文化庁の「AIと著作権の考え方」を理解するための“3つのポイント” 弁護士が簡潔に解説(3/3 ページ)
約2万5000件のパブリックコメントが集まり、話題となっている文化庁の「AIと著作権に関する考え方について(素案)」。3月に発表となる最終版の発表を前に、その簡単な概要や位置付けについて紹介する。
3.生成・利用段階は“依拠性の考え方”に注目
生成・利用段階でも、さまざまな重要論点が挙げられていますが、1つ挙げるとすると、著作権侵害に関する考え方が注目されます。
例えば、イラストの生成AIでは、AI利用者が意図せずに既存イラストに似たイラストを生成することがあり得ます。この場合に、利用者が既存イラストの著作権を侵害したといえるか、という点は、考え方が定まっていませんでした。著作権侵害の成立には、他人の著作物に依拠した、という「依拠性」の要件があるところ、AIの場合に「依拠性」をどう捉えるかについて議論があったためです。
「考え方」では、AI利用者が既存の著作物を認識していなかった場合について、AIの学習用データに既存の著作物が含まれる/含まれない場合に分けて検討されています。
まず、AI学習用データに既存著作物が含まれない場合ですが、生成物が既存著作物に類似していても、偶然の一致として、依拠性は認められず、著作権侵害は成立しないと考えられるとされています。
他方で、AIの学習用データに既存の著作物が含まれる場合は、著作権侵害になり得るとしました。ただし、一定の場合は著作権侵害にならないとの例外も示されています。
ごく簡略化して記載しますと、生成AIにおいて学習に用いられた著作物が生成されないように技術的措置が講じられているなど、生成・利用段階で利用されていないと評価できることをAI利用者の側で主張・立証できた場合は、著作権侵害にならないとの考え方です。
こちらも、さまざまな意見があり得、何かの措置が講じられていようが、学習した著作物と似た著作物が生成された以上、依拠性ありとして著作権侵害になるという考えもあり得るでしょう。
仮に「考え方」の現行案が最終版に採用された場合は、各生成AIを利用する際に「技術的措置」が講じられているかどうかを利用者は確認することが重要になります。
この他、著作権侵害があった場合に、著作権者が生成AIの開発事業者に何を請求できるのかという論点や、AI利用者のみならず「AIの開発事業者」や「AIのサービス提供事業者」が責任を負うことはあるのか、という論点についても考え方が示されています。
以上「考え方」のポイントを簡単にお伝えしました。生成AIを活用中または活用予定の方は、今回の「考え方」の最終版が出された場合には、内容をよく確認頂くことをお勧めいたします。
今回は本当にごく簡単に内容をご紹介しておりますので、現時点で、各論点について、より詳しく知りたい方は、記事執筆時点で最新版である、2024年2月29日版の「考え方」の本文をご確認ください。
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