慢性化する都心のオフィス街での「ランチ難民」。老舗企業向け弁当メーカー「あづま給食センター」がITを活用した弁当宅配サービスに取り組む。職場の総務担当を通さずキャッシュレスでも決済できるのが特徴。
都心のビジネス街で慢性化している「ランチ難民」問題。特にIT企業の集積するようなエリアでは、お昼時の飲食店に来客が集中しがちだ。コンビニエンスストアや、大型のオフィスビルであれば社外に出る際に乗るエレベーター前にすら、長蛇の列ができてしまうことも。「貴重な昼休みが潰れてしまう……」と、毎日うんざりしているビジネスパーソンもいるのではないだろうか。
そこで脚光を浴びているのが、職場にいながらにして弁当を受け取れる企業向けの宅配サービスだ。ただ、ユーザーが注文・決済する際の手続きがちょっと煩雑だったり、注文の取りまとめや代金の集金といった事務作業に企業の総務担当者が追われたりしてしまうケースも少なくない。
ビジネスパーソンや企業総務の貴重な昼休みをどう守れるか。この一見地味ながら切実な問題に対して取り組んでいるのが創業50年を越える弁当メーカー、あづま給食センター(東京都葛飾区)だ。打ち出しているのはITを活用したキャッシュレスの配達サービス。企業で働くユーザー個人が、職場の総務担当を通さずにスマートフォンのアプリや専用端末から、弁当を数クリックで直接注文できるシステムを構築した。
近年、東京・渋谷エリアを中心に、ITベンチャーによるオフィス向け弁当宅配事業への参入が相次いでいたが、弁当メーカー側がITを導入して独自サービスを展開する事例は珍しい。あづま給食センターの、弁当作りという「アナログ」とITという「デジタル」の異色な技術の組み合わせは、オフィスのビジネスパーソンのランチ事情をどう変えるのか。
あづま給食センターは東京都内の大部分(葛飾区・江戸川区・墨田区・台東区・北区・足立区・江東区・千代田区・港区・品川区・中央区・文京区・荒川区・新宿区)と千葉県市川市・船橋市が配達エリアとしている。約500社に1日約4500食を届けている。加えて、2015年ごろからITを活用したキャッシュレスの弁当発注システムに本格的に取り組み始めた。
提供する弁当は日替わりのメニューが1種類で、1食450円。注文時間は導入企業の立地によってわずかに変動するが、ユーザーが当日の午前10時前後までに注文すれば弁当が職場に届く仕組みだ。
本サービスの最大の特徴は、導入企業の従業員が職場の総務担当などを通さず弁当を直接注文・支払いできるキャッシュレスのシステムだ。ユーザーはスマホの専用アプリか、職場に設置された端末を使って注文する。
決済手段には「PayPal(ペイパル)」「Yahoo!ウォレット」「楽天ペイ」を採用した。「POINT・BENTO(ポイント・ベント)」という独自のシステムを設け、決済すると「Tポイント」や「楽天スーパーポイント」がたまるようにしてユーザーの利便性を高めた。決済端末から「suica」や「PASUMO」など12種類の電子マネーを使い注文できる「OBENTO‐PIT(オベント・ピット)」も打ち出している。
ユーザーはスマホや端末で3クリックの操作をするだけで弁当を注文でき、現金を使う必要も無い。加えて売りにしているのが、これまで弁当の注文・配達のたびに企業の総務担当者が負担させられていた事務作業の解消だ。
あづま給食センターの古川直社長によると、本サービスの導入企業からよく寄せられるのが、総務担当者の「弁当の注文や集金の業務から解放されて本当に良かった」という声だという。
古川社長によると、総務を日々悩ませている意外な業務が、弁当配達に伴う事務作業だ。「弁当の注文を従業員から取りまとめたり代金を集めるのは大変な業務。総務の人は自分もお昼休みを取りたいのに、従業員の弁当のために潰れてしまうこともある。集金業務をしたくないから宅配弁当を導入していなかったという総務の人の声も聞いた」(古川社長)。
