リビング+:連載 2003/05/22 21:07:00 更新

連載:enjoy@broadband.home.net
ホームサーバにも最適? NECの水冷PCのキーフィーチャーを試す

大手PCベンダーとしては初めて水冷システムを採用し、かつ水冷の効果を“静粛性”に求めた新「VALUESTAR」はNECの意欲作だ。通常時は20dB台前半という騒音しか発生しないため、常時稼働させておくホームサーバに適している。ただし、注目したいのはハードウェアだけではない

 近年、ノートPCの性能が上がるにつれ、そして自作PCが身近になるにつれて、徐々にメーカー製デスクトップPCに対する興味が失われてきた感がある。しかし、NECから発売された新製品は、なかなか興味深い存在だ。大手PCベンダーとしては初めて水冷システムを採用したこと。水冷の効果を“静粛性”に求めたこと。それに静粛性を活かしてホームネットワークサーバとしての役割を担わせようと、新しいソフトウェアを開発・搭載してきたことだ。

 NECの水冷デスクトップPCには、ファミリー向けの「VALUESTAR FZシリーズ」とニュースタイルユーザー向けの「VALUESTAR TXシリーズ」があるが、今回はTXシリーズの最上位機種を評価機として試用することができた。

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水冷マシンの全体像。ウォーターポンプはHDドライブの裏側にある。メーカー製だけあってスッキリとまとまった印象。大げさなイメージは受けない(クリックで拡大)

常時オンでも気にならない騒音レベルを達成

 NECのFZシリーズおよびTXシリーズに採用された水冷システムは、2月に米国サンノゼで開催された「Intel Developers Forum Spring 2003」で日立製作所が展示した、デスクトップPC向け水冷システムに準じたものだ。日立は以前から、PCをはじめとする電子機器で利用可能な、高信頼性、高耐久性の水冷システムのデファクトスタンダードを確立し、部品メーカーを通じて広く普及させようとしていた(記事参照)。

 今回、評価機で採用されているシステムも、日立および、日立と提携する部品メーカー、そしてNECの3社により、製品への実装をトライした成果である。最終的に水冷システムの標準化を目指しているとはいえ、実際に商品に組み込まれるのは今回のVALUESTARが初めてとなるため、効率の良い組み立てや部品配置、冷却媒体の流路レイアウトなどについて、出荷スケジュールギリギリの中で調整を続け、なんとか発売にこぎ着けたものだという。

 しかしその苦労のかいあってか、大手PCベンダーの量産機としては初となる水冷デスクトップPCは、そのメリットを生かしたすばらしい製品に仕上がっている。自作PC向けの水冷システムの場合、冷却容量を大きく取れるような製品構成とし、オーバークロック時の安定性を高めるなどの効果を目指したものが多い。しかし、本機では水冷のメリットを静粛性に求めている。

 プロセッサで発生した熱を冷却液に転じ、電源ユニット後ろに配置されたラジエーターで冷やす構造。ラジエーターは電源ユニットの冷却ファンから排出する空気で冷やす。12センチと大きめの冷却ファンをゆっくり回して空気を流すことで、低騒音を実現。実物を観察していると、ラジエーター部自身が排気用冷却ファンのサイレンサーの役目を果たしているようだ。

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電源部の12センチ排気ファンに取り付けられたラジエーター。サイレンサー効果もあるようでほとんど騒音を発生しない

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半透明プレートの向こう側にある黒い物体がウォーターポンプ。きょう体のふたを開けると、多少動作音が気になるが、閉めてしまうとそれもほとんど聞こえない

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CPUの冷却部。MPEG圧縮などの重い処理を行っても、それほど熱くはならない

 これによりPentium 4/3.06GHzをHyper-Threadingモードで動作させても、静かに動くサイレントデスクトップPCを実現している。実際には冷却液を循環させる小型ポンプの動作音が増えているのだが、風切り音が多い冷却ファンの音よりも周波数が低く、耳につきにくい。通常時は20dB台前半、最大負荷時でも30dB程度の騒音しか発生しないという。図書館の騒音レベルが28dB前後と言われており、よほど静かな部屋の中でなければ、動作音は気にならない。

