23個のAIツールを9カ月でスピード開発──ZOZO、生成AI活用に前のめり 大量展開のコツを聞いた(2/2 ページ)
ファッションECサイト「ZOZOTOWN」を運営するZOZOは、生成AI活用に積極的な姿勢を見せており、独自のAIツール23個を約9カ月で開発、全社で展開している。同社が実行している「生成AI業務活用プロジェクト」の裏側について話を聞いた。
プロジェクトの旗振り役で、ZOZOのAI・アナリティクス本部AI事業戦略部に所属する川田心さん(生成AI推進ブロック ブロック長)によると、同プロジェクトでは「対象領域の選定」「生成AIの調査」「簡易PoC」「ニーズ調査」「PoC対象選定/準備」「PoC」「企画化」「大量開発」の8つにフェーズに分けて段階的に取り組むことで、9カ月でのスピード開発を実現させたと話す。
「当社ではChatGPTの登場から、生成AIに業務効率化の可能性を感じており、会社としてもAI活用には前のめりの姿勢だった。生成AIといってもさまざまな種類があるので、まずは対象領域の選定から入った」と川田さん。まずは文章生成AIと画像生成AIで業務活用をすることを決め、市場に出回っている各AIサービスの調査を開始し、プロジェクト内で簡易PoCを進めたという。
この結果を基に、ZOZOのビジネス部門23部署に所属する86人にニーズ調査を実施し、計261件の意見をリストアップした。その後PoCの対象として、業務時間が明確なものや解決イメージが湧く意見を3つ選び、実際にツールを作成。PoCの検証結果から、24年3月末までに対応すべきニーズを261件の意見から改めて企画として選び大量開発を進めたところ、そのうち50件のニーズを満たす23のツールの開発に成功した。
川田さんはこの8つのフローのうち、特にニーズ調査は時間をかけて行ったと話す。「生成AIが結局どれだけのことができるのかが分からなかったため、ニーズのヒアリングを丁寧に行った。時間はかかるが、各部門の部員と対面でミーティングを重ね、業務課題や現状の業務フローを一つずつ聞いていった」
具体的に意見が上がったのは「社内の問い合わせ対応を減らしたい」というニーズだ。情報システム部門に同じような質問が頻繁に来たり、稟議書のひな型の場所を聞いたり、ありふれた質問を自動化したいという要望が多かったという。
「ヒアリングに時間をかけたおかげで、実際の業務フローの中にAIツールを組み込むことができて、利用率はかなり高い状況。現在はさらに追加の要望をもらい、既存のツールの改善と新ツールの開発を進めている」
画像生成AIのビジネス活用は、引き続き模索
一方でプロジェクトを通して見えた課題もある。文章生成AIを利用したツールについては多くのニーズに応えられているが、画像生成AIを使ったツールについては想定していたほど社内のニーズには応えられていないのが現状という。
画像生成AIへのニーズの具体例としては「ZOZOTOWN上に掲載するバナーのを作りたい」「社内用のポスターへの文字入れが難しいので、AIを活用したい」などの声があった。しかし現状の画像生成AIでは、思った通りのテイストでの画像の出力や、日本語の文字出力が思うようにコントロールできないと説明する。そのため、画像生成AIの業務活用方法は今後も模索していきたいと川田さん。
「このプロジェクトで開発したツールの利用者からは、生成AIへの理解が深まったという声も上がっている。そこで深めた知識を活用し、おのおのが企画する仕事でも応用する人が増えている。実際にツールを触ってもらったのは、社内のリテラシー向上という意味でも意味があったと感じている」
ITmedia デジタル戦略EXPO 2024夏 いよいよ開幕!
経営×IT×事業のコラボレーション――変革を進めるためのオンライン展示会
いよいよ開幕した「ITmedia デジタル戦略EXPO 2024 夏」。デジタル経営戦略やAI活用、業務効率化など10カテゴリーをラインアップし、ビジネスパーソンが"今"知りたいデジタル戦略の最前線を探求します。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
生成AIでコーディング効率化!→待っていたのは“失敗の日々” とあるITエンジニアとAIの試行錯誤の記録
「生成AIに振り回された3カ月間の成功と失敗」──リンクアンドモチベーションは、そう題した講演を行った。同社のソフトウェアエンジニアが開発生産性を上げるため、生成AIでコードを編集するために試行錯誤した3カ月間の体験談を話した。
「GitHub Copilot全社導入」の前にたちはだかった3つの壁 ZOZOはどう乗り越えたか
AIプログラミング補助ツール「GitHub Copilot」の導入に踏み切る企業が増えている。「ZOZOTOWN」を運営するZOZOもその一つだ。では一体どのような仕組みを整備することで、ZOZOはGitHub Copilotの全社導入を実現させたのか。
「社内のアレ分からん、教えてAI」 LINEヤフーが独自ツールを全社導入 RAG活用で年80万時間削減へ
LINEヤフーは、独自開発した生成AIツール「SeekAI」を全従業員向けに導入すると発表した。これにより、社内規定やルール、問い合わせ先、コーディング時の技術スタック、顧客や取引先とのコミュニケーション履歴などをより効率的に把握できるという。
DMM.comの生成AI活用事例 23卒新入社員がAI推進を主導 問い合わせ業務を月163時間削減した裏側
生成AIによるイノベーションにひかれ、さまざまな企業で生成AI活用が進んでいる。DMM.comもその一つであり、同社はその中心人物に2023年卒の新入社員を起用している。どのような経緯を経て、そのような体制へと至ったのか。同社に話を聞いた。
経営層自ら“社内ChatGPT”を全社展開 日清食品CIOが語るAI促進の極意
5月22〜24日に開催した展示会「NexTech Week 2024【春】」で、日清食品ホールディングスが自社の生成AIの活用事例を紹介した。同社の執行役員CIOでグループ情報責任者を務める成田敏博さんが登壇し、“社内ChatGPT”の活用方法などを話した

