日本の携帯メーカーが生き残るために今後必要なこと:神尾寿の時事日想
携帯端末市場のボリュームゾーンを手中に収める──Nokiaが突きつける「世界戦略」の重要性を考えると、日本メーカーが生き残るために今後なすべきことは何かが見えてくる。
「Nokia Connection 2005」の記事が続々と掲載されている(参考記事1/2/3)。詳しくはレポート記事に譲るが、筆者が特に注目すべきと感じたのは、同社が着々と「ボリュームとバリューの拡大」に向けた世界戦略に取り組んでいることだ。
携帯電話市場は、第2ステージにさしかかっている
先日、ノキア・ジャパンの担当者と意見交換をしたときにも話題になったのが「先進市場の成熟により、端末メーカーは必然的にボリュームとバリューの拡大に取り組まなければならない」という事だった。
これは自動車産業の現在になぞらえるとわかりやすいだろう。
モータリゼーション当初は、先進諸国の普及拡大期であり、各国メーカーは「内需」だけでも十分な市場規模があった。また、普及拡大期はモータビリティとしての「クルマが欲しい」というニーズが中心であり、少車種・大量生産によるスケールメリットを追求することができた。
しかし、モータリゼーションが終焉するとともに、先進国市場は成熟期に入り、買い替え需要が中心となる。内需は一定レベルに落ち着き、一方で、ユーザーがクルマに求めるニーズが拡散。ライフスタイルにあわせた「多車種・少量」のラインナップ構成が必要になった。
この市場変化に対応するため、自動車メーカーがクルマの基本構造(プラットフォーム)を複数車種で共有し、各部品もモジュール化する手法を編み出したのは周知の通りである。生産面では“大量生産”だが、市場のラインナップ構成ではデザインやユーティリティ設計の違いにより、“多品種・少量”になる仕組みだ。
しかし、それでも買い替え中心に転換した事による需要の減少は避けられない。自動車メーカーは世界規模でのスケールメリットを前提にプラットフォーム開発をし、「各地域市場での販売数は少量でばらつきがあっても、世界規模では大量」になる戦略をとっている。自動車メーカー同士の合従連衡が加速し、「400万台クラブ」という言葉が生まれたのも、先進国のモータリゼーションが終了し、世界規模を前提にしなければビジネスにならなくなったからである。
世界シェアの低い日本メーカーの課題
携帯電話端末の世界も、まさに自動車産業と同じ局面に差し掛かろうとしている。
先進国における普及拡大期は終わり、iモードを代表とするマスマーケット向けの機能の高度化も、今後は大規模な進展は難しくなるだろう。サービスが端末ニーズを大きく牽引する時代は終わり、ユーザーニーズは拡散していく。遠からず、コンシューマー層を中心に、ライフスタイルに合わせた「多品種・少量」のラインナップ構成が必要になってくる。
その時、日本の携帯電話メーカーはどうするのか。
多品種・少量のラインナップ構築には、世界市場のスケールメリットを前提としたプラットフォーム戦略が不可欠だ。しかし、日本の携帯電話メーカーは、日本市場の特殊性とキャリアのインセンティブモデルの上にあぐらをかき、世界規模でのシェアが低い。各国市場にプラットフォームを最適化するノウハウの蓄積も、ノキアなど海外メーカーに比べて出遅れている。
携帯電話の場合、リテラシーの産物たる「UIの最適化」や「市場ごとの機能ニーズの違い」というハードルは確かにある。しかし、それもソフトウェアのモジュール化が進めば、「UIや付加機能の部分は地域ごとに最適化」という手法が取れるようになる。クルマにおける「地域ごとにハンドル位置や装備品を変える」程度の問題にしかならなくなる可能性が高い。
ノキアは世界市場を前提に、ハイエンドからエントリーまで多数のラインナップを構築しようとしている。1メーカーで40機種以上というと多いようだが、世界規模での投入とプラットフォーム化を前提とし、BRICsやアフリカなど新興市場も存在することを考えれば、むしろ少ないくらいだ。
日本の携帯電話メーカーは、真剣に世界戦略を考えるべき時期にきている。海外市場でシェアが取れなければ、いずれ日本市場という足下すら危険になる。自動車産業で「内需中心」を改められなかったメーカーは、たとえ高級車メーカーでもブランドを買い叩かれて世界規模のメーカーに吸収されてしまった。日本の携帯電話メーカーは、その轍を踏んではならないだろう。
幸い、日本の携帯電話メーカーにはデバイスレベルの高い技術力がある。日本のユーザーによって育てられた、高機能をコンパクトに実装する能力も持っている。これらを生かさない手はない。
また、日本の携帯電話キャリアも、日本メーカーの海外進出・シェア獲得を積極的に支援すべきだ。日本メーカーの海外での成功は、日本市場向け端末に対しても、技術やデザイン、コストの面で、メリットが環流するからだ。
新たな時代にむけた日本メーカーの努力に期待したい。
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