テクノロジーと人間が一体となる時代、知の巨人「梅棹忠夫」が予見していたもの:21世紀版「知的生産の技術」キックオフ(2/2 ページ)
京大式カードの発案者などで知られる梅棹忠夫氏の知恵と知見を再発見しようとするイベントが開催された。21世紀の『知的生産の技術』を考える場で交わされた議論とは?
情報科学と文明学が融合する
東京大学でヒューマンインタフェースやAR(拡張現実)を研究する暦本純一教授は、中学生の時に父親の本棚にあった『知的生産の技術』を読んだことが、梅棹忠夫に触れるきっかけになったと話す。多くの読者と同様に、カードやノート作りに「ハマった」という暦本氏は当時のカードを披露しながら、「いまこの分野に自分が進んだのも、その影響が大きい」と笑う。
「『知的生産の技術』には、既に現代のユビキタスコンピューティングに通じる考え方が述べられている」と暦本氏。コンピュータが生活の中に偏在するというコンセプトは、得てして「あらゆる場所でコンピュータを活用する」というイメージにつながりがちだが、その本質は「Calm Technology=静かな技術」にあり、意識することなくコンピュータが生活に「溶け込む」点にあるという。つまり、そこで目指されているのは「効率」ではなく、梅棹氏が述べているように「人間を人間らしい状態に常に置いておくため」の「秩序と静けさ」なのだ。
自身の研究(ネット上でも話題になった「スマイルで開く冷蔵庫」など)を紹介しながら、ナレッジ(知識)からソマティック(身体的感情)に軸足が移ってきたと暦本氏。それは、梅棹忠夫氏が『情報産業論』(初出は1963年)で書いた産業発展のステップ(農業→工業→情報産業)から、今度は逆方向にコンピューティングがその領域を拡げているのが現状ではないか、というわけだ。
「コンピュータそのもの」が研究対象でIT産業の主役であった時代から、例えばスマートモビリティや、ヘルスケア・農業の分野に逆行し、その領域が広がっている、というのが暦本氏の見立てだ。
「人間の現実的な在り方は、人間と装置で形成する1つの系、システムである」という梅棹氏の講演録(「文明学の構築のために」(1981))を紹介しながら、暦本氏は「梅棹氏は昨今注目を集めるビッグデータ、スマートグリッドなどの到来を予見していて、テクノロジーと人間が一体となったものが文明であり、その行く末を考えるべきだと主張していた」と指摘する。情報科学と文明学が融合する時代に私たちは生きているのだ。
研究者やさまざま業界からのビジネスパーソン、約30人が集まったキックオフイベントは、この後も参加者の自己紹介や意見交換が積極的に行われた。
このイベントは、今後も月1回のペースでブレーンストーミング(アイデアソン)を行っていく。梅棹忠夫氏の知的生産の技術を中核にITを駆使する若い世代も加わりつつ、知恵を出し合い、ネットワーキングを通じて発展させていきたいという。Facebookページを通じて案内を行っていくということなので、関心のある読者はまずは登録してみてほしい。
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