連載 2002年10月4日 03:24 PM 更新

Streaming Now!〜流れをつかめ!
アナログでデジタルでテレビでインターネットな……

世の中には、PCやインターネットに見向きもしない人たちがいる。われわれはその人たちを無視しがちだが、本当のビジネスチャンスはそこにあるかもしれない。たまには発想を、アナログに転換してみてはいかが?

 「オンデマンド印刷」というものがある。皆さんもご存じのように、書籍や雑誌、冊子などをデータとして作成しておき、リクエストがあったら印刷して製本する、というシステムのことを指している。これは主に、「制作コストの削減」という観点から語られることが多い。「在庫を持たなくてもよいということはスバラシイ、ムダがないことはスバラシイ」という具合である。

 が、もう一つ、大切な意味がある。それは「データじゃイヤだ! やっぱり本は手にとって見たい!」というあまりにも当たり前の考え方である。「所有欲」ということもできるが、それ以上に、「扱いに慣れているメディアであり、便利である」ということが大きいのではないかと思う。実は私、今、この原稿を新幹線の中で書いているのだが、新幹線の中でPCの中のデータなどをいろいろと引っぱり出していると、少なくとも「読む」という行為に関しては、紙に印刷されていたほうが便利な場合が多いんだなーと、つくづく思うのである。

 そこで質問だが、皆さんはWebページ上の資料をどうやって見ているだろうか? 私が知っている限りでは、会議など「ここゾ」という場面では印刷して使っている人が実に多い。それは紙に書かれていれば、持ち歩けるし、書き込みはできるし、読みやすいし、といった理由からである。本来はこういった行為も著作権侵害ということになるのかもしれないが、とりあえず無料の文書を無料で扱っている限りにおいては、あまり問題視されていないのではないかと思う(将来的には問題視されると思うが)。というワケで、その利便性から紙媒体はなくならないのだ。

ビデオ版オンデマンド印刷とは何か?

 ここに、何かのヒントはないだろうか? そこで私は、「ビデオ系素材においてオンデマンド印刷にあたるモノは何かあるのだろうか?」とムダなことを考えてみたのである。

 まず、「そりゃ、オンデマンドのストリーミングでしょ」という人がいると思うが、これには同意できない。QuickTime 6Windows Media Technologies 9のインスタント・オン機能を使うと、結構リアルタイムっぽく処理できるのは確かだが、基本的に「ネットに接続している間しか見ることができない」という点が問題である。印刷物と比較するとずいぶんと見るための環境が制限されてしまう。

 「だったら、ストリーミングじゃなくてダウンロードできれば、所有欲も満たされるじゃん!」という考え方もある。確かに、ダウンロード型であれば、ネット接続していない状態でもコンテンツを見ることができる。

 だが、何らかの再生用ソフトを立ち上げてファイルを探し出して再生するという行為そのものが、非常に「PC的」な行為なのである。まだまだ、不自由も感じるユーザーが多いだろう。ただ、PDAや携帯電話の中にビデオデータを入れて持ち歩くという行為であれば、ちょっとだけ「所有感」が生まれてくるような気もする。「ホラ!」とすぐに見せられそうだからである。あまりきちんとした根拠はないが……。

 では、みんなが扱いに慣れている、「PC的ではない」ビデオのためのメディアとはなんだろうか? いうまでもなく、テレビとVHSビデオデッキである。ひょっとして、オンデマンド印刷に対抗する「オンデマンド録画」というものがあるとすれば、それはネット上のビデオ素材をビデオテープに録画することだったりして……。

 いや、テクノロジーに詳しい人間から見れば、恐ろしくバカバカしい話である。だいたい、せっかくノンリニアなデジタルメディアに収録したデータをテープというリニアなアナログメディアに落としてしまって、いいワケがない。いいことといえば、「普及しているデッキで再生できる」ということだけである。

 だが、その唯一の利点が意外に大切だったりすることもあるのだ。もし、ネット上に魅力的なビデオコンテンツが増えたら、それを見たいと思う人が増える。だが、世の中には、死んでもPCなど使うものか……という人も結構いるのだ(と思う)。そしてそういう人もビデオデッキは持っていたりする。

