iTMS上陸、「着うたフル」への影響は?:神尾寿の時事日想
iTunes Music Storeが、1曲あたり150円程度で日本上陸と見られている。しかし先行する音楽ダウンロードサービス、着うたフルは1曲300円だ。iTMSの上陸は、着うたフルにどのような影響を与えるだろうか?
「iTunes Music Store(iTMS)が8月に日本上陸。1曲あたりの価格は150円程度。50万曲から100万曲程度を揃える見込み」。
毎朝聴いているJ-Waveのモーニングプログラムの中で、その第一報を聞いた。6月7日付けの日本経済新聞がニュースソースであり、ITmedia ライフスタイルチャンネルでも、報道の内容についてアップルコンピュータやレーベル各社に取材を行っている(6月7日の記事参照)。
現時点で、アップルコンピュータは「報道についてはコメントできない」と口をつぐんでいる。しかし、音楽業界内ではiTMSの日本上陸は既定路線であり、「価格交渉に時間がかかっているだけ」(レコード会社幹部)という状況だ。
複数の消息筋によると、アップルは日本のレコード会社各社に対し、当初から、一部で報道された「150円」のラインでの価格設定するよう交渉していた。しかし、一部のレコード会社が「(日本の)着うたフルは1曲300円で売れている」と反発。価格交渉に時間がかかってしまったのだという。
アップルとレコード会社各社の交渉が、最終的にどう決着するかは現時点ではわからない。しかし、レコード会社側も、音楽配信サービスによる市場の拡大は必要という判断になっている。どういう形であれ、iTMSの日本上陸が間近なのは間違いないだろう。
着うたフルは価格が多層化し、市場が拡大
では、iTMSが上陸した場合、着うたフルへの影響はどのように起きるだろうか。
まっ先に考えられるのは、1曲300円前後で高止まりしているコンテンツ価格の値下げ圧力だ。仮にiTMSで「1曲150円」という価格が実現した場合、着うたフルで主流の1曲300円前後はどうしても割高に見える。ユーザーニーズに応える意味でも、中期的には、着うたフル側のコンテンツ単価は下げざるを得なくなる。
しかし、着うたフルが成功軌道に乗っている今、レコード会社にとって単純な値下げはあまり嬉しくないのも事実だ。そこで考えられるのは価格の多層化だ。
具体的には、ジャケット写真や歌詞データ付きの楽曲は現行価格のまま据え置き、「曲のみ」は200円前後まで値下げする。
着うたフル利用者の満足度調査や、筆者自身が行ったグループインタビューでは、着うたフルの「歌詞付き」を評価したユーザーは多かった。この部分をiTMSに対する“差額分”とするシナリオは十分に考えられる。
また、本コラムでも取り上げた再生期間/再生回数設定のDRMを活用するレコード会社が現れるかもしれない。多層的な音楽配信サービスと、最終的に音楽CD販売に結びつけようという取り組みは、さらに進むのではないか。
iTMSの日本上陸は、エンドユーザーにとって朗報であるだけでなく、着うたフルが始めた「音楽コンテンツ流通の変革と拡大」を推し進める力がある。音楽業界にとっても、ユーザーニーズに柔軟な姿勢で音楽配信サービスを活用すれば、中長期的には市場の活性化・拡大になるはずだ。
アップルコンピュータの話題は今、「インテル採用」で持ちきりだが、iTMS日本上陸の正式発表も楽しみである。
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