リビング+:特集 |
2003/12/25 23:59:00 更新 |
ファーストインプレッション:NEC「AX300」
アナログ地上波の録画機としては最高の使い勝手だが……
来年1月末の発売が予定されているNECのハイブリッドレコーダー「AX300」を試用する機会を得た。PCにも映像配信可能なハードディスクレコーダーという位置付けだったAXシリーズを大幅に機能アップし、その上でDVD録画機能を備えた本機。そのファーストインプレッションをお届けする。
来年1月末の発売が予定されているNECのハイブリッドレコーダー「AX300」を試用する機会に恵まれた。PCにも映像配信可能なハードディスクレコーダーという位置付けだったAXシリーズを大幅に機能アップし、その上でDVD録画機能を備えた本機。新開発のMPEG2ビットレート変換チップを搭載するなど、並み居るAV機器ベンダーの製品にも勝るスペックが魅力だ。
その豊富な機能は、発表されている機能やスペックからもわかるが、ここでは実際にリビングルームに置くAV機器としての使い勝手を中心に、そのファーストインプレッションをお届けすることにしたい。
むかって右側にスロットインタイプのマルチドライブを備えた「AX300」。2004年1月末発売予定
基本はハードディスクレコーダー
デザイン変更やDVD-RAM/Rドライブの搭載、アナログBSチューナー搭載といった変更を受けたAX-300だが、基本的な作りは「AX-10」「AX20」と共通と考えていい。ハードディスクを用いてテレビの視聴スタイルを拡張することに重きが置かれている。
たとえば番組表。リモコンには通常の番組表ボタンとは別に選局ボタンが用意されており、現在時刻の番組リスト、次のタイムスロットで放映予定の番組リストを専用ボタンで素早く呼び出すことができる。もちろん番組表を呼び出し、時刻ごと表示に切り替えれば同じ情報を得ることができるわけだが、日常的なテレビ視聴における操作の手軽さは見逃せないポイントだ。
現在時刻の番組リスト
常時タイムシフトにも同じことがいえる。AXシリーズは以前から、録画が行われていない時でも、視聴中のチャンネルを指定した時間分だけ常にハードディスクに記録している。このため、一時停止ボタンを押せばいつでも一時停止し、さらにはタイムシフトデータが存在しているところまではいつでも遡って見ることができる。
通常のハイブリッドレコーダーは、録画中の番組を追いかけ再生させることは可能でも、現在視聴しているライブの放送を遡ることはできない。選曲ボタンの使い勝手と共に、本機を「テレビの視聴スタイルを拡張する」製品と記した理由のひとつだ。
ただ、従来機の常時タイムシフトは、常にハードディスクの書き込み音が聞こえたり、MPEG2に録画後の映像を見ることになるため多少画質が落ちたり、チャンネル切り替え時に内部バッファをためるぶん、反応が遅れるといった欠点があった。
しかし、AX300はハードディスクの書き込み音が静かになり、従来機でわずかに気になった“ゴリゴリ”という音がなくなった。さらに、ライブ映像視聴時はハードディスクに記録しながら、そのままスルーで圧縮前の映像を表示するように改善され、画質やチャンネル切り替え時のレスポンスもよくなっている。
ADAMS-EPGとの組み合わせで“使える”おまかせ録画
NEC製のPC用テレビチューナーカード「SmartVision」用ソフトウェアの2.0以降で採用されている、キーワード検索による「おまかせ録画」もサポートされた。検索条件を指定して「MyEPG」(オリジナルの番組表)を作成し、オプションとして自動録画を設定する。
検索条件は最大3つまで。OR条件でキーワードを設定する欄が2つ(異なる欄同士のキーワードはAND条件となる)設定可能で、さらにジャンルとチャンネル番号で絞り込むこともできる。キーワードの入力は専用のWindows用アプリケーションから行うが、あらかじめたくさんのキーワードを設定しておくと、AX300の画面にキーワード一覧が表示され、それをリモコンで選ぶだけでいい。最大20個までのMyEPGを登録可能だ。
キーワード設定。欄の使い方でAND、ORの設定が可能だ
おまかせ録画設定。自動削除も設定できる
