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コラム

AIバブル崩壊はいつ訪れる? 3つの「致命的トリガー」を考える NVIDIA決算の安堵は「嵐の前の静けさ」か(3/3 ページ)

「AIバブルは本当に続くのか」という不安は、むしろ強まっているように見える。もしバブルが弾けるとしたら、どんな形をとるのか。2026年以降に実際に直面し得る「3つの壁」を、AI・データセンターを巡る海外メディアの報道やテック各社の財務状況などに基づいて整理してみたい。

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第3の壁:テック企業が電力会社や製造業のようになる?

 AIはテック企業の“高収益モデル”を壊す――最後の壁は財務諸表の中にある。AIビジネスは、テック企業が長年築いてきた「高利益率」を大きく揺るがしている。

 MicrosoftやGoogleが長年維持してきた営業利益率40%超という水準は、ソフトウェア特有のビジネスモデルがあってこそ成り立っていた。一度開発したプログラムを、追加コストをほとんどかけずに何百万人もの顧客に提供できる。粗利益率は90%を超える世界だ。

 ところがAIは違う。AIは「ハードウェアと電力の塊」だ。

 主要ハイパースケーラー5社の設備投資は25年に3000億ドルを超える見通しで、売上高対比23%。過去の水準(11〜16%)を大きく上回る。そして巨額投資のツケは、減価償却という形で利益率を圧迫し始めている。その影響は、すでに決算数値に表れている。

 AWSを抱える米Amazonでは25年1Qの営業利益率39.5%が、2Qには32.9%に下落。たった3カ月で約7ポイント低下した。理由として、同社のブライアン・オルサフスキーCFOは「AI関連インフラ投資による減価償却費の増加」を挙げている。

 米Metaはさらに厳しい。設備投資は24年の380億ドルから26年には800億ドル超へ倍増すると見込まれ、営業利益率は48%から35〜38%へ10ポイント以上圧縮される予想だ。

 加えて技術の進化が速いため、設備の耐用年数が短くなる。Amazonは25年1月、サーバとネットワーク機器の耐用年数を6年から5年に短縮すると発表した。これだけで営業利益が年間7億ドル減る。

 つまり、今年買ったGPUが翌年には半分の価値しかないことすらある。

 これらは株主が嫌う展開だ。テック企業は「高成長×高利益」が当然とされてきたが、AIによって事業は電力会社や製造業のような“資本集約型”へと姿を変えつつある。

 設備投資の比率は当面高止まりする見通しで、投資負担から解放される日は遠い。株主が「売上は伸びても利益が出ない」状態に耐えられなくなると、取締役会が動き、CFOが「設備投資計画の見直し」を発表する。

 その瞬間、AIバブルの終わりが始まるかもしれない。GPU発注はキャンセルされ、データセンター計画は凍結され、NVIDIAの株価は急落する。派手な崩壊ではなく、静かな撤退だ。

数字が語る、静かな終焉

 バブル崩壊は、大きなニュースからではなく、数字のほころびから静かに始まることがある。

 NVIDIAの25年第3四半期決算は好調だった。しかし翌日から株価が下落したのは、市場が電力・コスト・財務という3つの壁を意識し始めたからだろう。GPUを動かす電力が足りない。推論の採算が合わない。設備投資が利益率を押し下げる。どれも技術そのものの失敗ではない。しかし3つが重なれば、企業はNVIDIAへの発注を止める。

 2026年、この3つの壁が本格的に立ちはだかる可能性がある。音楽が止まるのは、誰かがスイッチを切るからではない。“入場料”と“フロアの広さ”が足りなくなったとき、ダンスフロアは自然と静まり返るのだ。

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