リビング+:連載 2003/02/24 18:34:00 更新

田舎暮らしとブロードバンド〜地域イントラネット奮闘記(6)
地域イントラ総括、すべては安心と信頼のために

1カ月半にわたりお送りしたこの連載だが、当初の予定どおり全6回でひととおりの流れを紹介しつくしたので、ひとまず最終回とさせていただく。今回は、地域イントラネット構築の過程で得られた感想を述べつつ、総括とし、さらに、ホームネットワークにも触れておきたいと思う。

 地域イントラネット構築モデル事業に参加し、関わることによって見えてきたこと。それは、サービスとしての行政情報などは当然の機能として、同じ地域に住まう者として信頼の獲得や、お互いの安心感を醸成するための道具として、ネットワークやテクノロジーをともに使えないかという期待である。本来、距離や時間から解放されたメリットを享受できうる存在ではあるが、だからこそ、その機能を使って時代に即した住民間の絆を築くために使えないか、ということ。これはもちろん、より小さな、家族といった単位にも当てはまるかもしれない。

 実験の進行とともに、情報発信への責任の所在など、管理・運営面については難しさを感じることが多くはなったものの、住民自らによる意外な掲示板利用や印象的な出来事にも遭遇した。中山間地という地理的要因から、急な天候変化は通勤などにも大きな影響を及ぼす。ネットを利用して、雪や路面の凍結などをリアルタイムに知らせたり、出先から状況を問い合わせるといったことが行われたのだ。また、地域に大きな影響を及ぼした地震の際には、通常の電話回線や携帯電話が麻痺する中、稼働していたネットワーク回線が利用され、家族間の連絡や住民間の情報交換、ライブカメラを通じた確認などに有効に利用された。

 たしかに、ネットワークを地域という単位で運用するには、難しさがいろいろとあるのも事実だ。それでも誰か(家族かもしれないし、同じ地域に住む仲間たちかもしれない)を気づかう心の存在を再確認できただけでも、実験に参加した意味があったように思う。ネットワークインフラの普及に伴い、「地域イントラネット構築」という形態は今後あらゆる地域で進行していくと思うが、行政や企業の情報公開も含めて、すべてはともに暮らすものどうしの「安心と信頼のために」というテーマを提示して、私なりの総括としたい。

家族間の情報共有はホームネットワークで……?

 さて、追記として、以前少し触れたホームネットワークについても書いておこう。CATV回線を使ったブロードバンド導入と時を同じくして、家庭内のネットワークも劇的に変化を始めた。ISDN時代に知ったダイヤルアップルータの便利さは当然放したくないから、ブロードバンドルータは当初より導入。メールの利用が引き金になって、家族それぞれ1人1台のPCを利用するようになったため、各部屋からのアクセスが求められたからだ。当時、まだ一般への販売がめずらしい状況だったRJ45のモジュラーを購入し、壁の中、屋根裏にLAN配線をする工事を自ら行った。現在では無線LANを組み込んだノートPCが加わり、とりあえず、本当に「いつでもどこからでも」が家庭内に実現された姿となっている。

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(左)日曜大工気分で設置した家庭内LANのコンセント部(右)リビングに置かれたiBookはワイヤレス接続

 巷では、インターネット利用者の増加に比べて、ひと頃に比べると、いわゆる「ホームページ」を開設する人の割合が少なくなったと聞くことも多い。ネットワークにつながるというのは、日々進化する巨大なデータベースを「閲覧している」にすぎない姿かもしれない。それだけでもすごいことではあるが、個人的には今後もより積極的な意味・利用法も見つけていきたいとも思う。個人サイトもホームネットワークがもたらす変化の中では、また別の意味を持ってくる可能性があるように思う。ブロードバンド接続された環境では、ある意味ではホームネットワーク内なのか、インターネットなのかと意識する必要はない。地理的に遠く離れた家族や生活時間の違いといった生活スタイルの差を吸収し、それぞれを結び付けうる「マルチメディア・コミュニケーション・ツール」としての意味も出てくると思う。それはアルバムにもなりうるし、伝言板にもなりうるものだ。地域イントラネットのまとめでも書いたが、これも、すべてはともに暮らすものどおしの安心と信頼のためのものとして捉えられる。

 もちろん現在、パソコン、家庭用電化製品、そのほかの機器で、こうした姿を実現するものがすでに出現してきている。ただし、各々が独自に実現しているケースが多く、データの相互運用性は薄い。また、誰にでも受け入れられる単純な操作性・運用性が求められていることは、作り手側も感じているだろうが、まだまだ……。

