「スマートプラスは人間向けのETCを目指す」――UFJニコス(前編):Interview: (2/2 ページ)
ビザ・インターナショナルが「VISA TOUCH」の決済スキームとして採用したことにより、俄然注目度が上がっているのが、UFJニコスのクレジット決済サービス「スマートプラス」だ。スマートプラスの特徴や、マルチリーダー/ライターの難しさについて訊いていく。
目指すは人間向けのETC――レジの混雑緩和が目的
他方式に対する、スマートプラスのメリットとは何だろうか? 鳴川氏は「スマートプラスは、何しろ処理が速い。これが一番の取り柄」と話す。「非接触ICによる決済の一番のメリットは、速さ。それだけに、スマートプラスでは速さにものすごくこだわっている。また、FeliCaのスタンダードがSuicaになっている現状、Suicaに(処理スピードの)劣るものを出しても、受け入れられないだろうという思いもあった」(鳴川氏)
親カードとなるクレジットカードに対し、単機能のスマートプラス(カード・携帯)を発行し、専用端末で利用するという考え方は、クレジットカードとETCカード、料金所の関係によく似ている。「考え方はまさにETCカードと同じ。ETCが料金所の混雑を緩和したように、スマートプラスが普及して、レジの混雑緩和が進めばいい。スマートプラスは、人間向けのETCカードを目指しているのです」(鳴川氏)
実際にデモを見せてもらったが、おサイフケータイをかざし、決済終了を知らせる音が鳴り、レシートがプリントアウトされるまで数秒だった。確かに速い。しかしリーダー/ライターの読み取りスピードを上げるだけでは、実際にレジでかかる時間を短縮することはできない。決済処理を速く行うためには、店舗のオペレーション全体を簡単にしなくては意味がないのだ。
同社がスマートプラスのターゲットとしているのは、全国や地域のチェーンで、すでにPOSによるインフラを持っているところだ。具体的には、スーパー、コンビニといった業種である。最近はサインレスでクレジットカードを使えるスーパーなども増えてきたが、まだまだ多数派とはいえない。また、サインレスの場合でも、オーソリゼーション(注:サーバーへの問い合わせ)作業があると、それだけで30秒程度かかってしまう。店員が一人の客にかかる時間を減らし、レジの回転率を上げたい店舗側にとって、これではあまりメリットがない。
マルチリーダー/ライターは万能ではない
店頭でクレジットカードの支払いをするときの流れを思い出してみよう。店員はレジで金額を計算したあと、レジとは別にクレジット端末を取り出し、そこにクレジットカードを通して、レジで計算した利用金額を入力する。その金額でセンターに問い合わせ、OKであれば利用結果(ジャーナル)をプリントアウトし、客がサインして終了する。
この流れを大きく分けると、
1 店員がクレジット端末に金額を入力する
2 センターに問い合わせる(オーソリゼーション)
3 ジャーナルをプリントする時間
4 客がサインを行う
の4つの過程で時間がかかっていることになる。
クレジット端末に、スマートプラスのような非接触IC決済端末を一体化させれば、オーソリと客のサインは不要になる。(3)もリーダー/ライターとプリンターを高速化すれば対応できる。残りは(1)にかかる時間だ。
そこでUFJニコスが進めているのが、POSレジとスマートプラス用端末の連動の促進である。店員が合計金額を2度打ちする手間がなくなれば、レジの回転率をさらに上げることができ、入力ミスも減る。最近ではクレジット端末機能を内蔵したPOSレジが増えているので、そこにスマートプラスのリーダー/ライターを連動できれば、上記の(1)〜(4)をすべてクリアできる。
スマートプラスでは、FeliCaチップの中に、プラスチックカードと近い仕様でカード情報を書き込んでいる(2月22日の記事参照)。そのため、リーダー/ライターが読み取ったカード情報を、そのままPOSレジに渡せるのはスマートプラスの大きな特徴となっている。「現在利用されている、クレジット端末機能を内蔵したPOSレジとの連動がしやすくなる。(iDやQUICPayも)最近はPOSとリーダー/ライターが連動できるような新型のPOSを開発しているが、すでにあるPOSに連動できるリーダー/ライターは、スマートプラスだけだろう」(鳴川氏)
決済スピードを重視するために、マルチリーダー/ライターの導入にも慎重だ。「お店がそれでいいのであれば(マルチリーダー/ライターの導入は)アリかもしれないが、正直なところ、速度重視のスマートプラスはマルチリーダー/ライターの思想とは反するかもしれない。事前にユーザーが(どの方式を使うか)宣言する、あるいは数回タッチするなどの方法が考えられるが、実際の運用を考えると、それを受け入れる店舗に混乱が起きそうで心配だ。受け入れ側にとっては、手間も増えるし、マルチ対応することでコストも上がってしまう。それでも店舗はマルチリーダー/ライターを入れたいか、という話だろう」(鳴川氏)
後編では、スマートプラスがどのような思想で対応店舗の拡大を進めているのか、また、ドコモのDCMXについての見解を聞いていく。
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