人間のさらにその先へ──将棋AIはまだ強くなれるのか? 「水匠」と「やねうら王」の開発者が語る“歴史と未来”:CEDEC 2024(3/3 ページ)
将棋AIが人間のプロ棋士を下し、AIが対プロ棋士の公式戦で初めて勝利を収めてから11年。将棋AIはどのようにして強くなってきたのか、またこれからどのように強くなっていくのか。日本を代表する開発者が将棋AIのこれまでとこれからを語った。
対照的に、従来の将棋AIと異なる作りになっているのが、後者のディープラーニング系だ。米Google DeepMindが開発したモデル「AlphaZero」に端を発し、探索アルゴリズムの一種である「モンテカルロ木探索」とディープラーニングを組み合わせている。
この組み合わせは将棋以上の複雑さを持つ囲碁AIの計算でも使われており、膨大な指し手の候補から効率よく最善手を探すことを可能にする。このモデルを参考にして作った将棋AI「dlshogi」の活躍や、その開発者が執筆した将棋AIの参考書が広まったことによって、その強さは増していった。
これらのテクノロジーを活用した現行の将棋AIは、人間に比べてどれほど強くなったのか。相対評価で対戦競技の実力を示す「イロレーティング」で比較してみると、水匠が4776、24年の将棋AI世界大会で優勝したAI「お前、CSA会員にならねーか?」が4914である。人間の限界は3000超といわれており、レーティングの差が500ある場合は上位者の勝率が95%となることから、人間が将棋AIに勝利するのはほぼ不可能だといえる。
こうした将棋AIについて、プロ棋士たちは主に対局の復習と予習に利用しているという。自分が指した将棋の棋譜をAIで解析し、どこの手が良くなかったのか、それに代わる最善手の考察や、今後の対局で出てくる可能性の高い局面をAIで調査。対戦時に有効な一手や、どのくらいの勝率があるのかを学ぶことに使われている。
「ワンアイデアであなたも世界一の将棋AIを作れる」
すでに人間のはるか高みにいる将棋AI。しかし今後、将棋AIはさらに強くなる可能性があるという。例えば、ディープラーニング系の将棋AIの評価関数は現在、画像識別の分野でよく出てくる「ResNet」と呼ばれるものが主流となっている。
これに「attention」という仕組みを導入することで、さらに強くなることが判明している。attentionは、ChatGPTなどの大規模言語モデル(LLM)に使われている技術で、主に入力データの中で、各要素が他の要素に対してどれくらい重要かを判断するものだ。このような機械学習分野での最新の知見を導入することで、将棋AIはさらに強くなる可能性があるという。
この他にも、将棋AIにはまだまだ改良できる点が残っており、そのうち1つでも改良できれば、より強い将棋AIを作れる可能性がある。またNNUE評価関数を組み込んだAIモデルとディープラーニング系のAIモデル、どちらのソースコードもオープンソースで公開中だ。
そのため、杉村さんとやねうらおさんは「ワンアイデアであなたも世界最強の将棋AIを作ることができる」と説明。エールとも挑戦状とも受け取れる言葉を残し、講演を締めくくった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
ポケモンバトルに特化したAI、ポケモン社が将棋AIの会社と開発 「竜王戦」ライブ配信に活用
ポケモン社は9日、ポケモンバトルに特化したAI「Pokemon Battle Scope」(PBS)を開発したと明らかにした。
「AIより先に良い手を発見することある」──藤井聡太叡王と将棋AI「Ponanza」山本一成さんが対談
戦略や手筋の研究にAIを活用していることでも有名な藤井聡太叡王だが、たまに“AIを上回る一手”を見つけることさえあるという。名人をも下すAI将棋ソフト「Ponanza」開発者の山本一成さんは「これが実際あるんですよね。なかなかないと思ってたんですけど」と驚きをあらわにした。
プロ棋士向け最強将棋AIマシンを組む! ある相談から全てが始まった
「ディープラーニング系の将棋ソフトを使いたい」──広瀬章人八段のこんな相談から、ITmedia NEWSの新しい連載が始まった。
「CPU最強 vs. GPU最強」──進化する将棋AIのいま プロに勝利した「Ponanza」から「水匠」「dlshogi」まで
将棋のプロ棋士である広瀬章人八段向けに「最強の将棋AIマシン」を組むべく奔走する本連載。今回注目するのは、「CPU計算による将棋ソフト」と「GPU計算による将棋ソフト」のいまの実力と、それにつながる技術的な変遷についてだ。
広瀬八段、将棋AIマシンで研究スタート 早速優勝も ソフト設定から広瀬流の研究方法まで
プロの将棋棋士が研究に使える、“最強の将棋AIマシン”を組むべく記者が奔走する本連載。今回はソフトウェアの設定から、実際に広瀬章人八段にマシンをお届けし、使ってもらったファーストインプレッションまでをお届けする。




