定額データ通信が主流――香港HSDPA事情
ITU TELECOM WORLD 2006が開催された香港では、日本よりも早くHSDPAサービスが開始され、3社がサービスを提供している。香港のHSDPA事情を探った。
香港では、5社7ブランドの通信事業者が人口700万弱の地域で携帯事業を展開している。4社がW-CDMAを採用し、このうち3社がHSDPA(High Speed Downlink Packet Access)サービスを提供している。それぞれがターゲットの異なる料金プランを打ち出しており、横並びの日本とは様相を異にしているようだ。
香港を含めた海外におけるHSDPAサービスは、音声通話対応端末が少ないこともあり、PCカードやUSBモデムによるデータ通信サービス「モバイルブロードバンド」が花盛りだ。定額制を取り入れ、“家庭向けのADSLサービス同様の高速回線をいつでもどこでも”とアピールする通信事業者が多い。香港でHSDPAサービスを提供している3社の料金プランと戦略を比較してみよう。
プリペイドでも気軽に使える――SmarTone-Vodafone
6月に香港で最初にHSDPAサービスを開始したのがSmarTone-Vodafoneだ。プランは「定額」と「プリペイド」の2つと非常にシンプル。PCカード端末またはUSBモデムの同時購入が必要となるものの、契約/購入すればすぐにモバイルブロードバンドを利用できる。
また、サービス開始時からプリペイドサービスを提供しており、データ通信端末とSIMカードをセットにしたパッケージを、PCショップなどで販売している。携帯ショップ以外の販路を開拓したことに加え、ノートPCやPDAユーザーが契約なしでどこでも簡単にHSDPA環境を手に入れられるのは便利だ。
料金はプリペイドの場合、100香港ドル(約1500円)/月で50Mバイトまでのパケット通信が可能。超過利用する場合はリチャージカードを購入すれば、100香港ドル単位で50Mバイトずつ追加できる。定額は488香港ドル(約7300円)/月で、別途同社の音声通話サービスに契約する必要がある。データ通信端末の価格は、2400香港ドル(約3万6000円)前後となっている。
月料金 | 無料パケット | 備考 |
---|---|---|
100香港ドル | 50Mバイト | プリペイド |
488香港ドル | 定額 | 別途音声契約が必要 |
旅行者向けプリペイドHSDPAサービスを提供――CSL
CSLは10月からHSDPAサービスを開始した。定額プランは538香港ドル(約8000円)/月。SmarTone-Vodafoneより若干高いものの、音声通話サービスの契約が不要なので割安感がある。また定額サービスでは、同社の提供するWi-Fiホットスポットの利用もセットになっており、外出先のあらゆるエリアでネットへの高速アクセスが可能だ。データ通信端末はPCカードとUSBモデムの両方を用意し、価格は1680香港ドル(約2万5000円)からとなっている。
なおCSLは11月から、香港への渡航者向けにプリペイドHSDPAサービスを開始した。プランは50香港ドル(約750円)の1日利用、178香港ドル(約2700円)の5日利用、788香港ドル(約1万2000円)の30日利用などがある。出張や旅行で香港を訪れる利用者には便利だろう。
月料金 | 無料パケット | 備考 |
---|---|---|
138香港ドル | 50Mバイト | − |
268香港ドル | 50Mバイト | − |
538香港ドル | 定額 | Wi-Fiホットスポット定額 |
スライド料金制を採用――Hutchison
12月から「Turbo 3G」の名称でHSDPAサービスを開始したHutchison。特筆すべきはスライド料金制を採用した点だ。これは、例えば28香港ドル(約420円)/月で2Mバイトの最低プランに加入したとして、利用が2Mバイトを超えても、5Mバイト→50Mバイト→100Mバイト→500Mバイト→定額の順に、利用量に応じて自動的に上の料金プランが適応されるというものだ。定額は488香港ドル(約7300円)/月のため、使いすぎても請求の上限は決まっている。定額プランへの加入をためらうユーザーも低料金ならば気軽に加入でき、事業者としてもARPU増が期待できるわけだ。
なおHutchisonは、音声端末として「LG U830」を発売しているものの、HSDPAに特化したサービスは行っていない。現時点ではストリーミングビデオをより高速でダウンロードできるのを特徴としている。データ通信端末はPCカードとUSBモデムの両方を用意し、1680香港ドル(約2万5000円)から。LG U830は2480香港ドル(約3万7000円)となっている。
月料金 | 無料パケット | 備考 |
---|---|---|
28香港ドル | 2Mバイト | − |
58香港ドル | 5Mバイト | − |
98香港ドル | 50Mバイト | − |
198香港ドル | 100Mバイト | − |
298香港ドル | 500Mバイト | − |
488香港ドル | 定額 | − |
各社で差のあるサービス
香港のHSDPAは、3社ともに下り最大3.6Mbpsに対応している。家庭のADSLと遜色ない速度で接続でき、ノートPCでの利用ならば外出先でも家庭と同じ感覚でネットにアクセスできる。しかし、SkypeなどのVoIPやストリーミングビデオの閲覧など、帯域を必要とするサービスは利用が制限されている場合もある。
例えばSmarTone-Vodafoneの定額やCSLのプリペイドは、VoIP、ストリーミングのいずれも利用を禁止している。安価に定額利用を提供することから帯域制限を設け、利用はWebブラウジングとメールのみとしているわけだ。CSLの定額は、ストリーミングなら1Gバイト/月まで利用できるが、VoIPは従量料金として別途課金される。ただし、CSLの定額は同社のWi-Fiホットスポットを利用できるため、無線LANであれば定額内での利用が可能だ。Hutchisonに利用制限はない。
音声端末向けサービスの登場が望まれる
このように香港のHSDPAは、データ通信=モバイルブロードバンドが主なサービスで、3社3様の料金プランを提供している。ユーザーは自分の使い方に合った料金で、サービスを選択・利用できるわけだ。低料金プランやプリペイドなど、利用開始の敷居が低いことから、香港でのモバイルブロードバンドは大きく普及することが考えられる。
なおHutchisonは、12月から英国でSkypeやSling Mediaに対応したサービス「X-Series」を開始する。携帯でインターネット上のサービスをシームレスに利用できるX-Seriesは、HSDPAに適したサービスといえるだろう。Hutchisonは今後、香港を含めた世界各国でX-Seriesのサービス開始を予定しており、HSDPAの特性を生かしたこのようなサービスは、ほかの事業者からも登場することが予想される。
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