ブロードバンド放送前夜:グローバル化する米CATV業界再編と取り残される日本米国発、ITトレンド(1/3 ページ)

2015年5月、業界3位のチャーター社が2位のタイム・ワーナー・ケーブルを買収した。昨年から始まった米ケーブル放送業界の再編劇が、いよいよ終盤を迎えようとしている。ブロードバンドとグローバル化に翻弄されている米国のケーブル業界を追ってみよう。

» 2015年09月10日 10時00分 公開
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 2015年5月26日、業界3位のチャーター(Charter Communications)社が同2位のタイム・ワーナー・ケーブル(Time Warner Cable、以下TWC)を567億ドル(注1)で買収した。昨年から始まった米ケーブル放送業界の再編劇は紆余曲折の末、いよいよ終盤を迎えようとしている。一時はTWCと買収合意に達した米CATV最大手のコムキャスト(Comcast)社だが、政府の反対から断念。その1カ月後にチャーター社がTWC社と業界10位のブライドハウス(Bright House Networks)社の2社同時買収を達成した。

 同時期、フランスの通信事業者アルティス(Altice)社が業界5位のサッドゥンリンク(SuddenLink Communications)を買収し、米国のCATV業界はグローバルな再編に巻き込まれた格好だ。ブロードバンドとグローバル化に翻弄(ほんろう)され、既存業界が音を立てて崩れようとしている米国のケーブル業界を追ってみよう。

再編のキャスティングボート、TWC

TWC買収に関わった3トップ。右からTom Rutledge氏(CEO、Charter)、Rob Marcus氏(CEO、TWC)、Michael Fries氏(CEO、Liberty Global)INTX2015で筆者撮影

 まず、チャーター社によるTWC社、ブライトハウス社の同時買収をまとめてみよう。

 2009年3月に大手番組制作会社タイム・ワーナーから分社後、TWCはビデオ契約者の減少に歯止めが掛からなかった。例えば、同社は昨年度約40万のビデオ加入者減少に直面しており、これはケーブル主要7社で最大の数字。同社の主営業地域であるニューヨーク地区でケーブルビジョン(Cablevision System)やベライゾン(Verizon Communications)などと競争を繰り返しているためだ。

 しかし、同社の株価は分社後、一貫して上昇を続けている。それは家庭向けブロードバンドの加入者増に加え、中小企業向けプロバイダー事業でも業績を伸ばしているせいだ。同社はクラウド・サービスなどにも手を染め、やや大雑把にいえば、成長力を失った放送事業から成長が期待できるブロードバンド事業へ構造改革を急速に進めてきた。

 そこに目をつけたチャーター社(Charter Communications、米CATV3位)は13年11月、約6兆1000億円の買収額を提示しTWC買収に乗り出した。しかし、TWCは「値段が安すぎる」と提案を拒否し、価格の上積みを求めた。ちなみに、今回のTWC買収額は約6兆8000億円と、前回より5000億円以上のプレミアムをチャーターは支払っている。

 今回、チャーターはTWCと買収合意に達するまでに、約1年半という長丁場になったわけだが、その理由は、コムキャストによる買収割り込みがあったためだ。

TWCがコムキャストを好んだ理由

連邦政府の反対でTWC買収を断念したBrian Robers氏(Chairman, Comcast)INTX2015で筆者撮影

 チャーターの親会社、リバティー・グローバルは「CATV業界の買収王」ジョン・マローン会長が率いる世界最大のCATV事業者だ。マローン会長の買収哲学は、LBO(Leveraged buyout)方式。LBOとは買収先の資産を抵当に金融機関から資金調達する方法で、買収された会社は、巨額の債務を抱え込むこととなる。

 LBOは市場評価額を無視した高額買収が可能だが、それを引き金に人員削減、優良部門の売却、新規事業の凍結と言った悪影響が出る。そこでチャーターは、買収パートナーとしてコムキャストに声をかけ、買収負担を減らず共同買収を選んだ。

 しかし、コムキャストを巻き込んだことは、大きな失敗だった。14年2月13日、コムキャストは452億ドル(約5兆5000億円)でTWCの単独買収を発表した。買収額はチャーター提案よりも低いが、コムキャスト側は全額株式交換方式。TWCは債務の懸念がないコムキャスト提案を選んだ。

 ちなみに、コムキャストがチャーターからTWCを奪ったとはいえない。コムキャストはTWC単独買収の見返りとして、チャーターとロサンゼルス地区でのスワップ契約やCATV合弁会社設立などを約束(注2)しているからだ。その意味では、買収主体がチャーターからコムキャストに変わったが、2社による共同買収の実態は変わらない。

 一方、ケーブル業界トップ2社の合併に、連邦議員や市民団体の間では「独占」への懸念が広がった。

 ハイテク系市民団体は10万名を超える反対署名を集めて司法省と連邦通信委員会に提出した。また、連邦議会の上院/下院司法委員会も14年春、同買収に関する議会公聴会を開催した。料金問題、サービス内容、番組制作会社への調達圧力などに質問が集中したが、コムキャストは「ブロードバンド放送などでビデオの競争環境は活発化しており、同買収で利用料金が上がるなどの弊害はない」と答弁している。

 一方、放送や通信業界は、もしコムキャストのTWC買収が認められれば新たな大型買収合併ができると、当時は期待を高めた。例えば、米スプリントの親会社ソフトバンクが、そうした期待を胸にTモバイルUSの買収に奔走した。

(注1)本原稿執筆時点で、買収額はニューヨーク・タイムスやウォール・ストリート・ジャーナル、ロイターなどで567億ドルから551億ドルと食い違っている。購入はTWC株を195.71ドルをベースに現金(100ドル)と新規発行株で支払う。証券取引委員会に提出される書類を待たなければ正確には分からない。

(注2)コムキャストとチャーターとは、TWC買収成立を前提に、総額200億ドルに達する加入者のスワップ(交換)契約を締結した。対象となるユーザー数はロサンゼルス市を含む28万世帯。最初にコムキャストがTWC(オハイオ、ウィスコンシン、ケンタッキー、インディアナ州など)の140万加入をチャーターに現金で売却する。次いで、チャーターのロサンゼルス市加入者180万をコムキャストに売却する一方、TWCの同地区160万加入をチャーターが獲得する。これにより両社はロサンゼルスでのシステム合理化が進む。最後に、コムキャストはオハイオ、ミシガン、ミネソタ、ウィスコンシン、テネシー、インディアナ、アラバマの各州にまたがる250万加入を分社し、新CATV会社を設立してチャーターと共同経営する。

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提供:日本電気株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2015年9月30日

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