心の限界点を超えてしまう前に:「職場がツライ」を変える会話のチカラ(3/3 ページ)
今、あなたの周りに精神的なストレスを抱えている人はいませんか? 自分を追い込まず、仲間を失ってしまわないためには、事前の心のメンテナンスが大切です。「聞く」をテーマに、自分や仲間の「心のケア」について考えてみましょう。
仲間が感じていることに気付くには
自分の心をケアするにはどうしたらいいのかが分かってくると、仲間にはどうしたらいいのかも分かります。基本的には「もう1人の自分」への接し方と同じです。
仲間の心をケアするには、まず仲間が「なにか言いたそうだな」「問題を抱えていそうだな」ということに気付く必要があります。けれども「仲間の悩みに気づきなさい」と言われても、そう簡単に気づけるものではありません。どうすればいいのでしょうか。
仲間の心の状態に敏感になるには、自分の心の状態に敏感になればいいんです。
わたしが以前一緒に仕事をしていた仲間に、A君という人がいました。
ある日、彼がなんだか元気なさそうに見えたので、「なんか元気がなさそうだね」と話しかけました。するとA君は「別に何でもないです。大丈夫です」と言います。
普段であれば「大丈夫ならいいや」となるのですが、その時はどうもわたしには「大丈夫じゃない」ような気がしたんです。そこで、自分の心が感じた「大丈夫じゃないような気がした」ということに敏感になってみました。
「本当に大丈夫? なんか、大丈夫じゃないような気がするんだけど……」
と、もう一度聞いてみると、A君の反応が変わりました。
「竹内さん、ちょっと時間をもらっていいですか?」
実は、直接の上司がA君の話を聞いてくれないという不満を抱えていたのです。わたしは、その不満を30分ぐらい聞いてあげました。するとA君は、
「竹内さんに話を聞いてもらってスッキリしました。ありがとうございました」
と言って自分の席に戻っていきました。
人は、言葉を発しなくても、顔の表情や雰囲気でいろんなメッセージを発しています。ため息をついている人は、ため息をつきたい気分なんです。下を向いている人は、うつむきたい気分なんです。
「相手のささいなサインに気づきなさい」と説教くさいことを言いたいわけではありません。ただ、相手の表情や雰囲気から「おや? 何だかいつもと違うな」「何かいいたいことがある感じがするな」と感じたら、その「あなたの心」に敏感になってみてください。そしてあなたの心で感じたことを、相手にそのまま伝えてみてください。
口に出していうのは、ちょっと勇気がいるかもしれません。でもあなたが感じていることは、たいてい合っているはずです。
これは相手のためだけではありません。A君が「ありがとう」といってくれた時、言葉にしていないA君の気持ちに気づけたのだと、わたしは自分に自信を持つことができ、満たされた気分になれたのです。
心に抱いていることを話させてあげる
A君がそうだったように、人は悩みを抱えている時、誰かに聞いてほしいものです。先ほどもお話ししたように、悩みは「話す」ことで「放す」ことができるんです。ですから、「なにか悩んでいそうだな」と感じたら、「大丈夫? なにか話したいことがあるんじゃない?」と話を聞いてあげてください。話させてあげてください。
わたしが毎日のプレッシャーでへこたれそうになっていた時、当時の上司は、アドバイスをすることも「もっと頑張れ」と応援することもなく、ただ話を聞いてくれました。話したからといって、なにかが解決するわけではないのですが、「自分の話を聞いてくれる人がいる」というだけで、救われた気分になったことを思い出します。
アドバイスも応援も、いらないのです。うなづきながら、ただ話を聞くだけでいいのです。相手が自分で問題を解決できると信頼しながら……。
著者プロフィール:竹内義晴(たけうちよしはる)
テイクウェーブ代表。ビジネスコーチ、人財育成コンサルタント。自動車メーカー勤務、ソフトウェア開発エンジニア、同管理職を経て、現職。エンジニア時代に仕事の過大なプレッシャーを受け、仕事や自分の在り方を模索し始める。管理職となり、自分が辛かった経験から「どうしたら、ワクワク働ける職場が作れるのか?」と悩んだ末、コーチングや心理学を学ぶ。ちょっとした会話の工夫によって、周りの仲間が明るくなり、自分自身も変わっていくことを実感。その体験を基に、Webや新聞などで幅広い執筆活動を行っている。アイティメディア「オルタナティブ・ブログ」の「竹内義晴の、しごとのみらい」で、組織作りやコミュニケーション、個人のライフワークについて執筆中。著書に『「職場がツライ」を変える会話のチカラ』がある。Twitterのアカウントは「@takewave」。
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