 またプロセッサ冷却システムの静音化とともに、ハードディスクに関してもシーゲート製の家電向けハードディスクを用いることで気になる動作音を押さえ込んでいる。評価機には、NEC製のハードディスクビデオレコーダー「AX20」に内蔵されているハードディスクと同じものが装着されていた。ヘッドシーク時の騒音が抑えられているのが特徴だ。

 DVDドライブに関しても配慮されており、高速読み出しが不要なDVDビデオ再生時には回転数を落とすなどの処理が行われる。

 ただし評価機には、グラフィックボードとしてNVIDIAの「GeFORCE4 Ti4800」が装着されており、その冷却ファンが騒がしいという問題があった。最近の高性能グラフィックカードは性能が高い一方で、消費電力の高さとそれに伴う熱処理が問題になってきている。静かな水冷デスクトップPCの中で、もっとも騒がしいのがグラフィックカードというのは少々アンバランスだ。

 静かさを重視するならば、下位モデルを選択するか、もしくは(少々もったいないが)市販のファンレスグラフィックカードへの交換を検討するといいだろう。NVIDIAであればFX5200シリーズにファンレス製品があり、ATIテクノロジーズならばRADEON 9200、9600シリーズがファンレスになる。

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MSIブランドの「GeFORCE4 Ti4800」。静かなTXの中で最も騒がしい。高性能なボードだが、静粛性優先ならばファンレスグラフィックカードに交換することを勧めたい。なお、下位モデルに採用されているRADEON 9000ならばそれほど騒音は気にならない

 グラフィックカードの冷却音から逃れられさえすれば、本当に静かな環境を手に出来る。自作PCでノウハウを蓄積しつつ、コストをかければ、同クラスの性能で静かなPCを作ることも不可能ではないが、買ってきて電源をつなぐだけの量産機でこのレベルの静粛性を達成できているのは立派だ。これならば、常時オンのままでも、枕元にでもPCを置かない限りは騒音に悩まされることはないだろう。

PCネットワークのサーバとしては非常に優秀

 このように、本機は常時稼働させておくPCとして、非常に適したものとなっている。IEEE 802.11a/bデュアルバンドの無線LANをサポートしているため、インターネット接続共有機能を用いれば、無線LANを利用可能なノートPCのゲートウェイとしても機能させることが可能だ(この場合、無線LANはアドホックモード)。

 NECは、VALUESTAR TXシリーズを「ホームサーバPC」と呼んでいるものの、ハードウェアの面だけでそう呼称しているわけではない。ホームサーバとして機能させるためのソフトウェアも用意している。

 本機には「ネットコーディネーター」と呼ばれるソフトウェアがバンドルされており、PC間のファイル共有、プリンタ共有といった基本的なネットワークアプリケーションはもちろん、録画したテレビ番組や音楽、写真などをわかりやすく共有できる。ネットコーディネーターは、クライアントとなるPCにもソフトウェアをインストールする必要があるが、本機には他PCでインストール可能なソフトウェアパッケージも収められている。

 ネットコーディネーターは、ソニーのVAIO Mediaのように専用のサーバ機能をインテグレートしたものではなく、VALUESTARシリーズが元々持っているソフトウェアの機能を、わかりやすくビジュアルな操作で引き出すことに主眼が置かれている。

 たとえば録画したテレビ番組の共有は、元々「SmartVision 2.0」が持っているMPEG2のネットワーク再生機能を用いる。ネットコーディネーターではSmartVisionで録画された番組名などのディレクトリ情報を提供するだけだ。音楽や写真の共有も同様で、基本的にはWindowsのファイル共有機能を用い、その情報にたどり着くまでのガイド役をネットコーディネーターが勤める。

