リクルート社員1500人超にAI活用法を指南 同社の社内コミュニティー発起人は、生成AIをこう扱う:トップ人材は、生成AIをこう使う
エグゼクティブやインフルエンサー、企業内のAI活用推進者などの生成AI活用法に注目。今回は、リクルートで社内の生成AI活用コミュニティー「AI Update」を発起した佐藤優一さんによるAI仕事術を紹介する。
ChatGPTの登場から数年。後続サービスも続々と誕生し、ビジネスにおいて生成AIの活用は当たり前になりつつある。一方、毎日のように更新され続ける情報に追い付けず、まだその真価を発揮し切れていないという人も多いだろう。
そこで本連載では、エグゼクティブやインフルエンサー、企業内のAI活用推進者などの生成AI活用法に注目。圧倒的な実力を発揮する“トップ人材”たちは、どんな生成AIをどのように使いこなしているのか。そしてそんな人材を抱える企業は、どのようにAIを利活用しているのか──業界や職種を問わず追いかける。
今回は、リクルートでサービスの要件定義などを担当する傍ら、社内の生成AI活用コミュニティー「AI Update」を発起したという佐藤優一さん(プロダクト統括本部 プロダクトデザイン・マーケティング統括室)によるAI仕事術を紹介する。
佐藤さんが利用する生成AIサービス・LLM
- ChatGPT Enterprise:ビジネス検討や要件定義の効率化。「課題の洗い出しから仮説構築、施策ラインアップの生成、優先順位付け、要件定義」などに活用しているという。
本人コメント
2022年以降生成AIが急速に注目される中、まずは自分の担当業務で試験的に導入し、プロダクトのビジネス検討や要件定義において、売上につながる商品改善や、工数削減という成功体験を得ました。
例えばとあるサービスのレコメンドメールのUIエンハンスでは、生成AIを活用して施策検討のプロセスを自動化しました。まず、KPIを達成するためのUI施策案を生成AIに1000個作成してもらい、改善効果の高い順にソート。次にソートした中から蓋然(がいぜん)性が高そうな施策を目検で選び出します。
選定された施策に対しては、ABテスト結果のシミュレーションを行い、効果見立ての精細化を実施。さらに、ハルシネーションリスクに配慮し、Web検索機能付きの生成AIを用いて多言語でエビデンスを収集し、施策の正確性を裏付けました。
施策を実施する際には、さらなるグロースの可能性があるか、またはリスク要因が潜んでいないかといった論点を、生成AIを用いて整理──という一連の流れで施策検討を行いました。
この知見を個人で抱えるだけではもったいないと感じ、24年11月ごろに「AI Update」という社内コミュニティーを立ち上げることにしました。オンラインで隔週1時間、最新の生成AIトレンドや活用事例、ChatGPTによる業務効率化の手法や具体的なプロンプト紹介、実践の支援を行っています。
直近は1500人を超える従業員の参加表明があり、プロダクトマネジャー、エンジニア、データサイエンティスト、営業、マーケター、経営企画など、多様な専門性を持つメンバーが集まっています。
勉強会では、生成AIで実行できるユースケースを探索するために業務全体を棚卸しする方法、プロンプトエンジニアリング、GPTの基本設定を共有しています。
一方で、各部署や案件によって課題が異なるため、自分の学習内容をそのまま横展開するだけではうまく機能しない場合もありました。そこで、希望者には自分自身がフォローアップの場を設けることで、各自の現場の具体的な課題に沿ったシナリオを一緒に検討する取り組みを進めています。
さらに、プロンプトに慣れていない人でも使いやすいよう、汎用的な作り方や自動生成機能を整備しノウハウを組織知として蓄積。アーカイブ動画やイベントレポートを共有することで、リアルタイムに参加できない従業員にも学びを深められるようにしています。
例えば参加者が勉強会後に実践できるよう、自動化できそうなタスクを「GPTs」(ChatGPTのカスタム版を作る機能)で作成した「タスクジェネレーター」で洗い出し、同じくGPTsで作成した「プロンプトジェネレーター」や、私が過去に作成したプロンプトライブラリーを活用して、AIに適切な指示を与える仕組みを構築しています。
さらに、部署ごとにカスタマイズしたプロンプトライブラリーを作成したい場合に備え、「Google Colaboratory」上で大量のプロンプトを一括生成できるPythonコードも提供しています。また、得た知見を現場に持ち帰って共有してくれた社員にGPTsやプロンプトを参加特典として贈るなど、自主的な情報発信を促進する仕組みも導入しました。
直近では、セールスの部門が生成AIを活用した新たな提案手法を確立し、編集組織が独自のプロンプト活用術を展開するなど、業務で実行に移すケースが増えています。
生成AIはまだ発展途上の技術ですが、特定の人だけの知識やスキルにとどまらず、あらゆる人が活用できる環境を整えることで、思いもよらないアイデアや創意工夫を経て、価値が生まれると考えています。
次回の記事では、IIJで社内のAI活用支援に取り組むエンジニアによるAI活用術を紹介する。
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