技術のキャスティングボートは日本が握っている──日本TI:Interview(2/2 ページ)
ドコモのFOMA端末の多くが採用するチップセット、OMAP/OMAP2を供給している日本テキサス・インスツルメンツは、世界の中でも特に日本市場に注目しているという。その理由はどこにあるのだろうか。
プロセッサの高機能化と統合は状況をにらみつつ判断
ハイエンド向けのチップでは、さらなる機能と性能の向上を目指すTIだが、一方で純粋に機能や性能だけでなく、コストパフォーマンスを求める声も確実にある。そのような顧客には、アプリケーションプロセッサとベースバンドを1チップ化した統合チップを提供する。TIとしては、マルチチップか統合チップか、どちらか一方に決めて推進するつもりはなく、セグメントやニーズに合わせて最適な製品を投入していく考えだ。
「もし市場で要求される機能や性能が、ワンチップの統合チップで実現できるのであれば、ワンチップ化した方がコスト面では有利であり、TIでもできればそうしたいという考えはあります。しかし性能を追求していけば、上には上があります。技術はなかなか市場の要求に追いつけません。技術はただ作ればいいというものではなく、成熟させる必要もあり、一朝一夕にできるものではないからです。ですから、新しい技術を開発してもそれをすぐにワンチップに統合するというのは難しい。やみくもに、何でもかんでもワンチップにした方がいい訳ではありません。ワンチップ化するか、それともマルチチップのままプロセッサを提供するかは、慎重に検討する必要があります」(水上氏)
Bluetooth機能を例に挙げると、現在国内でリリースされている端末でBluetoothを搭載しているものはごく一部しかない。すると、すべてのTIのチップにBluetoothを統合してしまった場合、その機能を必要としていない顧客にとって、Bluetooth機能分のコストは無駄なものになってしまう。だからこそ、市場の要求を注意深く見ながら、統合した方が顧客やTI、市場にとってメリットがあるものに関しては積極的に統合していくし、そうでないものは無理に統合はしないという展開を行う。
「マーケットは流動的なので、今後この機能は必須だな、と思ったものが意外に受け入れられなかったり、予想していなかったものが標準になったりすることもあり得るので、注意深く市場を見ています。そして、統合するものは統合していきます。もちろんアプリケーションプロセッサの開発の手は緩めないので、そうでない(マルチチップが必要になる)ものもしっかりカバーしていきます」(水上氏)
TIは技術の懐が深いのだと水上氏は言う。DSPの技術は世界をリードするものだし、アナログにも強い。ワイヤレスの分野では、OMAPやモデムなどの高いデジタル技術を持ち、またRFや無線LANやBluetooth、GPS、デジタルテレビといった周辺の無線技術もある。そしてそれがほぼ同じ製造プロセスで実現できている。そのため、統合すること自体はそれほど困難を伴うものではないという。
番号ポータビリティは、市場が拡大するという点で歓迎できる
このように、TIはあらゆる可能性に対して対応できるだけの製品群を用意しているが、10月までに始まるとされる番号ポータビリティ(MNP)についてはどう考えているのだろうか。チップメーカーに対する影響はあるのか。
「総論的には、MNPが導入されることによって、買い換え需要が喚起されると予想されるので、それによって市場全体が活性化されると思われます。マーケット全体の大きさが拡大するという点では、MNPはチップメーカーとしては非常にポジティブだと見ています」(水上氏)
TIとしては、MNPによって新たなビジネスチャンスが生まれると考えているようだ。同社のビジネスは、現在ドコモ向けが多くの部分を占めるが、特定のキャリアや端末メーカーに肩入れしたり、注力したりするつもりはないという。「“TIと組みたい”といってださるパートナーとは広く手を組みたい。オープンに広くやっていきたい」と水上氏は強調した。
最も注目しているのは世界のトレンドをリードする日本市場
ワールドワイドでさまざまな市場に向けて端末用のアプリケーションプロセッサやベースバンドチップを提供しているTIが、今最も注目しているのは日本市場だという。その理由は、日本市場がビジネスとして無視できない規模であることだけでなく、非常に先進的である点にある。
「日本は、世界の中でも特に熱い市場です。先進的な技術は日本発であることが多く、日本市場のハイエンド向けに展開された機能や技術は、何年か後でワールドワイドで展開されることが多いのです。そういった状況が過去3〜4年ほど続いています。裏を返すと、日本は世界の技術トレンドの最先端を走っていると言うことができるでしょう」(水上氏)
日本市場を重要視するからこそ、TIでは日本の顧客に厚くリソースを割いて重点的なサポートも行っている。端末メーカーでは、常に複数のプロジェクトが同時に進行しているものだが、TIはそのプロジェクト1つ1つに専任のサポートチームをアサインし、技術面およびビジネス面でのサポートに当たらせているのだ。
「マンツーマンというと言いすぎですが、それくらいのつもりで多くのサポート要員を配置しています。それは、顧客とTIの橋渡しとして、綿密なサポートを提供することが非常に大切なことだと考えているからです。日本の顧客は要求が高く、実現のハードルも高いですが、その高いハードルを乗り越えたときに自分たちに残るものも大きい」(水上氏)
同社では、日本が技術のキャスティングボートを握っており、今後もしばらくはそのトレンドが変わらないと見ている。「日本市場は、いわば試金石です。日本のトレンドをしっかりキャッチアップして、日本でのビジネスで成功を収めることができれば、それをワールドワイドに展開し、世界でのビジネスの成功にもつなげられます。TIはこれからも日本市場に注目していきます」(水上氏)
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