世界基準で「チーム」を考える――セレッソ大阪がトッププレイヤーを生み出し続ける理由:ベストチーム・オブ・ザ・イヤー(3/3 ページ)
日本代表選手をつぎつぎと輩出しているセレッソ大阪の育成方法が注目されている。人材育成術やチームプレイの生み出し方、チームで成果を出す具体的な秘訣について、大熊氏と宮本氏に聞いた。
チームに必要なものは「目標」と「学びの機会」「意見を言い合える関係」
――育成部門を持ったことで、チームはどう変わったのでしょうか。
宮本: 自分のチームを好きになる人が増えたことです。「いつも自分たちは支えてもらっている、応援してもらっている」ことが分かってくれば、選手もスポンサーやスタッフに感謝するようになります。そういう心の部分が大きくなった。感謝するから、その恩を返さなければならないと思うのです。
お客さまはおカネを払って見に来てくれているのだから、プロとしてお客さまに何かを返さなければならない。試合も最後の1分1秒までやりきって頑張って、精一杯のものをお客さまに見せたい――。選手もそう考えるようになりました。
育成型にしているからこそ地元との接点も増えてきて、地域の人たちが応援するためのトリガーも増えてきた。幼いころから応援していた子が世界に行くとなれば、当然応援も熱心になり、ファンも口コミでさらに拡がっていく。ファンが増えれば、負けても応援してもらえる。
永続的に強いチームをつくっていくには、地域も巻き込んで長いスパンでクラブを育てていく方針が一番大事なのです。
――チームにとって一番必要なものは何ですか?
宮本: やはりみんなが同じところを見ているかどうかでしょう。「ここに行きたい」と思えるところが共有できているかどうかだと思います。
私は絶えず「ここに行きたい」という目標を口に出していますし、世界で成功しているのはどのようなモデルなのかも言葉で周りに説明しています。そのうえで、現場の指導方法は任せる。コーチ陣のすべての能力を出してもらう。その中から、ハードワークすべきところ、改善すべきところをさらに改革するようにしているのです。
大熊: 私はあまり多くのことは言いません。それぞれのコーチが自分で考えたことをやってもらっています。もちろんトライ・アンド・エラーもありますが、そこで“気付き”が得られればそれが一番いいのかなと思います。方向性は私自身が示しますが、それについての方法論はコーチ自身が自分で学んでいってほしいと思っています。
組織がうまく回っていくための秘訣は、それぞれが意見を言い合える環境にあることだと考えています。何事も1人ではうまくいきません。例えば、私の意見は宮本が聞いてくれるし、宮本の意見は私が聞ける立場にいる。組織全体がうまく動いていくには、意見を言い合えることが一番の要因だと思っています。
――意見を言い合える組織をつくることは難しいのでしょうか
大熊: かつては育てるよりも勝つことが優先されていました。でも、育てることも非常に難しい。偶然100〜200人集まれば、1〜2人は良い選手がいるかもしれません。一方で、組織として育成し、その上で1〜2人の良い選手を生むことには大きな違いがあります。今われわれは、そういった組織を目指している段階だと思います。
――偶然に集めることと、方針があって育てていくことは大きく違いますね
大熊: そこは大事にしているところです。偶然集まって良い選手が生まれるのは、その子の力だけであって、われわれが何かをしたわけではない。われわれはその子にプラスアルファの何かを与えていくことによって、本当のプロを育てていく。本当のプロとは何かということを皆で共有していくことが大事なのです。そのために世代ごとにしっかりとアプローチをしていく。その積み上げがあってこそ、本当のプロになっていくと思っています。選手、指導者、それぞれの役割での価値を発揮した上で組織としての目標を達成する、これこそがチームだと思っています。
(執筆:國貞文隆/撮影:橋本直己/聞き手・編集:椋田亜砂美)
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