リビング+:連載 2003/01/27 16:09:00 更新

連載:田舎暮らしとブロードバンド〜地域イントラネット奮闘記
接続インフラすら整備されていない状態からのスタート

「ブロードバンドでつないで、さらに、家庭内ネットワークを!」と思っても、誰かが勝手にやってくれるはずはない。多くの家庭では一家の主が孤軍奮闘という場合が多いだろう。しかし、各家庭どころか、地域そのものにネットワークがきておらず、地域イントラネット以前にインフラ整備までも提案していかねば進まないという事例もあったのだ……。

 インターネット接続はもちろん、当初は夢のように思えたブロードバンド接続の話題も世間ではいつの間にかつながるのは当たり前、問題はその利用法についてに移ってきたように思う。人口集積が進んだ都会では、すでにサービス競争! うらやましいかぎりだ。ユーザーが選べる選択肢は多岐にわたり、インフラ整備もいつFTTHになるのかといったことが話題だ。ところが、いまだに望んでもそういったサービスを受けられないような地域が結構あるのをご存じだろうか? 人口集積が進んでいない地域、もしくは過疎と呼ばれる地域だ。

 田舎の姿といってしまえばそれまでだが、そんな田舎にも人の暮らしがある。また、私のように好きこのんでそういった地域に引っ越してくる人間もいるわけだ。そういえばかつて電脳村なんて話題になったこともある。少なくとも開始時は、実現された環境は多くの住民にとって「勝手にどこからかやってきた?」ようなものだっただろう。

 事業採算性の問題からなかなかインフラ整備がままならないような地域が、いかにして情報インフラを手に入れるのか? もちろん、ひと口に地域とはいっても、そこには住む住民1人ひとりの単位で考える場合もあれば、多くの人が集まった共同体として対応する場合もある。こういった場合、やはり頼りになるのは行政支援かもしれない。とかく悪く言われがちな公共事業だが、過疎地における通信インフラ構築に関しては、やむをえない措置だと思う。なぜなら、教育も含め、IT化が国策であり、同時に国民として現在のテクノロジーを平等に享受するためには必須だと思うからだ。

 どこに暮らしていても、私のように「速い回線が欲しい」と思う人もいれば、「そんなもの何に使うの? パソコンなんか使うことないし……」という人もいる。住民数が少なく、地域全体を見わたしても後者のような人が多かったケースでは、事業採算性の面からもプロバイダはもちろん、その地域の行政だってなかなか動き出さない。都会のいいところは、人口集積の絶対数にモノをいわせて、たいていのことなら事業化が容易なことだ。

「国を挙げてのIT化」なんて揶揄されることが多いが、それにより、民間がなかなか手を出さないような地域でも、次代の経済を担う数々のサービス・商品、それらを流通させる情報インフラを隅々までという号令は津々浦々まで行きわたり、整備は進んでいる。もちろんそのためには、国、地方、それぞれ行政による事業補助金もつく。「これは世の動勢、乗るのが得策」と機を見るに敏な県、市町村担当者、もしくは首長・トップの判断しだいで、事業化が難しい場所、地域もインフラ整備が進んだりするものだ。

失望の身に届いた朗報〜すべてはここから始まった

 さて、私が住む吉備高原都市。地理的には岡山県のほぼ中央、低層の山々が連なる場所に位置し、かつては幹線道路整備にも見放され、過疎化が進む中山間地だった。そこに時代のトレンドなのか、自然、福祉との共存を高らかにうたった計画都市を造る計画が持ち上がり、開発されたのだ。もちろん情報化対応もぬかりなく、高速通信インフラ整備も計画される……はずだったのだが、結果的に、世の中の不景気や経済不振のあおりからか、計画どおりには人口集積が進まず、現在に至っている(アイデアは素晴らしかったと思うのだが……)。私自身は「速い回線がほしい」と当初から願っていたが、それもままならず。人口集積の進まない現状で、情報インフラ整備も進むはずはないだろう。もちろん、民間も手を出さない。前述のとおり、採算性が見込めないからだ。

 やむなく市街地(隣町)のアクセスポイントにダイヤルアップ接続していたある日、わが家に「岡山県の行う高度情報化実験に関連した集まりが行われる由」のチラシが入った。住民の有志の方が配布されたものだったが、この集まりに参加すれば「もともと計画にあった高速常時接続インフラが手に入れられるのでは」と思った私は、誘われるままその集まりに参加したのだった。

 参加してみると、そこにはそれなりの人数、30名弱が集まっている。話を聞いてみると、自治会としてその実験に参加しようという趣旨で、掲げたテーマは「地域イントラネット構築」。「おいおい!イントラってなんやねん!」というレベルだったが、とにかく始めようと、まるで町内会イベントのような形でスタートしたのだ。

