多くの布石が打たれたソフトバンクの春商戦モデル(前編):神尾寿の時事日想
ソフトバンクモバイルの2007年春モデルラインアップの中で、ひときわ目を引くのが“PANTONEケータイ”「812SH」だ。人目を惹く効果があり、高い店頭効果があるこのモデルは、同社の家電量販店重視の流通戦略と密接なつながりがある。
1月25日、ソフトバンクモバイルが春商戦向けの新モデル発表会を行った。詳しくは一連のニュース記事に譲るが、「14機種58色、世界初、世界最薄、国内最薄」をキーワードにした同社の春モデルは、一目見るだけで華やかで、店頭効果の高さが感じられる内容だ。
今回の春モデルの中でもひときわ目を惹くのが、“PANTONEケータイ”こと「812SH」だろう。同機は、ごく平凡な機能・性能の端末を、“1モデル20色展開”で魅力的なスタンダードモデルに仕上げたものだ。PANTONEとコラボレーションしただけに、その配色や色感の出し方は絶妙で、「ただ色数が多いだけでない」のもポイントである。ずらりと店頭に並んだ時のカラフル感、人目を惹く効果まで計算されている。
PANTONEケータイにはワンセグがなく、驚くほどの薄さもない。今のトレンドからすれば、スペック的にはまったく平凡だ。しかし、3キャリアが一堂に会する家電量販店では、PANTONEケータイの多色展開は鮮やかで人目を惹く。他キャリアの春モデルから華を奪ってしまいそうである。家電量販店を中心に、高い店頭効果がありそうだ。
大規模・集約型の姿勢が顕著なソフトバンク
むろん、PANTONEケータイのような多色展開が、これまで他社でも考えられなかったわけではない。だが、流通網、特に専売店(キャリアショップ)への負担の大きさを考えると、それは成立しにくい企画だった。端末の多色展開は仕入れや在庫管理の負担が大きく、売れ残りのリスクが高いからだ。また小規模な専売店や併売店では、売り場面積の確保でも負担がかかる。
これらの課題がありながら、それでもソフトバンクがPANTONEケータイを投入したのは、同社の流通戦略が「家電量販店」「大型専売店」の2つを偏重する方向に進んでいるからだ。特に前者を重視する姿勢は顕著で、ここでの1機種多色展開は、デメリットよりメリットの方が大きい。昨年のワンセグ重視路線から垣間見られていたことであるが、PANTONEケータイの投入で、ソフトバンクの家電量販店重視の姿勢はさらに強化されたと言える。
また、従来からある専売店制度にも、改変と再編の動きが見られる。ソフトバンクの孫正義社長は25日の記者会見において、中小規模の専売店で立地の変更や小規模店をまとめて大型店にするといった改変の準備に入っていると明かした(1月25日の記事参照)。ソフトバンクの専売店網が、PANTONEケータイのような“家電量販店向け”のモデル群を受け入れやすい形に作り替えられる可能性は高い。
ソフトバンクは昨年末から、家電量販店での競争力が高かった。その傾向が春商戦でも顕著になるのは確実であり、返す刀で専売店網の大胆な再編を行う可能性が考えられる。PANTONEケータイの投入は、目先の春商戦でのインパクトはもちろんだが、ソフトバンクの流通戦略から見ても象徴的な意味を持つ。
今後もソフトバンクの「家電量販重視」の流通戦略と端末投入が続き、それが奏功するようならば、ドコモとauも販売チャネル戦略や端末戦略の見直しを迫られるだろう。流通戦略において打ったソフトバンクの布石は、決して小さなものではない。
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