PASMOとクレジットカード、沿線ビジネスの関係とは――東京急行電鉄:Interview:(2/2 ページ)
3月18日からスタートする交通乗車券「PASMO」。中心となる私鉄7社のスタンスはまちまちだが、東急グループではPASMOを軸とする関連ビジネスの広がりに期待しているという。東急にとって、PASMOはどのような位置づけであり、狙いがあるのか聞いた。
PASMOとポイントビジネスの連携
3月18日に向けて、PASMOは利用促進キャンペーンの真っ最中だが、そこで大手私鉄各社が大々的に訴求しているのが、自社クレジットカードと連携させた「オートチャージ機能」だ(3月16日の記事参照)。また、私鉄各社はクレジットカードのポイントプログラムとPASMOの連携も盛んに訴えており、「ハウスカード+PASMO」での普及を図ろうとしている。
この姿勢は東急も同様だ。東急グループのクレジットカード会社である東急カードでは、自社の「TOP&」カードとPASMOを紐づけてオートチャージ機能を提供し、チャージごとにTOKYUポイントを付与する。また、貯まったTOKYUポイントを1000ポイント単位でPASMOの電子マネーとしてチャージする機能を用意。東急が開拓したPASMO電子マネー加盟店の一部ではTOKYUポイントが付く場合もあるという。このように、オートチャージとTOKYUポイントの両方で、PASMOとの連携を行っている。
「(PASMOへの)TOKYUポイントの付与や還元により、グループの施設及び沿線が消費誘発される効果に期待しています。特にグループの(流通・サービスなどの)リテール事業が潤うことを考えています。
さらに今回、(オートチャージやポイントなど)PASMOとの連携をすることで、東急カードを会員のメーンカード化したいと考えています。PASMOが単体で使われるだけですと収益拡大の点で限界がありますから、(PASMOがきっかけになって)TOP&のクレジットカード機能の利用促進される方が我々のビジネスへの効果が大きい」(土屋氏)
現在、TOKYUポイントの会員数は、クレジットカードだけで143万人、現金カードが78万人になる。PASMOへのチャージでポイントがつくのはクレジットカードのみだが、TOKYUポイントからPASMOへのチャージはクレジットカードと現金カードのどちらでも可能になる。なお、東急ではTOKYUポイントからPASMOへの専用チャージ機を沿線主要28駅に設置する予定だ。
「クレジットカードとしては、東急カードは私鉄系ハウスカードで最大規模です。東急ではこれまでTOKYUポイントを沿線で貯める、使うという形で(ポイントによる)沿線消費誘発を行ってきたのですが、ここに(TOKYUポイントから)PASMO電子マネーへのチャージを加えることでTOKYUポイントの魅力を拡大します」(土屋氏)
PASMO向けのポイントサービスは各社でスタンスが異なり、小田急電鉄や東京メトロ(東京地下鉄)などは電車に乗るだけでポイントが貯まる乗車ポイントサービスを提供している。一方、東急は今のところTOKYUポイントからPASMO電子マネーへの交換をメインにしており、乗車ポイントのようなサービスは投入しない。
「我々も乗車ポイントの検討をしていますが、東急は通勤・通学路線の色合いが強く、『ポイントが付くから(電車に)乗る』という形で乗客が増えるとは考えにくい。鉄道のビジネスに乗車ポイントのような仕組みが有効か疑問が残ります。一方で、TOKYUポイントは東急グループを中心に約500社の加盟店があり、すでにポイントが貯めやすい環境ができている。当面はTOKYUポイントからPASMO電子マネーへの交換で、お客様にも十分な利便性があると考えています」(土屋氏)
東急はTOKYUポイントとPASMOを連携させることで、沿線ビジネスの囲い込みと拡大、私鉄随一であるクレジットカード事業のさらなる活性化を狙う。さらに「(TOKYUポイントの)事務局にはお客様の利用履歴がマーケティングデータとして蓄積されますので、今後はデータベースマーケティングにも力を入れていく」(土屋氏)という。
まずは一体型カード。関連ビジネスの開発にも積極姿勢
PASMOは3月18日からいよいよスタートするが、東急では「TOP&カードからのオートチャージ利用者を、早期に10万人まで増やしたい」(土屋氏)という目標を持っているという。さらに機能向上やサービスの拡充にも前向きな姿勢だ。
「まず、三井住友カードと提携したPASMO/iD共用端末による加盟店獲得を本格化したいと考えています(2006年11月の記事参照)。また時期は申し上げられませんが、TOP&カードとPASMOの一体型カードも発行します。
一方でおサイフケータイへの対応ですが、こちらは開発投資がかかるものですから、PASMO全体としても課題として捉えています。現状では対応の予定はありませんが、取り組むべき課題という認識です」(土屋氏)
東急では、PASMOを使った新サービスの開発にも積極的だ。同社のグループ会社である東急セキュリティが、今年4月からPASMOを使った子ども向けの「キッズセキュリティ」サービスを投入する。このサービスではPASMOカードを認証に使い、学校や学習塾への到着を保護者や教職員にメールで通知する機能を提供する。サービス開始当初は自動改札機通過による連絡機能はないが、イメージ的にはPiTaPaを使った立命館小学校の事例に近い(2006年7月の記事参照)。
「まずは学校や塾向けのセキュリティですが、東急セキュリティは住宅やオフィス向けのセキュリティサービスも手がけています。今後、PASMOを使ったセキュリティはさらに広げていきたい」(土屋氏)
PASMOはSuicaと相互利用を実現することで、世界最大のIC乗車券/電子マネーインフラとして注目されている。しかし、それ以上に重要なのは、私鉄各社のポイントプログラムや関連事業に今後どれだけ活用されていくかという部分だろう。東急の取り組みだけ見ても、その裾野の広がりや様々な新ビジネスの登場に大きな期待が持てる。
PASMOを導入する大手私鉄各社、それにSuicaを育ててきたJR東日本が、どのように切磋琢磨していくか。もうすぐ始まるPASMOの今後に、注目である。
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