しなかったのが答えになっている気がします)。
こちらの経緯も、TwitchとMixerの関係にちょっと似ています。2013年8月立ち上げのSlackがぐんぐん伸びていた2016年4月にMicrosoftがTeamsを発表。その時点では「ようこそ」と余裕をかましていたSlackでしたが、お金も人材もたっぷりなMicrosoftががんがんTeamsを強化していった結果のDAU1300万人突破(7月)です。Slackは6月に上場していますが、厳しい戦いになりそうです。
Slackの創業者、スチュワート・バターフィールドさんは、かつてFlickrを立ち上げ、Yahoo!に買収されて、最終的に骨抜きにされた苦い経験を持っているので、どこか(例えばAmazon)に買収される気はないと思いますが、こちらの戦いからも目が離せません。
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