NECが生成AIビジネスに取り組むワケ 激化する“基盤モデル”開発競争を勝ち抜くための戦略とは?
生成AIブームの今、注目のキーワードが「基盤モデル」だ。各AIベンダーたちの間で基盤モデルの開発競争が激化する中、それぞれの開発状況や強みを探っていく。今回は、NECに話を聞いた。
生成AIブームの今、注目のキーワードが「基盤モデル」だ。大量のデータを事前学習したAIモデルのことで、少しのチューニングを施せば、さまざまなタスクに対応できる。米OpenAIの「GPT-4」といった生成AIも包含する概念だ。
さまざまな企業が生成AIを使った業務効率化を試行錯誤する中、各AIベンダーたちの間では基盤モデルの開発競争が激化している。そこでこの特集では、基盤モデルを開発するAIベンダーに一問一答インタビューを実施。開発状況や独自の強みなどを探っていく。今回は、NECに話を聞いた。回答してくれたのは、同社のGenerative AI HUB エバンジェリストである野口圭さん。
NECの基盤モデルの特徴や強みは何か?
世界トップクラスの日本語能力を持ちつつも、パラメータ数をコンパクトに抑えることで、モデルの省電力化・軽量化・高速化を実現し、運用コストの抑制が可能です。標準的なGPUサーバで動作するとともに、顧客の業務に特化させた大規模言語モデル(LLM)が短期間で容易に構築可能となります。
また、他社比最大150倍の長文処理能力(最大30万字)の研究開発実績があり、顧客のビジネスに活用いただけるよう長文対応を推進しています。
基盤モデルで解決できる業務課題にはどのようなものがあるか?
社内外業務文書や社内マニュアル、書籍(文書、新書)といった膨大な量の文書を扱う業務や、会議議事録、コールセンター履歴、診療記録、メール、SNSへの投稿など、幅広い業務へ対応することを想定しています。
また、業種・業務に特化可能な強みを生かし、金融業では資産運用アドバイスや企業情報分析業務、小売り・流通業では、商品の推薦やコピーライティング、医療の分野では医療文書の自動作成など幅広く活用できると考えています。
NEC社内においても、資料作成時間の50%削減、議事録作成時間を平均30分から約5分に短縮、また引継ぎのためのコード解説作業では工数の75%が削減という効果が出ているなどの成果も出始めています。"
なぜ基盤モデルの開発を決めたのか?
主に2つの理由があります。
(1)2023年の2月には米Meta社が「LLaMA」と呼ばれるアカデミア用途で自由に使えるオープンなLLMを公開したことで開発者コミュニティーが活気づき、世界ではいま爆発的にLLM技術が進歩しています。
しかし、LLaMAや海外のLLMは英語に特化したモデルのため、日本語の処理や日本文化の理解などは得意ではありません。日本語で利用可能なモデルは、英語圏の数十分の1のサイズにとどまっている現状があります。今後のAIや普及を考えると、日本が自ら技術を進展させる力を持つことは非常に重要であると考えました。
(2)NECはAI研究用スーパーコンピュータを保有し23年3月に運用を開始しました。一般的なスーパーコンピュータとは異なり、深層学習に適した大量の行列演算を行うことができるGPUをベースにした国内企業で最大のスーパーコンピュータです。
このリソースを活用することができれば、日本語でも精度の高いLLMを実現できると考えたことも一つの理由です。
(関連記事:NECの大規模言語モデルが一般初公開 現地の様子は)
他社と比較した際、競合優位性はどこにあるのか?
全部で5つの点があると考えています。
(1)NEC開発のLLM「cotomi」の軽量さを生かし、顧客の業務に特化したファインチューニングが可能
(2)業務に応じて適切にcotomiだけでなく他社LLMを選択し活用を支援
(3)すぐにLLMを使える生成AI関連ソフトウェア「NEC Generative AI Framework」を提供
(4)顧客のセキュリティ要件などに合わせて印西データセンター(プライベートクラウド)、Microsoft Azure(パブリッククラウド)、オンプレミスからLLMの利用環境を選択可能
(5)社内活用のためのコンサルティング、生成AIポリシー策定など、DX推進に向けた人材育成プログラムを提供
どのようなエコシステムを作っていきたいか?
NECの生成AIにおけるマネージドAPIサービスでは、NECが開発したcotomiなどのLLMを活用した対話機能や検索機能を提供します。このマネージドAPIサービスを中核として、3つのスコープで生成AIビジネスを展開します。
これまでNECが培ってきた業種・業務に対する深い知識とノウハウを活用し「個別企業をターゲットとした業種・業務特化モデルの構築(スコープI)」を経て「業種・業務特化モデルの業務パッケージ/ソリューションへの組み込み(スコープII)」、そして「パートナーシップを結んだ企業による業種・業務特化モデルの活用(スコープIII)」を通じたビジネスの拡大を実現します。"
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