 その当時、住民のネットワーク利用率はおろか、パソコン所有率すら未知数。手始めに行われたのは、住民の情報機器利用状況アンケートである。その結果を見てみると、「結構、みんな使っている!」。住民の情報機器使用状況が把握できたのを受け、活動を組織化し、岡山県高度情報化実験に自治会の一部会として参加を表明するに至った。

 地域の集会所に興味のある人間が集うことから活動は始まったが、当時はインターネットを始めているのが「1人だけ」という状態。その会員の個人所有のノートPCを持ち込んでのインターネット体験会から始まった。いわば「住民の情報リテラシー向上」である。たった1台のパソコンを囲んでの集まりだったが、熱気だけは感じられた。そして、件の実験参加表明を行った時ですら、通信ができる環境を持っていたのは、なんとメンバーの中で「たったの2人!」だったのだ……。

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インフラ構築自体も住民で〜危機感の共有

 とにもかくにも、岡山県の実験推進協議会より正式な平成8年度の岡山県高度情報化実験「実験ワーキンググループ」として認められ、吉備高原都市北部住区自治会情報化推進研究部会が、1996年10月15日に正式に設立された。 正式なワーキンググループとして認定されたことにより実験予算もつき、研修用パソコンも設置された。しかし、ネットワークにはまだつながっていない。つまり、そのインフラ構築自体も、住民で提案しなければならないことがしだいにわかってきたのだ。

「インフラ構築もテーマ」だといっても、住民である我々にはいかんともしがたい問題である。町役場関係者に相談してみたり、県の方に相談してみたり、いろいろな手を打ってはみたものの……。しかし、なんとか動きだすしかない。その原動力となったのは、いま思うに、危機感の共有といえる。新時代、次の時代に向かおうとしているのに、この地域は高速なネットワークインフラをずっと利用できないままになるかもしれない、という危機感だ。かつての鉄道、また、道路が通らない場所、地域がその後、どうなったか? さまざまなインフラ整備の遅れが地域にどんな影響を及ぼしたのか? それを考えると、情報インフラの立ち後れは、自分たちの子供、次の世代にも大きな影響を残すかもしれない。そんな危機感を共有することにより、「必要なモノを手に入れよう」と動き出したのだ。

 当時、メンバー間の情報共有ツールとなったのは、単なる電子メールである。県との交渉、実験事務局との交渉課程など、すべてが電子メールを通じ、会員にも共有が行われた。メール同報機能の利用にすぎないのだが、結果、県の財政事情などの緊迫した事情がダイレクトに共有できたわけだ。

 また、このときすでに、地域共同体において「電子メール」という機能が有効であることが、メンバー間で確認された。参加者それぞれの職業による生活時間差を吸収し、スムーズな情報共有が進んだのだ。たしかに顔と顔を合わせたコミュニケーションの時間は重要だ。それは地域生活、あるいは家庭においても、不変の事実といえる。しかし、全員が一同に会するような時間をつくることは、たいへんな調整を要するものだ。とりあえず、近況や懸案を電子メールによって確認しているだけでも、次回に実際に会合した際により有効に機能する。

 しかし、情報共有がよい方向で進む半面、しだいに違う方向への動きも出てくる。会合における話題がネットワーク構築へとシフトし始めたころ、「ネットワークの難しい話はわからん」「話を分けたらどうだろう」という意見が主要な中心メンバーから出され、技術部という会内部チームが発足した(といっても私を含め3名だけの部だが……)。このとき「難しい話題」をわけたことがよかったかどうか? いまとなっては、微妙な気がしている。せっかく、自分たちが手作りで生み出し、育んできた取り組み、その共有がこの時期から、ともすると「誰かにやってもらう」になっていったのではないか? 「ただ使う人」が悪いともいえないが、せっかくだから、わかる部分もわかりにくい部分も全部ひっくるめて、自分たちのできる範囲で参加したほうがよかったんじゃないか? そんなふうに感じたわけだ。

記事バックナンバー
[第6回]地域イントラ総括、すべては安心と信頼のために
[第5回]誰がどうやって情報を発信するのか?
[第4回]常時接続で活発化した「普通の住民」のネット利用
[第3回]ダイヤルアップながら接続は完了。しかし、サーバの日常運用も住民自ら……
[第2回]接続インフラすら整備されていない状態からのスタート
[第1回]簡単には手に入らなかったブロードバンド環境

関連リンク
▼著者のホームページ

[森山知己,ITmedia]



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