デジタルシネマを加速させるのはネットワークデジタルシネマの可能性は,単にフィルムを排除するだけではない。世界中の優れた人材をネットワークで結び,“グローバルビジネスとしての制作体制”を構築できるのがメリットだ。
ネットワークを活用し,HDTV以上の高画質映画を制作/配信する。それも,映画館ではなく家庭用端末に向けて。ディジタルシネマ・コンソーシアムなど3団体が主催した「ディジタルシネマ・ワークショップ2002」で,慶応義塾大学環境情報学部の稲蔭正彦教授が「ディジタル・ショート」の可能性を語った。 デジタルシネマとは,撮影から編集,映写といった映画製作にかかる一連の作業をデジタルフォーマットで統一したものだ。従来の映画のように,フィルムを使わないのが特徴。現在は,撮影工程に使うカメラの規格争いが起きているものの,いずれにせよフィルム現像の過程はなくなり,オンライン配信によってフィルム複製や配給の作業まで省かれようとしている(昨年11月の記事を参照)。 しかし稲蔭氏によると,デジタルシネマの可能性は,単に“フィルム”を排除できることだけではない。インターネットを活用することで,世界中に点在する優れた人材をネットワークで結び,“グローバルビジネスとしての制作体制”を構築できることが,も1つのメリットだという。 「ブロードバンドを中核としてデジタルシネマを設計する。そのために,慶応大学SFCでは制作と配信の両面から技術開発を行っている」。 これには,DVTS(Digital Video Transport System)を利用したコラボレーションシステム,GI-POFなどが含まれる。また,IPv6が配信時のセキュリティを向上させ,また映画館のみならず,さまざまな端末にデジタルシネマを提供できる。このあたりは,同じ慶応大学の村井純教授に影響を受けた部分だという。
“デジタル・ショート”というコンセプト稲蔭教授は,過去2年間の研究成果として,デジタルシネマ制作段階における「コラボレーション」と「ブティックプロダクション」,配信時の「オン・デマンド」「デジタル・ショート」という4つの提言をまとめる方針だ。 つまり,短編映画(ショート)なら,少人数のプロダクションでも映画を企画(ブティック・プロダクション)でき,不足した人材はネットワークを通じて世界に求める(コラボレーション)ことができる。完成した映画は,IPv6を使って家庭のTVやモバイル端末に(オン・デマンド)配信する。そうすれば,より気軽にデジタル映画を楽しめる状況が出来上がるというのが,この提言の骨子だ。 同教授はまた,ブティック・プロダクションを実証するために「The Day I was Born」という短編映画を制作した。この映画は,クランクインから完成までの期間がわずか10日間。主な出演者は2人,時間も約10分というデジタル・ショートだ。 もちろん,デジタル・ショートは,既存映画をリプレースするものではない。「デジタル・ショートは,気軽に消費できる映画だ。音楽に例えるなら,アルバムに対するシングルCDのようなもの」。 稲蔭教授は,研究の最終目標を「ハリウッドとは異なるデジタルシネマの市場開拓」と話している。最近,ブロードバンドコンテンツでも「ショートフィルム」が増えてきたが,狙いはおそらく同じだろう。しかし,ネットワークを始めとする新しい技術が制作/配信コストを下げるのは当然として,上映時間まで切り詰めるのは,ある種の“妥協”に見えて仕方ない。 いずれはネットワーク環境が改善され,高画質のデジタルシネマを大画面TVで楽しめるようになるだろう。その時,予算ありきで制作されたショートフィルムに喝采を贈る観客はどれほどいるのだろうか?
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