 だからといって、「コンテンツクリエイターは、ビデオを制作したら、まずそれをストリーミングで流し、次にそれを受信して、それをVHSビデオに落としてビデオテープを販売しましょう!」などと言うつもりはない(個人的にはそういう間違った発想は大好きなのだが……)。つまり、あくまでも「面白い素材をストリーミングで見せて、その元素材をVHSで販売する」という方法である。実はこの方法、すでにエバーグリーン・デジタル・コンテンツなどがやっていることなのだ。あくまでもネット上は擬似的な参考資料程度で納め、ホンモノはテープなり何なりで送られるという手法。これなら買う人もいるかもしれない。

ほとんどヤバい“オンデマンド型興信所”

 次に考えたくなるのが、検索サービス付きのオンデマンド印刷&オンデマンドVHS屋さんだ。例を挙げて説明しよう。

 まず、あるユーザーが、そのオンデマンド屋さんに依頼する。

「最近、ウチの主人が寝言で『ドウガネブイブイ、ドウガネブイブイ』と、変なことを口走っているのが気になります。いったい、彼はどこでブイブイ言わせているのでしょうか? ドウガネブイブイについての情報をお願いします」。

 三日後、オンデマンド屋さんから資料と請求書が届く。

「奥さん、御主人が夢中のドウガネブイブイについて、これだけの情報を集めました。ネット上ではビデオデータまでありましたよ、結構、毛深いんですね、ヘッヘッヘ。ビデオがVHSの30分テープ1本、書類がA4サイズで150枚。合計45万円です」。

 要するに、人のフンドシで相撲をとる商売だ。この商売は……絶対にあり得ない。まず、人の著作物でお金をとるという行為がイケナい。さらに、きっとどこかの検索エンジンを使っているという点もよろしくない。ほとんど違法行為といってもいいだろう。だが、ネットに縁のない人から見れば、結構、魅力的なサービスに見えるのではないだろうか? 少なくとも、私は興味がある。

 「オマエはブロードバンドユーザーが1000万人になろうという時代に何を考えているのか?」と言われるかもしれない。が、ブロードバンドにソッポを向き続ける人がいると仮定して、その人たちを相手にITでビジネスをしてしまうというのも、なかなかオシャレな(?)発想ではないだろうか?

エッ? インターネット内蔵テレビが失敗したって?

 もう一つ、ビデオではなく「テレビ」にこだわるのであれば、「インターネット機能内蔵テレビ」を普及させるのがよいのでは?」という話も出てくるかもしれない。私もそう思う。が、この不景気の中、テレビの買い替えを簡単に考えるヤツはそんなにいないだろう。さらに、インターネット機能内蔵テレビの話になると、過去の様々な「成功を収め切れなかったデバイス群」の話が引き合いに出して、「将来性がない」と断定する人々もいる。

 が、私は「成功しなかった製品のほとんどが、メーカーがマジメに宣伝してこなかったデバイスである」と信じている。

 たとえば、以前、このコラムの中でソニーのエアボードについて触れたことがある。あまり売れている製品とも思えないが、このエアボードについて悪口を言っている人は、少なくとも私のまわりにはいない。私は今でも、このエアボードの開発に取組んでいる方々については強く支持したい。ただ、ソニーの中でどういう位置付けにあるのかは知らない。思ったより露出されなかったが、これはしょうがない、会社というのはそういうものなのだから。

 いずれにしても、私はインターネット機能内蔵テレビのようなデバイスにも、まだまだ可能性があると見ている。そして、1つのデバイスにするかどうかは別として、このテレビとインターネットの融合、役割分担について真面目に考えなければ、ストリーミングビジネスがうまく行かなくなると考えている。また、民放のデジタル放送担当者も、やはり同じように役割についてきちんと考えなければならない。

 こういうことを書いていると思い出されるのが、三菱電機から発売された、初代の「インターネットテレビ」である。昔、私がMacUser誌にいたころ取材したものだ。このテレビはストレージデバイスを持たず、「ブラウジングしたデータはビデオとして録画してしまおう」という発想であった。今思い出してもうれしくなってしまう。何か、この手のヘンな発想に、これからのITビジネスのヒントが隠されているように思えてならないのだ。



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[姉歯康, ITmedia]

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