リビング+:連載 2003/02/17 17:00:00 更新

田舎暮らしとブロードバンド〜地域イントラネット奮闘記(5)
誰がどうやって情報を発信するのか?

地域イントラネットでは、情報発信の主体をどこに置くかで、その性格が大きく変わってくる。行政が主体になる場合、自治会などが主体になる場合、それぞれの情報が当然ながら中心になるわけだ。しかし、真の意味での「地域イントラ」を実現するなら、住民個々の情報発信も欠かせない要素となるのではないだろうか。

 東京と地方都市。何が違うかと言えば、一番に挙げられるのは人口集積度となるだろう。ひと口に人口集積とは言うけれど、それこそが、市場規模や経済効率、多様さがもたらす情報集積能力につながる。特別なことを除けば、どうしても新しい試みや物の導入は東京からということになってしまうのだ。では、ブロードバンド接続されることによって、そうした地方と東京の差、現実での環境変化を埋められるのか? 考え出される結論は、「(東京と)同じこと、同じ使い方をしていては何も変わらない。差を埋められない」となるかもしれない。

 私自身が期待していたことは、やはり情報に対するアクセスの面での効果であったが、それはあるともいえるし、またないともいえる。ブロードバンドにより、たしかにかなりの部分までは満足いくようになったが、その結果、逆にもどかしい部分が膨らむのも事実なのだ。それはとりもなおさず、実際に触れるということ。インターネット上の情報の多くがマルチメディア化してきているが、決してそれが「対象のすべてを表現」できてはいないのは周知だろう。ただし、あらかじめわかっていたことでもある。いくらかのトレードオフは生じるのだし、その意味ではブロードバンドの貢献は大きい。

PCやネットワークには慣れてもらえても、また新たな壁が……

 さて、地域イントラネットはどうなったか? 住民が自ら運用を行うかたちで進行したこの試み。インターネット、メールなどを通して、インフラの必要性はそれぞれに認識され、結果、接続環境自体もブロードバンド化。住民の情報アクセスに関するリテラシーも向上していった。

 そうなると、次の段階へと移行する。情報発信の取り扱いだ。町内会や住民自身での情報発信はどうする? そもそも、日常的な発信者とは誰なのか? という問題とぶつかることになる。行政情報は仮に行政が担当すればいいにしても、小さな町村や未整備地域が多い状況や、人材不足、情報公開に対する認識不足という要因もあって、まだまだそれだけではメインコンテンツとはなりえないようだ。それに、それ以外の地域内情報は誰が担当者になり、アップロードすればいいのか。

 住民の間にネットワークアクセスの輪は広がっても、情報発信という面では、まだ「デジタルディバイド」は消え去ってはいなかったのだ。これは、多様な生活者により構成される自治会、町内会内組織運営の問題へもつながる。たとえば、発した情報に関する責任の所在、ネットワーク上でのプライバシーということが語られ始めると、「ネット上でのそれなりの配慮を付加してWebサイトへの情報アップロード作業ができなければ、各活動組織長にはなれない」などと、本末転倒というかおかしな話になる。では、Web制作担当者を決め、自治会役員が命令してアップロードさせたり、情報発信を行いたい一般住民の分も代理発信させるかというと、そうもいかない。業務であればそれでいいだろうが、誰もがほかに本業を持つ普通の生活者の集まりである住民会においては難しい。

 それでも、情報発信は必要だ。単なる日常生活の記録が実は地域記録として重要だし、インターネットへ公開すれば地域発の情報発信ともなる。これまで実験を続ける中で、それが新たな出会いを生んだり、新しい定住者を引き寄せたりという事象を経験してきた。他愛のない自然の紹介なども重要なのだ。対外的に地域の価値を高めてくれるわけだし、内部的には再発見にもつながる。

 結果的に情報部会では、参加メンバーそれぞれが「苦」を抱えないあり方を探るうち、時間を経て結局、情報発信ボランティア的な動きをするようになった。「できる人ができることで参加する」ということ。自治会サイトにしろ、個人サイトにしろ、情報を代理発信するといっても、あまりに関係する部分に踏み込みすぎれば、責任の所在という問題もついて回る。トラブルにつながる可能性もある。あくまで実験とはいえ、微妙な問題なのだ。

写真

お祭りなどの大きなイベントのほかに、細々としたイベント類の告知やレポートも重要なコンテンツといえる

誰もが個々に情報発信できるように

 こうした動きと並行して、地域イントラネットを運営する研究会に技術部員として参加した私は、「記事発信支援システム」開発に関わった。情報発信のためのWebサイト運営のうえで必要となる技術レベルの低減、また、管理面でも簡易化が必要という現状認識からだ。HTMLフォーム上の質問に答える形式で、タイトル、紹介文などといった必要事項をテキストで送信し、加えて、ローカルPC上のバイナリファイル(画像、音声、ムービーなど)を[参照]ボタンをクリックして選ぶだけで、画像のリサイズ、インターネットに適した圧縮といった作業や、FTP転送を意識することなく、HTMLページを作成公開できる。もちろん、データの蓄積、再利用、管理、新着情報といったトップページ更新機能なども自動化したCGIのツールである。

 同様の仕組みはすでに商用プロバイダ、ニュース系サイトにも見られるが、個人のサイトでも使えるようにコンパクトにまとまった姿は、それなりの成果になったと自負している。現在、モデル事業成果として、フリーダウンロードも可能だ。

 その後、同プログラムを利用しての記事発信、蓄積などが行われ、それなりの注目も浴びたが、実際にネット環境が使えるモノになるにつれ、単なる遊びを超えて、さまざまな問題が露になってきた。まとまりをもった「地域として必要な情報」は何か? 本当に共有すべき情報・サービスは何か? すでにユーザー(住民)は広い世界、比較できるほかの世界を知ってしまったのだ。また、参加者が増加した状況では、「Web運営の主体は誰か?」などということも問題となってくる。ネットワーク環境が整備された結果、「個」としては、距離や時間にとらわれない新しい形態でのアクセス実現という明確な利点が見えたものの、「共同体」としては、限定された地域という枠組みの意味が問い直された姿だ。同じ趣味の仲間が集ったり、人間どうしの結びつきに距離を意識させないネットワーク環境で、地域という「距離単位による括り」の意味とは。それはまだまだ、これから先も考え続けなれば答えの出ないテーマかもしれない。

 いずれにせよ、多くの人が必要とし、日常的にアクセスしてくれるコンテンツの確保、および、その発信を誰が行うのかということが最大の課題だろう。すべてが関わる者の共同作業となるが、社会組織も統合・集約型から、ネットそのままに分散型となりそうな今日この頃。地域ネットの姿も、やはり個の集積になるのかも。テレビ番組で米国陸軍も組織運営の姿を変えつつあるという内容を観たが、これまでの活動を通して、組織ありき、集団ありきという発想では物事が括れないということを実感している。情報発信にしても情報共有にしても、地域に住まう1人ひとりをいかに有機的に結べるか? その形態こそが、次の地域イントラネットモデルとなるのではと思っている。

記事バックナンバー
[第6回]地域イントラ総括、すべては安心と信頼のために
[第5回]誰がどうやって情報を発信するのか?
[第4回]常時接続で活発化した「普通の住民」のネット利用
[第3回]ダイヤルアップながら接続は完了。しかし、サーバの日常運用も住民自ら……
[第2回]接続インフラすら整備されていない状態からのスタート
[第1回]簡単には手に入らなかったブロードバンド環境

関連リンク
▼地域イントラネットWeb kibicity
▼著者のホームページ

[森山知己,ITmedia]



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