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2003/08/12 19:59:00 更新 |
シリーズ:20Mbps超ADSLの検証
24Mbpsの「その先」へ〜
各事業者がいっせいに20Mbps超サービスを開始したが、早くも“その先”が見え隠れしている。さらなる高速化を実現する技術のうち、今回は「ハイビットローディング」に注目してみよう。
ADSLの高速化はどこまで進むのだろうか? 7月に各事業者がいっせいに20Mbps超サービスを開始したが、早くも“その先”が見え隠れしている。既に、対応技術も開発が進んでいるようだ。
ADSLをさらなるステージに導く技術の1つが、たとえば帯域幅を拡大する「クアッドスペクトラム」(記事参照)だ。既に情報通信技術委員会(TTC)で承認を得ており、今後の商用展開が期待される。
しかし、高速化を実現するにはもう1つ、「ハイビットローディング」という手段も存在する。こちらは、米Centillium Communicationsが「副作用なく通信速度を向上させる」として強く推進する注目の技術。今回は、後者に焦点をあててみよう。
広帯域戦略の限界
具体的な高速化の方法に移るまえに、まずはADSL技術の復習から。たとえばG.dmtのフルレート8Mbps ADSLでは、26KHz〜1.1MHzの周波数帯域の中で、4.3KHzおきに計255本の搬送波(bin)を作り出し、データを伝送する。1つの搬送波は、最大15ビットの伝送能力を持ち、1秒間に約4000回の変調を行う。
図1.ADSLの仕組み
ユーザーにとって気になる“最大通信速度”は、「周波数幅(搬送波の数)」×「1binあたりに乗せるデータ伝送量」で割り出される。グラフで見ると、上りと下りで青色がついた部分の“面積”が、通信速度になるわけだ。20Mbps超サービスで利用されている“ダブルスペクトラム”は、この底辺を拡張することで面積(=通信速度)を増やそう――とする考え方。具体的には、G.dmtのADSLサービスでは138KHz〜1.1MHzまでを下り帯域に使っていたところを、これを138KHz〜2.2MHzに拡張することで速度向上を図る。
今後注目が集まるクアッドスペクトラムとなると、下り帯域をさらに3.75MHzまで拡張することが検討されている(なぜ4倍の“4.4MHz”でないかは過去記事参照)。
もっとも、電話回線を伝わる電気信号は、NTT局舎から距離が離れるほど減衰する。そして、実は高帯域を利用した信号であればあるほど、距離とともに減衰しやすい。
つまり、クアッドスペクトラムのように極めて広帯域を使うサービスは、NTT局舎からごく近い場所にいて、「高帯域の搬送波も減衰しない」ような、ごく限られたユーザーにしか意味がない。このあたり、一部の事業者に話を聞くと「クアッドで効果があるユーザーは、ダブルスペクトラムよりさらに少ないので……」と、導入にさほど積極的ではない様子もうかがえる。利用帯域の拡張だけでは、おのずと限界があるということだろう。
15ビット以上の搬送波を
壁に突き当たったように見えるADSL高速化だが、これを打開する高速化技術が、冒頭で軽く触れた“ハイビットローディング”だ。たとえば、CentillumはADSL向けの新技術として「eXtremeDSL MAX」を発表しているが(記事参照)、そのうちの1つ「MAX-HBL」が、まさにこれにあたる。
もう一度図1.をみてほしい。既に述べたとおり、「搬送波の数」×「1binあたりに乗せるデータ伝送量」=「通信速度」の関係が成り立つ。ここで、“横”(搬送波数)を拡大するのではなく、“縦”(1binのデータ伝送量)を増すことで“面積”を増やそう――と、いうのがハイビットローディングの基本的な考え方だ。
具体的には、AD/DAコンバータの分解能を向上させることで、各搬送波に15ビット以上をローディングする。Centillumによれば、帯域にもよるが「現時点で17〜18ビットを乗せることができる」。これにより、当然ながら上り・下りともに高速化が図れる。NTT局舎からの距離に関係なく、あらゆるユーザーの通信速度を全体的に向上させることが可能で、オーバーラップ技術(詳細は別記事参照)のように、上りの帯域と下りの帯域が競合するような心配もない。「副作用なく通信速度を向上させる」といわれる意味は、ここにある。
ハイビットローディングにより、距離にもよるが全体に速度向上が図れることが分かる
もっとも、この技術は現状、大きな足枷をはめられている。何の事はない、現状の規格では1搬送波あたりの最大搭載ビット数が、上限15ビットと定められているのだ。
しかし技術の進歩とともに、1搬送波に11〜12ビットしかローディングしていなかった時代は終わり、各事業者とも、限界までデータ量を詰め込んで伝送している(=フルビットローディング)。上限を引き上げることで、ハイビットローディングを実現させたいところだ。
以前と異なり、1搬送波あたり15ビットギリギリまでローディングするようになった。伝送データ量が“飽和”し、ビットマップが台形になっている。これがADSLの現状だという
2003年10月にはITU-Tの会合が開かれ、ADSLの新規格について話し合いが行われる。Centilliumはここで、上限を現状からさらに引き上げるよう、提案する予定だ。
また国際的な標準化を待たずとも、クアッドスペクトラムのように、TTCで先行して承認される可能性もある(記事参照)。Centilliumは、ほかの事業者も既に対応技術を開発済みだろうと推測する。規格さえ固まれば、ユーザーの前に実際に姿をあらわす日は、そう遠くないだろう。
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関連リンク
米Centillium Communications
[杉浦正武,ITmedia]