ソニーの「チャンネルサーバー」のように、ユーザーの嗜好に合わせて自動的に録画するといったインテリジェンスはないが、検索条件の指定が比較的細かくできるため、特に不自由を感じることはない。むしろ、AX300の方が使いやすいと感じるほどだ。
そう感じるもうひとつの理由は、本機が米Gemstarの「G-Guide」ではなく、テレビ朝日の「ADAMS-EPG」を利用しているからだろう。G-Guideは番組説明の内容が薄く、キーワードを設定してもうまくヒットしない場合がある。しかも番組名などは新聞のテレビ欄なみに省略表記になっていることも多い上、表記揺れも幅が大きい。さらにはジャンルの分類ミスや、そもそもジャンル属性のない番組も目立つ。ADAMS-EPGもG-Guideと同じ問題がない訳ではないが、情報量はずっと多く略語表記が少ないため、検索条件をうまく設定できる。
もっとも、ADAMS-EPGにも弱点はある。それはG-Guideに比べて放送エリアがわずかに狭いことだ。日本全国、ほぼ全域がカバーされているが、地方在住で受信チャンネルが少ない場合は、購入を検討する際にADAMSが受信可能なエリアか否かを確認しておくことを勧めたい。対応放送局は「http://www.tadv.jp/service/adams_p/network.html」から見ることができる。
この点に関しては回避策もある。ADAMSにはデータ放送だけではなく、インターネットからもダウンロード可能な「ADAMS-EPG+」も用意されている。Windows用のソフトウェアを用いれば、このデータをネットワーク経由でAX300にアップロードできるのだ。
NECの担当者は、将来的にはADAMS-EPG+にインターネットからアクセスする機能をAXシリーズに実装したい、と話しており、将来、ファームウェアアップグレードで対応できる可能性もあるだろう。
「PSX」にも負けないクイックレスポンス
もうひとつの長所は、さまざまな操作に対するレスポンスの良さだ。EPG表示やそのスクロールは非常に軽快で、クイックレスポンスを売り物にするソニー「PSX」以上の操作感だ。リモコンのボタン配置やボタンサイズなどが各機能に最適化されていないという印象はあるが、それを差し引いても魅力あるユーザーインタフェースである。
シーンサーチやブックマークサーチ、カット編集ではサムネイル表示も行われるが、全サムネイルを表示し終わるまで、どの場面でも0.5秒以内しかかからない。シーンサーチおよびカット編集時はサムネイル間の時間を0.5秒から最大5分まで切り替えながら場面を移動させ、実に快適に作業を進めることができる。
カット編集画面。全サムネイルを表示し終わるまで、0.5秒以内のクイックレスポンス
上下ボタンでサムネイル間ピッチを切り替え、左右でサムネイル間を移動する操作方法は、PC側で利用する「SmartVision/PLAYER」よりも快適な作業性だと感じるほど。カット編集時にGOP単位での指定しか行えないのが玉に瑕だが、AX-300に慣れてしまうと、どのハイブリッドレコーダーもかったるく感じるぐらい快速だ。
ただし、カット編集は内蔵DVDドライブでDVDビデオを作成する際に反映させることが可能だが、ブックマーク位置はせっかく設定してもDVD-Rには書き込まれない。ブックマークのチャプター位置への反映はDVD-RAM使用時のみに行え、書き込み時にはブックマーク反映をオプションで指定しておく必要がある。AX-300での快適なブックマーク設定ができるだけに、安価なDVD-Rメディアに対するチャプター位置設定が行えないのは残念だ。
くわえて、DVD-Rへの書き込み終了時は強制的にファイナライズが実行されるため、コンテンツの追記を行うことはできない。誰か別の人への配布用ならばDVD-Rがいいだろうが、コンテンツの保存はDVD-RAMを中心に考えるべきだろう。
DVD-RAMの扱いにも、若干ではあるが注意が必要となる。まずスロットインメカのため、ジャケット付きDVD-RAMを利用できない。また一度DVD-RAMに書き出したコンテンツをハードディスクから消すと、それを元に戻すことはできない。他社製レコーダーで作成したプレイリストは編集可能だが、AX-300上でプレイリストを作成することはできない。DVDに記録されている映像をHDDにコピーすることはできない。といったところだ。