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「ネットコーディネーター」はWindowsやSmartVisionが元々持っているネットワーク機能をビジュアルインタフェースで簡単に使えるようにするツール。同一ワークグループで利用可能なリソースがアイコン表示される。ここではノートパソコンからVALUESTAR TXの録画番組一覧にアクセスしている

 このような仕組みのため、現時点ではPC同士でのコミュニケーションしかサポートしていない。ただ、その分、ネットコーディネーターならではの機能もある。たとえば、ネットコーディネーターを用いて録画テレビ番組を再生しようとすると、自動的に「SmartVision/PLAYER」(SmartVisionのネットワークプレーヤー)をインストールして再生するため、エンドユーザーはSmartVisionを強く意識しなくても簡単にネットワークを通じたビデオ再生を行える。

 ネットコーディネーターには、ハードディスク内にある任意のフォルダを、ネットワーク経由でサーバのハードディスクへとバックアップする機能がある。あらかじめ時間を指定しておけば、定期的なバックアップも可能。クライアント側からサーバとしているPCをWake On LAN機能で遠隔起動することも可能(有線LAN使用時に限る)なため、VALUESTAR TXをスタンバイ状態にしておいても機能する。

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バックアップ機能は、サーバに対してネットワーク経由の自動バックアップを行う機能。「Outlook Express」もしくは「Outlook」のメール、スケジュールデータ、アドレス帳などもバックアップ可能

 むろん、ハードディスクの故障率を考えれば、ハードディスクからハードディスクへのバックアップは盤石の手法とは言い難い。しかし、手軽にネットワーク経由で、しかも非常に簡単な手順でデータを二重化できる点は評価すべきだろう。

 またNECが最近の機種でサポートしている、外出先から自宅PCにアクセス可能にする「ドット・ゲートサービス」の受け皿としても、静音性の高い水冷デスクトップPCは非常に向いている。ドット・ゲートサービスを利用すると、自宅PCのメールやUSBカメラにアクセスしたり、携帯電話からテレビ番組の録画予約を行うことができる。

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ビデオと同じように音楽も共有可能。通常のWindowsファイル共有機能なのだが、タイトルなどの属性を含む一覧が見えるので扱いやすい

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こちらはフォトサーバ。同じくファイル共有機能の応用でフォルダを開くと……

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このように、Windowsエクスプローラで写真が収められたフォルダが開く

家電製品との連携が今後の課題か

 ネットコーディネーターは、複雑なPCのネットワーク機能を1つにまとめ、ビジュアル的にわかりやすく「ユーザーに使ってもらう」ためのソフトウェアとして作られた。その背景にある技術は既存機能の組み合わせであるため、信頼性も十分に高く、サービスとして起動していたサーバ機能がエラーを発生させるといった、出始めの製品にありがちなトラブルも経験しなかった。

 しかし、PCの機能を組み合わせたものであるため、家電製品との連携は望めそうにない。たとえばUniversal Plug&Playには未対応で、今後、一部のメーカーから出荷が予定されているUPnP対応のネットワークレシーバなどを、ネットコーディネーターで接続することはできない。そこまで相互運用性を求めないまでも、NEC製品であるAXシリーズとの連携はネットコーディネーターでサポートして欲しかったところだ。

 とはいうものの、PCの世界だけであれば優秀なサーバ指向のPCであることは間違いない。PCのメディアデータを再生できるネットワークレシーバ端末が増えてくれば、それに対するサーバ機能をソフトウェアで追加することで対応できるだろう。いや、NECには是非ともホームネットワークサーバというコンセプトを完成したものに仕上げていってほしい。

 本機に関して言えば、なによりも家庭内のサーバとして使うための静粛性に優れ、なおかつ最新の高性能プロセッサを搭載している点は、他製品にはない魅力と言える。今後はさらに小型のPCへと水冷システムが展開され、静粛性という要素がより広い範囲の製品に広がることを期待したい。

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▼121ware.com
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[本田雅一,ITmedia]



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