ノートPCが「3G inside」になる日:神尾寿の時事日想
PC系通信インフラと携帯電話系通信インフラは別々に発展してきたが、3Gネットワークの発展とともに、徐々に融合が始まりつつある。ノートPCが3G通信機能を内蔵する日は、そう遠くないかもしれない。
eWEEKによると、IntelとGSMを推進する業界団体GSM Associationが、ノートPCがもっと簡単に高度なGSMネットワークに接続できるよう協力する意向を示したという(2月16日の記事参照)。この取り組みが実現すれば、ノートPCにはSIMカードスロットが用意され、Wi-Fiだけでなく、自動的にGSM、GPRS、EDGE、HSDPAネットワークにも接続できるようになるようだ。
IntelのCentrinoに代表されるとおり、ノートPCがワイヤレス通信機能を内包することはPC業界が熱心に取り組んできた課題である。IrDAなどから始まり、現在は多くのPCがWi-Fiを内蔵するようになったが、今後、より広いエリアの携帯電話系ネットワークがサポートされるのは、ユーザーのニーズを鑑みても当然だろう。料金プランの課題はあるが、HSDPAなど3Gの進化と歩調が合えば、かなり現実的なサービスとして3G内蔵が実現していく可能性が高い。
ノートPCはモバイルブロードバンド+3G
しかし、3Gでデータ伝送効率が向上しているとはいっても、巨大な電話機市場とノートPC向けのサービスで限られた電波資源を分け合うことには限界がある。この傾向は携帯電話市場のマルチメディア化が進む日本市場で顕著であるが、海外でも3G投資回収のためにキャリア主導で携帯電話向けサービスの高度化・ARPU向上を進める動きが一部で見え始めており、こういった地域では日本と同様の課題が生じるだろう。カバレッジエリアの点でノートPCへの3G内蔵は大きな流れになりそうだが、それはWi-Fiなど他の無線ネットワークと補完関係で進むだろう。
その中で最近特に注目されているのが、モバイルブロードバンド向けの新たな無線ネットワークの台頭だ。この分野はモバイルWiMAXや802.20などが代表的であり、今後、チップベンダー、メーカー、キャリアなどがそれぞれの立場で商用化を目指していく。ノートPC向けのワイヤレス通信環境は、将来的にWi-Fi、新方式のモバイルブロードバンド、そして3Gの多層構造になり、それらがシームレスな補完関係を持つようになる。
実際、先週KDDIが行ったウルトラ3Gショーケース(2月16日の記事参照)でも、モバイルWiMAXと3GのEV-DOのシームレス接続が積極的にアピールされていた。将来的なノートPCの無線サービス需要の高まりを考えれば、KDDIの取り組みは今後のトレンドに合致しているといえるだろう。
これまで日本の携帯電話キャリアは「ノートPC向け」を電話機市場ほど重要視してこなかった。しかし、日本市場は小型軽量のモバイルノートPCの受容性が高いので、ノートPC向けの安価で使いやすい通信サービスの潜在需要は大きい。特に法人市場では、社員の生産性向上が重視される一方で、個人情報保護法の施行により、ノートPCからの情報漏洩リスクを軽減する「サーバー管理型」のモバイルソリューションが求められている。ノートPC向けの通信サービスは今後、高い成長率が期待できるだろう。
ノートPCが3Gを内蔵することは、モバイルノートPCのニーズを底上げするだけでなく、キャリアのインフラ投資や周辺ビジネスにも影響を及ぼす。今後、注目しておく必要がある分野の1つと言えるだろう。
関連記事
- Intelとモバイル業界団体、ノートPCの3G対応で協力
IntelとGSM Associationは、ノートPCに3G携帯ネットワーク対応のモデムやSIMカードを組み込むためのガイドライン作成で協力する。 - KDDIが大阪でWiMAXの実験、「ウルトラ3Gとの接続にも成功」
KDDIは2月16日、大阪でモバイルWiMAXの実験を行った。モバイルWiMAXとEV-DOの切り替え、基地局間のハンドオーバーなどのデモを披露した。 - KDDIが考えるWiMAXの“役割”
複数の通信方式を統合するウルトラ3G構想の中で、IEEE802.11nと次世代CDMA2000の間を埋める「ワイヤレスブロードバンド」の役割を担うのがWiMAXだ。 - モバイルWiMAX実証実験リポート:ウルトラ3Gに向けて着実に“部品”の準備を進めるKDDI
KDDIの「ウルトラ3G」とは、モバイルWiMAXや無線LAN、EV-DOなどさまざまなネットワークをシームレスに統合することを目指す世界だ。今回はその要素の1つであるモバイルWiMAXの、大阪で行われた実証実験を取材した。 - モバイルWiMAX実証実験リポート:EV-DOを補完するモバイルWiMAXの実力は
高速走行中のバスからの接続、EV-DOとのシームレスな切り替え――KDDIは大阪でモバイルWiMAXのデモを行い、その実力を披露した。 - 「可能なら来月からでもWiMAXの実験をスタートしたい」──ドコモ
NTTドコモの中村社長は第3四半期決算発表の席上で、WiMAXの実証実験を積極的に行っていきたい意向を示した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.