録画したビデオを手軽にDVDに保存して残しておくだけであれば、AX-300でも充分という人は多いだろう。しかし東芝のRDシリーズのように自由度の高いDVD作成は、PCに転送してから行うことが基本といえる。
従来機から大幅に向上した画質
従来のAXシリーズはコンポジットビデオとSビデオの出力しか備えていなかったが、今回の製品ではD端子を備えた。ただしテレビ放送やテレビ放送を録画したHDD上の映像はD1出力となる(もっとも元ソースがインターレースということを考えれば、モニター側でプログレッシブ処理すればいいだけともいえる)。一方、DVD再生時にはAX-300の映像回路がプログレッシブ処理を行うことになる。
NECの資料には3-2プルダウンのアルゴリズムなどは書かれていないが、標準的な低価格プログレッシブDVDプレーヤー程度の画質は確保している。ただし、テレビ放送、HDD再生、DVD再生ともに、滲むほど赤が強く出てしまう。評価機はあくまでも試作されたもので、画質に関しては最終調整が行われていないとのことなので、製品版での改善に期待したい。また、本機には映像出力調整がないため、モニタやプロジェクターなどとのマッチングを、AX-300から行うことはできなかった。
ただし従来機からの進歩は大きい。従来機は信号レベルが低めで、明らかに他機器に比べて暗い絵作りになっていた。モニター側のゲインを上げても、ガンマカーブが異なるのか、シャドウ部は潰れ気味。しかし、AX-300では充分に他社ハイブリッドレコーダーと比較できるレベルにまで、全体的な画質は引き上げられている。
アナログ地上波の録画機としては最高の使い勝手、しかし……
AX-300の機能は、ハイブリッドレコーダーとしては破格のものだ。小気味よくリモコンに反応し、GUIも分かりやすい。PCのユーザーならネットワーク映像配信機能や動画転送機能に魅力を感じる人も多いだろう。その上、HDDレコーダーらしく、PVR的要素も持ち合わせている。常時タイムシフトは非常に便利だ。しかもAV機器として、前モデルよりも確実に進歩している。
CPRMに対応していないため、コピーワンスの放送がHDDにさえ録画できないことは、確かにネガティブな要素ではある。しかしアナログ放送はあと8年続く。地上デジタル放送で放映されているコンテンツも、ハイビジョンでなければ楽しめないものは、ほとんどない状態で、内容そのものはアナログで放送しているものと同じ。地上デジタル放送やBSデジタルに絡んで、CPRM非対応を嘆いているならば、その心配は無用だ。そもそも、現在のハイブリッドレコーダーは、D1相当の映像しか記録できない。困ることがあるとするならば、それはCSデジタルの録画において将来、コピーワンスばかりになってしまうことだろう。
このあたり、アナログ地上波に特化した録画機として割り切れるなら、AX-300は最高の使い勝手を提供してくれるだろう。ただしひとつだけ問題はある。動作音がほかのハイブリッドレコーダーと比べると格段に大きいのである。内部にはCPUファンもあるが、最も目立つのは電源部のファン。
電源部のファンはサーバモード時にも動作し続けるため、PCに対して常に映像配信を行いたい場合、ずっと電源ファンが音を出し続けることになってしまう。テレビ視聴中ならば、多少も音もテレビ音声にマスクされるが、テレビを見ていない時にサーバモードにしておくのは、少々辛いという人もいるだろう。
またネットワーク映像配信機能の存在や、PVRとしての使い勝手を考えると、もうひとつチューナーが入っていれば、と思うのは僕だけではないと思う。本機がダブルチューナー構成ならば、その魅力はより一層広がったハズだ。またPCのHDDに置かれた音楽や映像を再生する機能も欲しい。あるいは他のAXシリーズが配信する映像を別のAXが再生するといった使い方があってもいい。
NECではファームウェアアップデートでUSBハードディスクの接続や、ネットワークメディアプレーヤーとしての機能を追加することを検討しているという。まだ発売されていない現状、気の早い話ではあるが、本機の特徴を活かすためにも、是非ともアップデートに期待したいところだ。
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[本田雅一,ITmedia]