リビング+:連載 2003/02/10 15:04:00 更新

田舎暮らしとブロードバンド〜地域イントラネット奮闘記(4)
常時接続で活発化した「普通の住民」のネット利用

ネットワークを構築しても、使ってくれる人がいなければ意味がない。自治会のWebサイトはそんなに頻繁に更新されるものでもないし、効果的と思われた掲示板にしても、新鮮味が薄れればアクセスするのは限られた人だけになる。しかし、ヘビーユーザーにとってのみの恩恵と思われたダイアルアップ接続からCATV回線利用の常時接続への移行で、意外にも……。

 そして、いつしか最初の実験事業は終了を迎える。「地域イントラネットとは何か」を深く考えるまではいかないものの、地域の記録、情報発信を楽しみつつ、過ぎ去っていった日々だった。事業終了を迎えたとき、ネットワークはすでに必要なものとして多くのメンバーに認識されていた。実験事業が終了した後も、県よりもっと身近な行政、町に助けてもらって運用を続けたが、機器のトラブルに見舞われたり、スパムメールの踏み台にされたり、いろいろと経験することになった。それも実験を独自継続した結果の苦労だったものの、一方で1999年には吉報が届く。岡山県の新実験事業「吉備高原都市地域イントラネットモデル事業」が2000年4月からスタートするという。とうとう、敷設ずみのCATV網を利用した高速常時接続インフラが実現されることになったのだ。高度情報化実験では、ほかにも岡山県内の数カ所で「地域イントラネット構築実験」が行われていたのだが、実験終了後も運用を続け、それなりの成果が認められたからと思っている。当然、ネットワークインフラ獲得への意志表示を、自治会として、また加茂川町役場として行ったことも大きかっただろう。

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本日撮影した日の出

常時接続への移行がもたらした変化

 ダイヤルアップのシステムからCATV回線を使った高速常時接続に移行した際に意外に思えたのが、「すでに使い込んでいたユーザー」よりも「あまり使っていなかったユーザー」への影響が顕著だったことだ。ヘビーユーザーにおけるレスポンス高速化による恩恵以上に、メールチェックなど必要最低限の利用にとどめていたユーザーのアクセス頻度が上がったことが大きい。人間とは不思議なもので、通信費を気にする必要がなくなった途端に、とりたてて用もないのにネットワークへアクセスし始めたのだ。さらには、PCやネットワークを「わかりにくい、とっつきにくい」と感じていたような人も、体験を重ねることでそれぞれ自ら使い方を学習し、積極的に広がりを求めるようになったのである。

 常時接続以前はというと、前回書いたとおり、メールの有用性はいくらか認識されていたものの、しょせんパソコンなんてよっぽど暇と金を持ち合わせていないと使えないモノという認識にもなりがちだった。それゆえ、メールの相手に「今日、メールを送ったから」という電話をしないと、パソコンを立ち上げてメールチェックしてもらえない、なんてこともあった。もちろん、画像のメール添付などとんでもないこと。なにしろ通信費が余計に……。

 そもそも、運用側の状況はどうだったのか? ダイアルアップ時代にすでに地域イントラネットのホームページは開かれていた。情報発信の即応性や、ユーザーのアクセス時間にとらわれない情報共有という点で、有効に機能してくれる期待がかけられてはいた。地域のイベント開催やゴミ収集などのお知らせ、カレンダーの共有、自治会の情報、行政の情報など、いろいろとコンテンツとなるような項目は浮かんでくる。しかし、なかなか期待どおりとはいかない。なぜなら、地域に占める絶対ユーザー数の少なさのうえ、前述のとおり利用頻度の低さもあり、行政の対応にしても「一部の人だけを対象としても……」となる。

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常時接続であるという環境は、実験ながら、地域イントラネットサイト上で配信するためのライブカメラの設置にもつながった。地域の魅力発信としての役割は言うに及ばず、地震など災害時の状況確認にも役立ってくれた。これは今朝の画面

 また、作業ができるメンバー側でも情報共有に対する認識の違いが生じ、本当に期待される情報発信対応はなかなか進まなかった。ともかく「軽いページ」を用意することのみが要求されたのだ。そうなると、情報を用意したくても範囲は限られてくるし、仕事の合間にスキルを持った数少ない発信者だけでは、更新も滞りがちになる。当然ながら、情報の更新が少ないサイトになれば、アクセスもされなくなる。

 そんな中で、多くのユーザーの参加を求めるためには、掲示板が有効だった。メールが使えるユーザーであらば、掲示板の書き込み・閲覧は可能だ。しかし、目新しさを過ぎれば、通信費のこともあり、なかなかアクセスもしてもらえない。飽きないように画像や音声、動画などのコンテンツを盛り込みたいけれど、それもできない。そんなジレンマが続いた……。

活発化した「普通の人々」のネットワーク利用

 しかし、前述のとおり常時接続への移行によって、ユーザーの利用が活発になった。これは大きい変化だ。普通の町の人が、ちょっとしたことでも検索エンジンを使って調べる。思いもかけない情報に出会い、好奇心も高揚する。もともと開かれていたはずのインターネット空間が、ようやく普通の人々に解放された姿だった。家庭の主婦の方々も、懸賞サイトやプレゼントサイトに頻繁にアクセスするように……。そのほか、趣味のサイト巡り、環境のこと、食品のことなど、主婦どうしの情報交換掲示板が開設されたのもこの頃だ。

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(左)ガーデニング周りのものはオンラインショッピングで購入
(右)一方で野菜などは朝市で簡単に手に入る

 ネットでの情報収集が日常的に行われることにより、オンラインショッピングへの移行も進んだ。そもそも、地方に住むデメリットのひとつに、店頭の品揃えが少なかったり、価格が割高ということがある。特に家電製品やパソコンおよび周辺機器などでは顕著だ。だからこそ、都市部以上にオンラインショッピングの利用が進んだのかもしれない。かなり年輩の方でも旅行のチケット購入やホテル予約などに利用しているという例を実際に聞いている。買い物には「町に出る」必要があり、移動のコストも手間もかかるから、なんていうシビアな感覚で利用している場合もある。住宅用品では海外からの直輸入まで行い、自宅の建築資材をオンラインショッピングで全部揃えたという方まで現れた。逆に、郊外型量販店やホームセンターなど、販売する側も早々と対応を始めていたりする。

 もちろん、食料品については、山で暮らしているほうが代価も安い。さらにはインターネットに頼らずとも、ある意味での安全性を持った(顔の見える?)品を手に入れられる手段が地方にはある。いまの時代、そのメリットのほうが先のデメリットよりも大きく感じられるかもしれない。

記事バックナンバー
[第6回]地域イントラ総括、すべては安心と信頼のために
[第5回]誰がどうやって情報を発信するのか?
[第4回]常時接続で活発化した「普通の住民」のネット利用
[第3回]ダイヤルアップながら接続は完了。しかし、サーバの日常運用も住民自ら……
[第2回]接続インフラすら整備されていない状態からのスタート
[第1回]簡単には手に入らなかったブロードバンド環境

関連リンク
▼地域イントラネットWeb kibicity
▼同、ライブカメラページ
▼著者のホームページ

[森山知己,ITmedia]



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