2015年7月27日以前の記事
検索
連載

FeliCa/モバイルFeliCaの歴史を振り返る(後編)神尾寿の時事日想・特別編(1/2 ページ)

物流分野向け無線ICとして誕生したFeliCaは、長い雌伏期間を経て「Suica」に採用された。カードに電池が入っていた試作時代、香港オクトパスカード導入に向けての開発などの歴史を、エピソードと写真で振り返る。

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena

 香港で利用されているFeliCaカード、「オクトパスカード(Octopus Card)」をご存じだろうか。公共交通のICカードとしてMTRやフェリーの改札・券売機で利用できるのはもちろん、店舗やコンビニエンスストア、自動販売機、インスタント写真撮影機などでも電子マネーとして利用できる。1997年から本格稼働し、現在発行枚数は1200万枚以上、サービス事業者の数は300社以上を誇る。


香港のオクトパスカード。1日あたり850万回以上利用されている

 1988年から開発が始まったものの、JRでの採用が10年先になってしまったFeliCaにとって、1994年の香港オクトパス・カーズ社がFeliCaを採用したことは、まさに僥倖と言うべきものだった。鉄道総研に紹介され、ソニーはオクトパスカードの入札に参加したものの、当時のFeliCaに導入実績と呼べるようなものはなかったからだ。FeliCaの先進性が評価され、香港で世界初の導入実績が作れたことは、後のJR東日本の「Suica」採用にも大きな影響を与えた。

当初、FeliCaカードには電池が入っていた

 さらにFeliCaにとってオクトパスカードは、“育ての親”という一面もある。

 「オクトパスカードは“ICカードの理想論”ともいえる仕様でスタートしていまして、例えばFeliCa(や後のモバイルFeliCa)の大きな特徴であるマルチアプリケーションによる汎用性も、オクトパスの要求仕様によって実用化されました。また現在のFeliCaカードは(電磁誘導による)電池レスの構造ですが、最初はカードの中に電池が入っていました。実はオクトパスの正式仕様が届くまでは、カード内にバッテリーが内蔵されていたのです。しかし、これではメンテナンス性が悪いと言われて、現在のFeliCaカードの仕様になっていったのです」(ソニーFeliCaビジネスセンター事業戦略室事業戦略課統括課長の竹澤正行氏)

 取材時に見せてもらった最初期のFeliCaカードには確かにバッテリーのスペースがあり、中には液体バッテリーを使ったものもあったという。「夏の実験中に内部の溶液が干上がってしまい、注射器で補充することもあった」(竹澤氏)というエピソードも残されている。


定期券に貼られた試作のFeliCaカード。中に電池2つとFeliCaチップが見える

FeliCaの試作カード2タイプ。上のカードの黒い部分、下のカードの銀色の部分はどちらも電池だった。銀色の電池には液体を注入していたという
       | 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る