いくら熱心に企画書を書いても、採用されなくては意味がない:若手社会人のためのビジネス文書作成マニュアル(3/3 ページ)
せっかくの良いアイデアや発想も、企画書や提案書の完成度が低くて採用されなかったというケースは少なくありません。課題はどこにあるのか、提案のねらいは何なのか、メリットやデメリットはどう予測できるのかなどを明確に記述することが大切です。
SWOT分析の効用と弱点
戦略を示す際のツールとして良く使われるのがSWOT分析です。
論点を分かりやすく整理できるのが重宝される理由ですが、弱点もあります。SWOT分析は、対象を次の4つの視点で位置付けます。
- 強み Strength…競合と比べ、優れているコトやモノ
- 弱み Weakness…競合と比べ、劣っているコトやモノ
- 機会 Opportunity…収益増加の機会を得る外部環境の変化
- 脅威 Threat…収益減少の脅威になり得る外部環境の変化
この4つをうまく導き出せれば、分析対象となる企業や製品の特徴と周囲の状況が分かりやすく整理できます。しかし、この分析だけでは戦略――つまり「では、どうするか?」が見えてきません。
具体的な例を挙げてみましょう。ある架空の製薬会社Aを、次のようにSWOT分析してみました。
- 強み…整形外科領域の専門製薬企業としてノウハウの蓄積がある
- 弱み…製品ラインアップが脆弱である
- 機会…高齢者の増加により整形外科領域の伸長が期待できる
- 脅威…大手製薬企業が整形外科領域の製剤開発に力を入れてきた
このように、SWOT分析の4つの枠は埋まりました。では、この会社はどんな戦略を取るべきか。弱点である製品ラインアップの脆弱性を克服するのか。あるいは、強みの整形外科領域の専門性をさらに強化するのか。それとも、大手企業と連携するのか戦うのか。SWOT分析で整理された情報だけでは、何も戦略は見えてきません。前回で述べたように「So what(だから、どうした?)」の見解が必要なのです。
ここでは、大幅な設備投資をして製品ラインアップの充足を図るより強みを生かす。つまり、営業推進力に磨きをかけて、得意領域をさらに掘り下げる戦略を取るほうがリスクは少ないと考えられます。SWOT分析の結果、欠点克服のほうにどうしても目が行きがちになるケースは少なくありません。
SWOT分析の弱点はまさにそこにあります。欠点は欠陥にならない程度に維持させ強みに注力し、そこからさまざまな戦略や戦術を組み立ててゆくロジックのほうが、企画としては力を持ちます。
POINT
- 企画の出発点は思いつきだが、アイデアを数多く出すためには、「視点」を移動させる。また、事実が検証されていない仮説は、説得力に欠ける
- 難解な表現や専門用語は極力控える。誰が読んでも分かりやすくまとめ、論理の道筋はしっかり立てる
- SWOT分析は論点を分かりやすく整理できるツールだが、「弱み」ばかりに目が行きがちな欠点もある
本記事は、『月刊総務』2013年4月号「総務のマニュアル」より転載しました。
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