AIイラストの商業利用は誤りか? 仏マンガ出版社の炎上騒動が話題 メール取材で経緯を聞いた
商業利用におけるAIの部分的な使用は誤りだった──出版社の仏chattochattoが起用したAIイラストが物議を醸している。
商業利用におけるAIの部分的な使用は誤りだった──出版社の仏chattochattoが採用したAIイラストが物議を醸している。同社は、“AI利用を公言している”日本のイラストレーターとコラボレーションし、あるAIイラストを採用。しかし、一部のユーザーからAI利用について苦情が相次いだため、同社はイラストの採用を取り下げ、騒動を謝罪した。ITmedia NEWSでは、chattochattoに取材をし、取り下げに至った経緯を聞いた。
問題になったのは、日本のイラストレーター・おしつじ(@your_shitsuji)さんが制作したchattochattoのイメージキャラクターのイラストだ。おしつじさんは自身のXアカウントで、イラストに画像生成AIを使うと公言しているイラストレーター。同社は6日、コラボレーション企画として、おしつじさんのイラストを採用したと発表した。
しかし、chattochattoの発表では採用したイメージキャラクターがAIイラストであることを明記していなかった。結果、X上では一部ユーザーから「AIイラストだと知っていて採用したのか?」といった苦情が噴出した。
その後、同社は「おしつじさんがAIを使っているのは認識している」という旨を明らかにし、7日に販売していたおしつじさんのイラストの取り扱いをやめると発表した。
これに対し、一部のユーザーがここまでの一連の流れをX上に投稿したところ、その内容が拡散される事態になった。これを受け、おしつじさんは「出版社との契約時点でAIを使っていると説明している」と説明。chattochattoも9日、騒動に関する追加説明をXに投稿した。
投稿では、おしつじさんから企画段階でイラスト制作にAIを使用しているとの報告を受けていたことを改めて説明。また同社は、おしつじさんがイラストを制作するプロセスも確認しており、主要な作業は人間の手で行い、修正などにAIを使う分には問題ないと判断したとしている。
一方、これらのフローを踏んだにもかかわらず、販売中止となったことについて同社は「イラスト制作におけるAIの使用は、私たちにとってより曖昧で理解が十分でなかった。日本のユーザーとの建設的なやりとりを通じて、商業的な場面でAIを部分的にでも使用することは許されないと理解した」などと述べている。
「この事件に関してアーティストが受けた嫌がらせについても、強く非難したいと思う。AIの使用に賛成でも反対でも、冷静で思いやりのある議論こそが、状況の理解を深め、前進するための鍵だ。多くの方々が私たちとこのように話し合ってくれたことに感謝し、それが私たちに適切な決定を下す助けとなった。AIの使用に関しては、ハラスメントではなく、思いやりを持って議論を行ってくれ」(chattochatto)
一方おしつじさんは、今回の騒動について出版社と話し合って解決済みであるとXに投稿。自身への誹謗中傷には法的に対処していくとしている。
なぜAIイラストを取り下げたのか? chattochattoに聞いた
ITmedia NEWSは今回の騒動について、chattochattoにメール取材を実施。そもそもなぜ、おしつじさんのイラストを採用したのかを聞くと「おしつじさんと一緒に仕事をしようとした際、自身の作品にAIを使用していることを知らせてくれた。当社はその分野について深い知識はなかったが、単純におしつじさんの作品を評価していたため、承諾した」と返事があった。
また、取り下げの経緯については「作品を発表した際、当社と仕事をする他アーティストやクライアント、Xのユーザーから、AIイラストを使った作品を販売することに対し、倫理的な問題があるのではといった意見があった」と説明。同社はこれらの意見も鑑みて、取り下げを決めたという。
「おしつじさんはイラスト取り下げについて、状況を理解して決定を受け入れてくれた。しかし残念ながら、この決定を受けておしつじさんは大量の誹謗中傷を受けた。当社はアーティストが受けたあらゆる言葉の暴力を非難する。AIに賛成であれ反対であれ、誰かに嫌がらせすることは正当化できない」(同社)
同社は、イラストの制作における生成AIが抱える問題や課題について、十分に理解していなかったことを認めつつ「議論の際には冷静に自身の主張を述べることが重要だ。そうすれば各自が意見を自由に持つことができる」と述べている。
また、生成AIにかかわる法整備などが済むまでは、AIイラストや生成AIが関与した商品は取り扱わないとの方針を示した。
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