キャリアが電子マネーを後押ししなくては、クレジットの少額利用は進まない :神尾寿の時事日想:
新機種にアプリをプリインストールすることにより、それぞれ自社の進めるクレジット決済スキーム「iD/DCMX」「QUICPay」を進めようとするドコモとau。しかしその戦略は正しいのだろうか? アンケート結果を基に考察してみよう。
10月27日、自動車ニュースメディアの「Response.」が、ロードサイドにおけるキャッシュレス化の現状とニーズに関するアンケート結果の速報を発表した(10月30日の記事参照)。これは筆者がモデレーターとして参加するセミナー「拡大するロード決済ビジネス」(10月11日記事参照)のパネルディスカッションで使われるものだ。
筆者は以前から、ロードサイド経済圏には公共交通を軸とした経済圏に匹敵するだけのおサイフケータイの可能性があると述べてきた。今回のアンケートでは、ロードサイド市場はもとより、おサイフケータイやFeliCa決済の今後の可能性や普及シナリオを予測する上でもヒントになる結果が多く見られた。その詳細は当日の会場でしか公開されない予定なので、興味がある業界関係者はぜひ会場に足を運んでもらいたいと思う。
電子マネー利用者は少額でもクレジット決済を使う
今回、公開されたアンケート結果の速報にも注目のポイントがいくつもある。その中でも特に興味深いのが、「クレジットカードの利用額」について尋ねた設問だ。
アンケート結果では、クレジットカードの利用額平均は1万3376円であり、多くの回答者が「5000円以上からクレジットカードを使う」と答えた。2000円未満でクレジットカードを使う層は全体の16.5%しかなく、年代による利用率の変化もあまりない。過去の複数のインタビューでも語られたとおり、「少額決済でクレジットカードは使われていない」のが現状だ。
しかし、その一方で、電子マネー利用者に絞り込んで集計した結果では、22.6%の回答者が2000円未満の少額で“クレジットカードも”使っていた。3000円未満まで少額の範囲を広げれば、回答者全体のクレジットカード利用率が21.2%なのに対して、電子マネー利用者の利用率は28.7%に増える。
電子マネーは自らが少額決済で使われるだけでなく、クレジットカードの利用範囲を少額に広げる上でも貢献しているのだ。電子マネーは“少額決済の先兵”であり、キャッシュレス化の便利さを幅広い層に訴求するエバンジェリスト(伝道師)の役割を担っている。
キャリアは「電子マネー」の後押しをすべき
既報のとおり、ここにきてauとドコモのおサイフケータイ新機種が、相次いで電子マネー「Edy」アプリのプリインストールを取りやめた(記事1/記事2)。一方で、auはQUICPay、ドコモはiD/DCMXという、それぞれが推進するFeliCaクレジット決済アプリをプリインストールしたわけだが、これは正しい選択なのだろうか。
今回のアンケート結果からも分かるとおり、電子マネーはFeliCaクレジット決済のライバルどころか、先行して少額分野のキャッシュレス化を推進する役割を担っている。以前、吉岡記者が「auのおサイフケータイからEdyが消えた理由」で書いたように(9月4日の記事参照)、ユーザーから見ても、Edyなど電子マネーの方が使い始める上で適した部分が多い。
繰り返しになるが、電子マネー利用者の方が、クレジットサービスも少額で多く使うのだ。ドコモとauがEdyのプリインストールを取りやめたことは、果敢に戦う味方の先兵に対して、後ろから矢を射かけるような行為ではないだろうか。
はっきりと言おう。ドコモとauがEdyのプリインストールを取りやめたことは、間違った判断である。キャリアはまず、おサイフケータイで「電子マネー」の訴求やメリットの紹介をすべきであり、その上で「FeliCaクレジット」もあわせて推進した方が、FeliCa決済そのものの普及に効果的だ。
特にドコモは、903iシリーズでFeliCaチップの容量が増大した。ドコモショップという強力な対面販売・サポートの窓口もある。EdyとiD/DCMXアプリの両方をプリインストールして利用促進を図る。さらにJR東日本の「モバイルSuica」や伊予鉄道の「モバイルい〜カード」など公共交通系の電子マネーが使える地域では、ドコモショップで個別にそれらの訴求や導入サポートもする、といった取り組みは不可能ではないはずだ。
FeliCa決済、そしておサイフケータイ関連ビジネスの市場拡大において、今すべきは普及と利用促進だ。そこで電子マネーの果たす役割は大きい。ドコモとauは再び電子マネーの後押しを行うべきだ。今電子マネーを後押しすることが、ひいてはそれぞれが推すFeliCaクレジット決済の広がりにも繋がる。キャリアはユーザーと市場全体の今後を見据えて、狭い視野に陥らず、大局的な判断をするべきである。今後の改善に期待したい。
関連記事
- 自動車ドライバーのお財布事情は?
平均所持金額は2万5490円。クレジットカードで支払うのはいくら以上の場合? また、おサイフケータイの所有率・利用意向は……自動車ドライバーの“お財布事情”について、IRIコマース&テクノロジーがアンケートを行った。 - auのおサイフケータイからEdyが消えた理由
これまでおサイフケータイには必ずプリインストールされていた、電子マネー「Edy」。しかし先日発表されたauの秋モデルからはEdyが消え、代わりにQUICPayがインストールされていた。しかしKDDIがQUICPayの普及を目指すなら、むしろEdyは必須ではないだろうか。 - 903iで「攻めるドコモになる」――夏野氏
GPS搭載やFeliCaチップのバージョンアップなど、共通機能が大幅に強化された903iシリーズ。多彩な端末を揃え、MNPでドコモは“守り”ではなく“攻め”に徹する、と夏野氏は話す。また、Edyがプリインストールから外れたことも明らかになった。 - 神尾寿の時事日想:QUICPayとiD、「プリインストール」の影響力
現在3方式が並立する状況にある、非接触ICクレジット決済。7月末時点の数字で比較すると、DCMX mini / DCMXの利用者約50万人に対して、QUICPay利用者数は約7万人。この差を生んだ原因の1つが“プリインストール”の有無だ。 - 神尾寿の時事日想・特別編:九州のSA・PAで、4種類のFeliCa決済を体験してきた
九州エリアのサービスエリア・パーキングエリアで、Edy、iD、QUICPay、スマートプラスの実証実験が始まった。4方式の特徴、違いを体験するとともに、非接触IC決済への現場の声を聞いてきた。 - 高速道路のSAでFeliCa決済4種を実験導入
九州エリアの高速道路SA・PAで、Edy、iD、QUICPay、スマートプラスの導入実験が始まった。4月2日にはイベントが行われ、4社がロードサイド小額決済市場への期待感を話した。 - 九州エリアの高速道路で、電子マネー4種の実証実験
4月から九州エリアの高速道路内SA・PAで、小額決済システム導入効果を見る実証実験が行われる。導入されるのは、Edy、QUICPay、iD、スマートプラスの4種。 - セミナー「拡大するロードサイド決済ビジネス」10月31日に開催
電子マネーやクレジットなどのFeliCa決済が広がりを見せるなか、次に注目すべきは“クルマ+FeliCa”ではないだろうか。iD、Edy、スマートプラスなど、各決済方式を進める事業者の、生の声が聴けるセミナーが開かれる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.