古川社長は、弁当メーカー自身が独自のITサービスを構築している利点も強調する。ITベンチャーが興した弁当宅配事業では、注文・配達システムは自前だが、弁当の製造については外部の専門業者に委託しているケースも少なくない。あづま給食センターはメーカー自身が製造・配達・支払いシステムまで担うことで、できるだけコストダウンを図り価格面で優位に立てるように工夫しているという。
弁当配達にIT化によるキャッシュレスを組み合わせた本サービスは現在、21社で導入されている。多くは品川区や渋谷区、港区といったIT企業が集積するエリアのオフィスに入居している企業だ。最近では丸の内ビルディング(東京都千代田区)や、東京ミッドタウン日比谷(東京都千代田区)といった大型のオフィスビルからの注文も来るようになった。
ランチの注文に時間を掛けたくないビジネスパーソンや、職場の弁当宅配の集金業務に苦しむ総務担当者らのきめ細かいニーズに応えていったあづま給食センターのサービス。他の弁当業界の企業と同様、もともとITとはあまり無縁の無かった同社だが、キーエンスで法人向けコンサルティング営業を経験したり、経営大学院でマーケティングやサプライチェーン・ERPについて研究するといった異色の経歴を持つ古川社長によって、急速なIT化を遂げつつある。
同社が現在開発を進めているのが、キャッシュレスの決済システムのさらなる利便性向上だ。現在、OBENTO‐PITの導入企業は端末を社内に置く必要がある。場所を取ってかさばる上、レンタルしている分の単価が、20円分だけだが弁当の価格に上乗せされる仕組みになっている。
ユーザーや顧客企業が本サービスをもっと受け入れやすくするため、古川社長らが開発を進めているのが端末の代わりとなる特殊な「シール」だ。QRコードのような機能を持つ2種類のシールを紙のメニュー表に貼って職場に置いておけば、端末の代わりに機能してくれるのだという。
ユーザーはまず、スマホを1枚目のシールの近くにかざすことで、スマホの画面が反応する。その日の日替わり弁当の注文画面が表示され、クリックすることで注文を確定させることができる。次に2枚目のシールにスマホをかざせば、やはり反応して画面上でキャッシュレス決済が完了するという仕組みだ。シールは同じものを貼ったままでよく、基本的に貼り替える必要はないという。
シールの細かい仕様は調整中だが、古川社長によると20年内にも導入を開始したいとしている。端末をシールに置き換えることでコストを下げ、弁当の料金をより抑えることで普段使いの弁当宅配のニーズを掘り起こしていく方針だ。
他にもテクノロジーを専門とする子会社の立ち上げも検討しているなど、あづま給食センターの「IT×宅配弁当」に狙いを定めた取り組みは止むことがない。
12年前には海外進出も果たし、ニューヨーク、ニュージャージーでもお弁当の販売を始めている(参考サイト)。現地でも16年ごろからスマホやタブレットを使ってニューヨーカー向けにキャッシュレスで弁当の注文・販売・宅配に取り組む。
オフィスや家庭など身近な場所に転がっている切実な課題を、ITの力で解決する。近年のベンチャーが新サービスを打ち出すきっかけとしては極めて一般的なものだ。
ただ、あづま給食センターはベンチャーでなく老舗だ。しかもITとは一見対極にあるように見える弁当配達というアナログな世界から、あえてテクノロジーを積極的に取り入れることでこの課題解決に挑んできた。「うちはお弁当屋さんとしてたまたま、この弁当宅配における問題点を発見した。手段は別にITで無くても良かったが、たまたまITがはまった」(古川社長)。アナログとハイテク、両方の技術を“いいとこ取り”することでランチ難民問題の解消に取り組む、同社の挑戦に今後も注目が集まる。
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提供:株式会社あづま給食センター
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2019年3月31日