科学なニュースとニュースの科学
【第10回】メタンハイドレートははたして21世紀の新エネルギー源なのか?
3月3日に、東大や海洋研究開発機構などが、メタンハイドレートが海底から泡のように立ち上がってる様子を、新潟県上越市沖30キロの日本海で撮影することに成功したという記事が新聞に発表された。
これについて、東大の松本良教授(地質学)はコメントを出してるんだけど、新聞によってその引用部分が違ってたりする。ある新聞記事では、「2万~3万年前の氷期にはメタンが多く大気中に放出され、寒さを緩める方向に働いていたはず」と言っていた部分を引用しているのに対し、ある新聞記事では「メタンハイドレートの採取や探査につながる」と言っている部分を引用している。一方で、この現象が、海水中に溶け込んだメタンガスが大気中に放出されて、気候に影響を与えるシステムの解明につながるかもしれないってことには、どちらの記事も言及はしてるんだけど、それってどういうことかははっきり書いてないのが、とても気になる。
というのも「メタンハイドレートは石炭、石油に代わる新たなエネルギー源であり、日本近海に大量に埋蔵されているため、資源のない国であった日本が資源大国になるものすごいチャンス」みたいな見方をする人もあるんだけど、ほんとにこれ掘り出して使うようになったら、それこそ石炭や石油の時よりとんでもない環境破壊につながったりする可能性もあるんじゃないのってことが、すごく気になってるのだ。
とまあ、いきなり結論から話し始めちゃったんだけど、ここでちょっと「メタンハイドレートって何?」というところに話を戻そう。
メタンハイドレートというのは、メタン(ちなみに、これって天然ガスの主成分だったりする)を中心に、周囲を水分子が囲んだ形でできている物質のこと。この構造を維持するためには、低温で高圧である必要があるため、地球上だとシベリアなんかにある永久凍土の下か、海底にしか条件の合う場所はない。で、実際にはほとんどのメタンハイドレートは海底にあるらしい。
外側は全部水の分子でできていて、なおかつ低温の状態でのみ存在してるわけだから、つまり見た目は氷みたい(普通に地上に持ち出すと氷みたいに溶けるし)なんだけど、火をつけたら中のメタンと反応して燃え始めるため「燃える氷」というような呼ばれ方をすることもある。乱暴だし、正確じゃないけど、要は天然ガスが氷みたいな形になったものだと考えてもらうとわかりやすいかも。
石油や石炭と比べると、燃焼時の二酸化炭素排出量がおよそ半分しかないので、地球温暖化対策としても有効な新エネルギーであるという人もいる。
先に書いたように、海底の中でも特に日本近海は世界最大量のメタンハイドレートが埋蔵されていると言われていて、これを採掘することができれば、日本のエネルギー問題を一気に解決できると考えている人々もいる。
と、ここまで読むと、いいことだらけみたいでしょ。でも、世の中そんなにうまい話は転がっていないのだ。
だいたい、なんでそんなに良いこと尽くしなら、なんで開発が進んでないのかってことがある。
答は簡単。相手はなんたって深い海の底(だいたい、大陸棚から深海底へとつながっていく海底斜面の、水深1000~2000メートルあたりの、そのまた地下数百メートルあたりにあるだろうと言われている)にあるから、石炭みたいに簡単には掘り出せないし、そうかといって石油(液体)やガス(気体)と違って固体なもんで、汲み上げるってわけにいかない。要は、今のところ、低コストで大量に採取する有効な方法が見つかってないのだ。
そして、もう1つの問題は、手段が仮に見つかったとして、一度に大量採取しちゃってもいいのかという問題がある。最初に引用した松本教授の言葉をもう一度注意深く読んで欲しい。
実は、海中に湧き出したメタンが、さらには、空中に達することによって、地球温暖化の一因になっていると考えている学者もいるのだ。なんせ、メタン自体が大気中に放出された場合、二酸化炭素の20倍もの温室効果があるっていうんだから大問題。もちろん、二酸化炭素と違って、メタンは大気中で分解されるのが12年程度だってことなんだけど、そうはいっても、大量に大気中にメタンが放出された場合、短期間では不可逆な気候変化を引き起こさないという保証はない。
石炭、石油、原子力と、利益と引き替えに痛い思いも何度もしてきてるんだから、今回こそは早急な実用化よりも、安全性を充分かつ慎重に検討してもらいたい。いや、結局のところ、「やっぱり掘り出せませんでした」で終わっちゃう可能性も高いんだけどね。
堺三保氏のプロフィール
作家/脚本家/翻訳家/批評家。
1963年、大阪生。関西大学大学院工学研究科電子工学専攻博士課程前期修了(工学修士)。NTTデータ通信に勤務中の1990年頃より執筆活動を始め、94年に文筆専業となる。得意なフィールドはSF、ミステリ等。アメリカのテレビドラマとコミックスについては特に詳しい。SF設定及びシナリオライターとして参加したテレビアニメ作品多数。仕事一覧はURLを参照されたし。2007年1月より、USCこと南カリフォルニア大学大学院映画学部のfilm productionコースに留学中。目標は日米両国で仕事ができる映像演出家。
ウェブサイトはhttp://www.kt.rim.or.jp/~m_sakai/、ブログは堺三保の「人生は四十一から」。
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