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2003/11/27 23:10:00 更新 |
地デジがCATVを変える?〜J-COMの場合
ジュピターテレコムは、地上デジタル放送の開始を契機としてインフラのデジタル化を一気に進める構えだ。同社の森泉知行社長は、テレビを端末とする双方向サービスにより競争力を維持・拡大していくことに意欲を示した。
ジュピターテレコム(J-COM)は11月27日、12月に開始する地上デジタル放送の再送信サービスに関する説明会を実施した。放送サービスのデジタル化では他社に遅れをとった感のある同社だが、地上デジタル放送の開始を契機としてインフラのデジタル化を一気に進める構え。同社の森泉知行社長は、テレビを端末とする双方向サービスにより競争力を維持・拡大していくことに意欲を示した。
ジュピターテレコムの森泉知行社長
森泉氏はまず、総務省のデータを示しながら、地上デジタル放送の普及という点でCATVの果たす役割が大きいことを強調した。放送開始まで数日に迫り、視聴者の期待も大きい地上デジタル放送だが、開始当初は視聴できる世帯が少ない点がネックだ。とくに関東圏では、UHF帯を一部使用する地上デジタル放送が既存のアナログ放送と干渉を起こす可能性があり、東京タワーの送信出力を14ワットに抑えているため、サービス開始時点で直接放送波を受信できる世帯数は約12万に過ぎない(NHK総合を除く民放各局の場合)。しかし、ここにCATVユーザーの数が加わると状況は大きく変わる。J-COM傘下のCATV局がかかえるユーザーだけを加えても、「開始当初の視聴可能世帯を200万世帯上乗せできる」(森泉氏)。
近隣エリアのアナ・アナ変換が進む2004年には、出力を920ワットまで上げ、674万世帯が受信できるようにする予定だが、最大出力の48キロワットになるのは2005年末まで待たなければならない(5月のNHK技研公開で撮影)
J-COMは、12月から関東エリアにある11社で順次再送信サービスを提供する予定だ。伝送方式は64QAMのトランスモジュレーション。STBは松下電器産業製の「TZ-DCH250」を使い、各デジタル放送とEPGのサービスを月額5480円で提供する。
CATVが衛星放送や地上波の番組を“同時再送信”(CATVにリアルタイムで流すこと)する場合、事前に各放送局との間で「同時再送信同意書」を交わす必要があるが、これは原則として“放送波が届くエリア”を対象としたものだ(記事参照)。ただし、今回は電波が直接届く地域が非常に限られるため、各局の放送エリアにあるCATVに限り先行して再送信が行えるよう、各放送局との間で調整を進めてきた(区域内エリア外再送信)。「いくつかペンディングの部分もあるが、基本的に各放送局に対する“同意申し込み”をすませた」(同社事業開発部の高橋邦昌マネージャー)。
CATVで受信するメリット
CATV経由で地上デジタル放送を視聴するメリットは、1台のデジタルSTBを導入するだけでBS/CS/地上波の各デジタル放送を受信できること。もちろん、UHFのアンテナの設置や調整を行う必要もなく、またテレビも従来のものをそのまま利用できる(ただし、ハイビジョンを視聴するにはD3/D4のD端子が必要)。「PDPなどに買い換えるとしても、デジタルチューナー非搭載の場合なら5〜10万円安いだろう」。さらに、ブロードバンド接続や電話サービス(J-COMフォン)など、さまざまなサービスを1本の同軸ケーブルで提供できるのも魅力だという。
これらの付加価値サービスを提供し、顧客平均単価(ARPU)を向上させるのもJ-COMの目的の一つ。地上デジタル放送の開始を機に放送サービスのデジタル化を一気に進め、将来の双方向サービスに繋げる構えだ。「CATV局にとって地上デジタル放送は大事だ。しかし、それだけではビジネスにならない」(森泉氏)。
CATVは変わらなければならない
J-COMが攻勢に出た背景には、CATV事業者が共通して抱く危機感がある。「長い間、“1地域1事業者制”という温室の中で地域独占を謳歌してきたが、いまやその原則は崩れ、一方で通信会社や電力会社が映像系サービスに参入しつつある」。事実、KDDIの「光プラスTV」やソフトバンクBBの「BBケーブルTV」、スカイパーフェクTV!がNTT地域会社や有線ブロードネットワークスと組んで提供する光波長多重技術を使った放送サービスなど、映像系のサービスが続々と登場している。
「CATVが生き残るためには、合従連衡によって大きなネットワークを作る必要がある。そしてCATVは、デジタル化したネットワークを使って新しいサービスを提供する会社に変身するだろう。逆にいえば、そうならないと生き残れない」。
同社は、地上デジタル放送の再送信にあたり、ジャパンケーブルネット、テプコケーブルテレビ、日本デジタル配信の3社と受信設備を共同利用する(記事参照)。これは、電波を直接受信できる東京都江東区に受信点設備を共同で設置し、ここからデジタルマスターヘッドエンドまで光伝送する仕組み。地上デジタル放送をきっかけとして大手事業者同士が手を組み、設備投資を効率化した点に注目したい。
EPG画面から番組をオーダーできるPPV
説明会では、新しいサービスロードマップも示された。まず、来春をめどにCSデジタルチャンネルの追加提供とPPV(ペイ・パー・ビュー)を開始する。CS放送などと異なるのは、センターに電話をしなくてもEPG画面から直接番組をオーダーできる「インパルス・ペイ・パー・ビュー」となる点だ。また、同時期には1局限定ながらVoD(ビデオ・オン・デマンド)のトライアルサービスも開始する。いずれもケーブルモデムを内蔵したSTBを使う、完全な双方向サービスだ。
ただし、こうした双方向サービスを提供するには、STBを再度置き換える必要があるという。同社が採用したSTB(TZ-DCH250)は、もともとBSデジタル放送向けのSTBをアップグレードしたもので、双方向通信機能を持っていない。このため、2004年2月頃に発表される予定の追加サービスでは、松下「TZ-DCH500」などハイエンドSTBの導入を検討していくという。
このほかにも、PVR機能の提供(HDDレコーダー内蔵のSTB)、加入者限定の地域密着型情報サービス、テレビ画面でのWeb閲覧やeメール、テレビ画面を使った電子商取引(いわゆるTコマース)、ホームセキュリティ機能なども視野に入れているJ-COM。インターネット接続サービスでも、「FTTH並みの高速サービス」やIP電話などを検討していく予定だ。一方、多チャンネル放送の周波数帯域を確保するため、アナログ放送は「早期に」廃止する方針だという。
「テレビを端末とするサービスを先行して立ち上げ、PC向けは今後の需要を精査しながら追加していく。双方向機能を活かした新しいサービスにより、今後5年間でCATVは大きく変わるだろう」(森泉氏)。
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[芹澤隆徳,ITmedia]