オンラインゲームというコミュニケーション形態

 ブロードバンド接続が始まった当時、地域の住民を集めて、県の実験事業担当者が事業概要の説明会を行った。その中でゲームの可能性が語られる場面もあったのが、現在のネットワークゲームの姿を予見してというよりは、その内容からして「パソコンはゲームをするもの」といったわりと単純な思考プロセスにしか思えず、なんだか吹き出しそうになった。地域のネットワークインフラは整備できたものの、導入を促す立場として、家庭での利用法に具体的な姿やイメージを与えることができず、「ゲーム」という言葉が出たように私には見えたのだ。あれからずいぶん時間が過ぎた。今日のネットワークゲームの面白さは、すでに触れた方なら疑うことはないだろう。スタンドアロンでのゲームではなく、ネットワークを通して「人」を相手にゲームができるのだから。さらに、「人とのつながり」はゲームの中だけにとどまらず、関連サイトなどを中心に、すでに触れ合いのかたちをさまざまなネットワーク空間に広げているようだ。

 わが家で積極的にゲームを行うのは子供である。ある日のこと、PlayStation2のインターネット接続ユニットがほしいと言いだした。この地域の回線インフラは実験事業なので、プロバイダからの購入はできない。そこで、PC版ソフトの発売を待って購入することとなった。私もいくらか興味があったこともたしかである。最先端のグラフィックや、ネットワークゲームの応答性・操作性に興味がわいたのだ。

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 実際にゲームを始めてから、子供は確実にパソコンの前にいることが多くなった。勉強もせずにという心配は親の常として、子供にとっては今一番面白いことだそうだ。「何が一番面白い?」

「だって、人だもん」

 やはり、複数の人間が同時にプレイし、プレイ中のチャットなどを通して行われるコミュニケーションが、これまでにないゲームの現実感や広がりを形成しているようだ。

「すっごくいい仲間ができたよ」

「このゲーム、抜ける(プレイを止める)のが難しい。だって、つき合いもあるから」

 ゲームのみならず、通常のWebサイトやチャットなど、ネットワークを通して得られる出会いでは、相手に対してどの程度の実在感を得られるかはさまざまだろうが、これもまた距離などの実世界の枠組みを超えた新たなコミュニケーションの姿の1つに数えられるのだろう。ゲームで使われている技術にも目を見張る。子供を引き付ける洗練された表現や伝達の手法、操作性は、膨大なコストを注ぎ込み、さらにゲーム市場で淘汰された結果ゆえの高度なものだ。そこにネットワークという新たな要素が加わり、非常に面白い存在となった。そのノウハウがたとえば教育の現場で活用されたら……。その有効性も認められるのでは? 「ゲームなんて……」と最初から無視する大人たちもいるかもしれないが、インターネットを使ったこの1つの「世界」は、さまざまな見地から注目に値すると思う。

今という時代を照らし出すネット利用とは

 情報の扱いに失敗した巨大企業がいとも簡単に崩壊する姿は記憶に新しいが、このことは会社や組織にとどまらない問題のように思う。個人でも、どのようにして地域や社会における自分自身に対する信頼や信用を得ていくか、ある場合は仕事に対する能力を証明していくか、といったことを要求されるようになるだろう。すでにフリーでの仕事の現場では、当然のごとく見られる姿だが、名刺に刷り込まれた肩書きや紳士録などに書き込まれた情報を差し置いて、インターネットで流れる情報も関与してくる時代。私のような絵描きでも(世間一般には、ある意味では製造業の一種だ)、自分が作り出すもの(=日本画)の信頼性や信用度を高めたり、付加価値や関連情報を提供したりといったことにインターネットを利用する必要性を感じ始めている。日本人が不得手とされる個人の自己表現にしても、転職が一般化し、会社への帰属意識が変化する中、フリーの職業ばかりでなく、組織に属する人たちにも求められる時代となっていくのかもしれない。そして、インターネットはその手段として、今後も重要度を高めていくに違いない。

記事バックナンバー
[第6回]地域イントラ総括、すべては安心と信頼のために
[第5回]誰がどうやって情報を発信するのか?
[第4回]常時接続で活発化した「普通の住民」のネット利用
[第3回]ダイヤルアップながら接続は完了。しかし、サーバの日常運用も住民自ら……
[第2回]接続インフラすら整備されていない状態からのスタート
[第1回]簡単には手に入らなかったブロードバンド環境

関連リンク
▼地域イントラネットWeb kibicity
▼著者のホームページ

[ITmedia]



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